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このタイミングでこそ『プレセプシン』

少し遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。かなり更新のペースが落ちていますが、まぁ、ボリューム少なめの月刊誌として読んでいただければ(^^;) ちなみに、週刊医学界新聞の連載も中盤に差し掛かっていますので、是非ご覧くださいm(_ _)m(http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03206_03)。

 

 

さて、今年の一発目は『プレセプシン』でいってみようと思います。すでに一部の救急外来では使用されていると思いますし、その有用性を考えると、数年以内にかなりの勢いで広まることが予想されます。だ・か・ら・こ・そ!今のうちに押さえておいてもらいたいんです。プロカルシトニン(以下PCT)も臨床応用される前はその解釈に対して色々議論されていたのですが、広まってしまうとやはり“CRP状態”(いい意味でも悪い意味でも)になっています。β-Dグルカンしかり、BNPしかり。恐らくこれから長く使う項目になりますので、まだ使い慣れていないこのタイミングでしっかりした解釈を意識しましょう。

 

 

プレセプシン(以下P-SEP)は「敗血症に移行する前から血中濃度が上昇する蛋白」として2002年に命名されました。細菌が血中の顆粒球等に貪食された際、同時に取り込まれた可溶性CD14がカテプシンDなどの消化酵素により消化され、その一部がP-SEPとして血中に放出されると考えられます(図)。

 

 

%e3%83%97%e3%83%ac%e3%82%bb%e3%83%97%e3%82%b7%e3%83%b3Naitoh K, Shirakawa K, Hirose J, et al. SEPSIS 2010; Poster: P-19

 

 

ちょっと小難しい話になりますが、可溶性CD14はLPS(lipopolysaccharide)や他の細菌リドカインと結合し、内皮や上皮細胞などCD14を持っていない細胞を活性化させます。CD14は悪性腫瘍等でも上昇しますので、一考するとCD14に関連したマーカーは偽陽性が多くなりそうです。でも、敗血症における可溶性CD14とプレセプシンを比較した報告では、両者に相関性がなく、より敗血症の診断や重症度評価に関連していたとのことです(遠藤重厚他:敗血症診断マーカーとしてのプレセプシンの意義;モダンメディア60巻10号2014.)。また、LPSは内毒素、いわゆるエンドトキシンで、シグナル伝達経路を介して種々の炎症性サイトカインの分泌を促進する作用を持ちます。PCTはLPSを産生刺激として上昇しますのでこの点は同じですが、大きな違いがあります。P-SEPは、単にLPSが存在するだけでは上昇せず、菌が存在する場合にのみ上昇するマーカーなんだそうです。さらに、産生臓器がほぼ顆粒球ですので、より細菌感染症に特異的な訳です。

 

ごちゃごちゃしちゃったんでいったんまとめると、P-SEPは「CD14が関連するにも関わらず、感染以外でのCD14上昇では上がりにくい」「PCTと違い、LPSが存在するだけでは上昇しない(細菌がいないと上がらない)」「産生臓器がほぼ顆粒球」といった特徴がある訳です。表にまとめてみます。

 

【バイオマーカーとしてのP-SEP、PCT、CRPの比較】

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実際、どの程度の診断効率があるかが大切ですよね。色々な報告がされていて、軒並みPCTより良いようですが、単独の施設での臨床研究が多くどうしても母数が少ない報告になっています。で、ちょっとズルをして検査会社のホームページのデータを拝借。ただ、この報告も150例なんですね~。ちょっとパンチ弱いかな・・・。

 

【プレセプシンのROC曲線と診断効率】

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http://presepsin.medience.co.jp/presepsin/clinical

 

さらにP-SEPの特徴として挙げられるのは、「応答時間の速さ」「半減期の短さ」です。2013年にトリノの2つの大病院の救急外来で敗血症、敗血症性ショックの疑われた106人の検討では、敗血症の早期診断や予後予測に有効だったと報告しています(ただ、この研究では、診断特性はPCTの方が上と報告していますが・・・)(Critical Care 2013, 17:R168 Published:2013-07-30)。もちろん、前述のホームページでも重症度別の分布に関して掲載されています。健常者、非感染性SIRS、非SIRS感染症、敗血症、重症敗血症を対象にP-SEP値を比較しており、重症度が上昇するに伴い測定値も上昇します。

 

【プレセプシンの重症度別分布】

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J Infect Chemother 2011; 17(6); 764-769.

 

 

これ以外にも色々なデータが報告されていますが、キリがないのでこの辺でP-SEPのポイントをまとめてみます。

 

 

  • ž   可溶性CD14が生成に関わっているが、感染症以外では上昇しにくい
  • ž   生菌がいないと上昇しない(PCTは炎症性サイトカインがあれば上昇する)
  • ž   産生するのがほぼ顆粒球なので、細菌感染症でより上昇しやすい
  • ž   カットオフ値を500pg/mLとすると、PCTより診断効率が少しだけ高い
  • ž   応答時間が速いため早期診断に使いやすく、かつ半減期がPCTに比べてかなり短いため、よりタイムリーな状態の評価に向いている
  • ž   現時点では大規模なスタディが組まれておらず、PCTに比べてエビデンスレベルは高くない
  • ž   スタディ自体が2015年以前のデータを元に組み立てられているものがほとんどで、2016年に提案されたqSOFAを利用した敗血症の定義に当てはめた検討がされていない
  • ž   PCTで偽陽性になる外傷や手術など全身に侵襲が加わった状態では上昇しないことは分かっているが、偽陽性・偽陰性に関してはまだ検討が必要な段階(ステロイドの影響はおそらくなさそうだが、透析患者や血管炎などでは上昇することが報告されている)

 

 

管理人の現時点でのP-SEPへの印象は「何となく良さそうだし、敗血症の早期発見や重症度評価には使えそうだけど、エビデンスも少ないしPCTほどのインパクトはまだないな」といったところです(関係者の皆様申し訳ありませんm(_ _)m💦)。でも、早期の治療介入が予後に大きな影響を与える敗血症診療にとって、大きな武器になることは間違いありません。日本発の検査です。大切に使っていきたいですね。

 

脳からの警報!『慢性疲労症候群』

以前に“難病”“奇病”と言われていたものが、現在では当たり前になっていることがあります。例えば、以前このブログでも取り上げた『睡眠時無呼吸症候群』。今でこそ一般の方でも知っている病気ですが、病名が付いたのはちょうど40年前、日本で知れ渡ったのはせいぜい25年程前で、当時症状のある方は、「単なる寝不足」程度に扱われていたようです。そういった意味では、『線維筋痛症』や『髄液漏出症候群』なんかも急上昇(?)な疾患です。

 

 

さて、こんな『未知の病気だったランキング』の中で、着々と地位を築いているのが『慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome; CFS)』です。この病名って、結構弊害ありそうな気がしませんか?「私、慢性疲労症候群なんです」→「俺だって慢性的に疲労してるよ!」って突っ込みが入りそうな・・・。とりあえず、医療者である我々は誤解のないようにしましょう。今回は、ちょっとアカデミックに攻めてみます(-ω-)/(笑)

 

 

まず『疲労』について。疲労とは、簡単に言ってしまえば『脳からのアラーム』です。三大生体アラームとして『痛み』『発熱』『疲労』があり、『痛み』の原因物質/伝達物質としてブラジキニン、プロスタグランジン、ノシセプチン、ニューロキニンが知られており、そのリセット因子としてセロトニンやノシスタチンがあります。『発熱』も同様に原因物質/伝達物質が細菌内毒素、インターロイキン、プロスタグランジン、リセット因子がα-MSHなど。では『疲労』はというと、リセット因子として抗酸化物質は知られていますし、原因物質/伝達物質としても酸素ラジカル(抗酸化力)がほぼ確定しています(その他、サイトカインやアミノ酸低下などです)。で、慢性の疲労とは『酸化ストレスと抗酸化力のバランスの破綻』が原因なわけです。

 

                 急性期     亜急性期    慢性期

酸化ストレス vs 抗酸化力     ↑↓         ↑→                ↑↓

 

これが、CFSの病態の一つです。

 

 

では、CFSの診断基準をみてみましょう。一般的なのは以下のものです。

 

厚生省CFS診断基準試案(平成73月、一部改変)

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なんとな~く感染症っぽいなって思いませんか?実はこれ、1984年に米国CDCが行った研究が元になっているからなんです。1980年代前半の米国はHIVで大騒ぎしていた時代。CFSに関しては同時期に行われたEBV関連の研究により出てきた概念なんです(結局、EBVとの関連はないと判断されています)。ちなみに、上記の診断基準を満たさない場合も『特発性慢性疲労』の病名がつくことがあり、しっかり保険適応病名です。

 

 

感染症じゃないとすると、どうして熱が出るのか?これも、最近は少しずつ分かってきています。CFSの患者さんに特殊なPETを撮影すると、帯状回、偏桃体、海馬、橋、中脳、視床など様々な部位で、健常者に比べて神経炎症が増加しているようです。特に、視床の髄板内核という、覚醒と関連する部位の炎症が目立つと、大阪市立大学疲労クリニカルセンターからの報告があります。この部位は全身の免疫系や内分泌代謝系にも影響を与える場所なので、様々な症状を呈してしまう・・・ざっくり言えば、パーキンソン病や多発性硬化症と似たような病態なんです。これが二つ目の病態。何か「ガッテン!」ってなりませんか(*^^*)!?実際、ヨーロッパではこの炎症の側面を強調した『筋痛性脳脊髄炎(ME; Myalgic Encephalomyelitis)』と呼ばれています。

 

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このように病態が明らかになっていくことを受けて、2015年2月10日に米国医学研究所から新たな病名として『全身性労作不耐症:SEID(Systemic Exertion Intolerance disease)』が提案されました。これは、病名の中に「労作不耐」という中核症状を明確に入れ、かつ「症候群」ではなく、「病気」であるということを明示するために“disease”をつけるといった意味合いです。診断基準は以下の通り。

 

米国医学研究所(IOM)SEID診断基準(仮)

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この診断基準のより発展的なところは、併存疾患の存在もOKとしているところです。確かに、こんな疾患との鑑別も悩みどころですからね。

 

併存疾患

線維筋痛症/筋筋膜痛症候群/顎関節症/過敏性腸症候群/間質性膀胱炎/過活動膀胱/レイノー現象/僧帽弁逸脱症/うつ病/偏頭痛/アレルギー/化学物質過敏症/乾燥症候群/無呼吸症候群/反応性抑うつ、不安

 

 

診断には前述のPETが使えればいいんですが、まだ研究段階。酸化ストレスのチェック、疲労時計(自律神経機能検査)、腕時計型睡眠活動度計などを利用して、相対的に診断します。治療は、早期なら抗うつ薬が効くこともありますが、その他(睡眠療法、漢方薬、抗酸化作用のあるサプリメント、段階的運動療法、認知行動療法など)の治療法も含めてまだほとんどエビデンスはありません。Lamotrigine(ラミクタールR)の効果があるといった報告もありますが、こちらもまだまだ一般的ではありません。神経細胞の炎症なら、免疫グロブリンが効くんじゃって個人的には思いますが・・・どうなんでしょう?

 

 

とにかく、今回は「慢性疲労症候群は立派な病気だ」ってことだけでも覚えてもらえれば十分です。我々が知らないことで、病気で苦しんでいる人をさらに苦しめないために。

 

 

よく考えたら、どんな病気も最初は名前がなかったんですよね。ってことは、今病名が付かずに「メンタルですね」なんて言っている方に、数年後病名が付いて「あの時はヤブ医者に見落とされちゃってさぁ~」なんて言われているかも・・・怖いですね(*_*; 日々知識のアップデートです。

 

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意外に未開の地『憩室』

憩室の扱いって結構厄介ですよね。見つかったからって何かしなきゃいけないかと言えばそうでもないですし、かと言って「気にしなくていいですよ」とも言い切れず・・・実際、エビデンスの少ない病態なんです。昨年、アメリカの消化器学会が久しぶりに憩室炎のガイドラインを改定しましたので、その周辺の知識をまとめてみます。

 

 

まずは一般的な知識から。憩室の原因は大腸内圧の上昇です。よくいう食生活の欧米化・・・この言葉って、さすがに使い古された感じしますね(^^;) まあ、肉食が増加して食物繊維が減少したことにより便秘や攣縮が起こり腸管内圧上昇、加齢、人種、遺伝、体質などにより脆弱になった大腸壁の一部から粘膜が飛び出し憩室ができるわけです。以前NEJMに載っていた憩室のレビューでは、40歳以下での有病率は10%ですが、80歳以上になると50~70%まで増加、男女差なしと報告していました。また憩室炎を発症するのは80%以上が50歳以上とのことです(NEJM 2007;357:2057-66.)。欧米でのスタディなのでこの数字をこのまま受け取ることはできませんが、現在の日本ではこの半分程度の頻度ではないかと推定されています。1970年頃の本邦の報告では、都市部(東京都)は地方(弘前市)に比べて約8倍の有病率だったとのことですが、恐らくこの差も随分なくなっているのではと推測します。

 

 

欧米では95%が左側大腸に発生しますが、本邦では右側大腸が優位で、全体の73%を占めます(両側型13%、左側型14%)。40代までは大部分が右側型で、それ以降では左側憩室の発生が増加し、70才以上では右側型45%、両側型30%、左側型35%と、発生場所の頻度はあまり変わらなくなっていきます。また、本邦の憩室は欧米に比べて個数が少ないものが多く、全体では単発32%、2-9個47%、10個以上21%で、左側では加齢による憩室個数の増加傾向がみられましたが、右側ではこの傾向はなかったそうです(日本大腸校門病学会誌 Vol.44 No.5 P579, 1991.)。

 

 

きりがないので疫学はこのへんで。

 

 

今年の1月にAnnals of Internal Medicineでは、憩室を持っている患者の4~13%に憩室炎を発症すると報告しています。憩室の保有率の高さを考えると、かなりのcommon diseaseです。それにも拘らず、憩室炎に対するエビデンスレベルの高い報告はあまりないようです。それを踏まえてあーだこーだ考えてみます(^^;)

 

 

最も問題になるのは「外来治療か入院治療か」ではないでしょうか。結論から言うと、最近の世界のトレンドは『単純型の憩室炎は、外来治療のほうが入院治療に比べて安全かつ安価である』ということです(Ann Surg 2013;00:1-7.)。単純型の定義は、前出のガイドラインで「CTで膿瘍や穿孔がないもの、重症感染や敗血症合併がないもの、免疫抑制剤使用がないもの」と定義しています。また、自力で水分摂取ができる、内服指示が順守できる、症状が安定しているといったポイントも大切です。

 

 

治療に関しては2014年のJAMAから(JAMA 2014; 311: 287-97.)。単純性(Hinchey分類Stage1:微小穿孔+膿瘍が傍結腸・腸間膜に限局)の治療は絶食+抗菌薬7~10日、抗菌薬は内服でも静注でも治療効果は変わらないとのことです。ただし、抗菌薬なしでも合併症の発症率に差がないという報告があったり(Br J Surg. 2012 Apr; 99(4): 532-9.)、いつまで絶食すればいいのかに関してのコンセンサスはなかったりと、なかなかアバウトな感じです(-_-;) 何より、「絶食だけど外来で」というのが日本で通用するのかちょっと微妙・・・。複雑性の場合は、Hinchey分類Stage2(微小穿孔+膿瘍増大)では抗菌薬の静注で、Hinchey分類Stage3以上(腹膜炎あり)の場合は手術を推奨しています。ただ、こちらも「敗血症がなければ必ずしも手術しなくてよい」といった但し書きがあったりしてやっぱり微妙。その他、潰瘍性大腸炎などに使う抗炎症薬のメサラジン(ペンタサなど)、整腸剤、アスピリン・NSAIDsなどもエビデンスはほとんどなく、ほぼ経験的な治療になっています。

 

 

最後に抗菌薬の選択。原因菌は好気性菌のE.coli、Streptococcus spp.に加え、Bacteroides spp.、Peptostreptococcus、Clostridium、Fusobacterium spp.などの嫌気性菌です。日本ではABPC/SBT(ユナシンS)やCLDM(ダラシンS)などがよく使われますが、IDSAの腹腔内感染症ガイドラインでは前者はE.coliへの、後者はBacteroides spp.への耐性化の懸念から、あまり使用を推奨されていません。同ガイドラインでは以下のような抗菌薬を推奨しています。

 

  <内服の場合>

・メトロニダゾール(+シプロキサン、もしくはバクタ)

・オーグメンチン

(ただし、初回投与は静注が望ましい)

 

<静注の場合>

・メトロニダゾール(+シプロキサン、もしくは第三世代セフェム)

・ゾシン、もしくはメロペン(重症、初期治療に反応なし、易感染状態)

☆投与期間はいずれも7~10日間

 

 

簡単に言えば、「大腸菌に代表される腸内細菌と嫌気性菌(Bacteroises)を念頭に置き、重症度に応じて選択する」といったところです。ただ、メトロニダゾールの静注のない日本では、結局ABPC/SBTやCMZ(ゾシン)になっちゃうんですよね。

 

 

ちなみに、憩室炎は全体の13.3%が再発し、特に手術せずに様子をみた場合の再発率が高いようです。・・・結局opeかな(*_*)

 

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「気持ちワル(-“-)」って辛いですよね

すっかりblogの更新が滞っていますが・・・マイペースでいきます(^^;)

 

 

先日若手の先生と嘔吐を主訴とした症例の振り返りをいていたのですが、外来に溢れているにも関わらず、意外に『悪心・嘔吐』でまとめることって少ないんですよね。以前に何かの雑誌(←失礼💦)で書かせていただいたんですが、このblogでは扱ってなかったので、改めて取り上げてみました。

 

 

『悪心・嘔吐』を考える時は、面倒でも病態生理に立ち戻る方が近道です。下の図を見てみて下さい。

 

 

悪心に関連する部位

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悪心は①消化管粘膜に分布するenterochromaffin cell(EC細胞)の刺激、②第四脳室にある化学受容体(chemoreceptor trigger zone; CTZ)の刺激、③大脳皮質からの刺激、④前庭神経核の刺激が、延髄の外側網様体に存在する嘔吐中枢(vomiting center; VC)へ伝播され、腹筋、横隔膜筋、呼吸筋が急激に刺激され嘔吐を引き起こされます。CTZは薬物や毒物、代謝異常に反応して嘔吐中枢に刺激を伝播します。CTZを中心とした嘔吐中枢にはムスカリン・ドパミン・ヒスタミン・セロトニン・サブスタンスPという5つの受容体が存在します。これを理解しておくと、どの制吐剤を選択するか考える時に役立ちます。

 

 

次に原因へのアプローチです。前出の雑誌の中で語呂合わせを作っていました。「あわよくば、この語呂合わせ流行るかも!?」って思っていたんですが・・・甘いですね(-_-;) でも、懲りずに載せます(笑)。

 

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意識障害の時に「アイウエオ・チップス、アイウエオ・チップス・・・」って唱えてアプローチしますよね?そんな感じで「ナウゼア・アイブイ、ナウゼア・アイブイ・・・」って・・・流行らないのは分かってますが(^^;)

 

 

病歴とって、診察して、検査オーダーして・・・。この過程、『悪心・嘔吐』って主訴ではなかなか絞りにくいんですよね。鑑別カードで言えば、『悪心・嘔吐』って“大きいカード”になるんです。情報を積み上げていきながら、ある程度鑑別を絞っていく必要があります。

 

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やはり心配になるのは頭蓋内病変だと思います。心・血管系のリスクファクター頭部外傷の有無典型的な所見{クッシング徴候(徐脈+血圧上昇)、瞳孔不同}明らかなfocal signなどを確認できれば判断に迷うことはないと思いますが、こういった教科書的な所見で現れていただけないのが、一般臨床の辛いところ。以下に主にERの場面で頭蓋内病変をマネージメントする上での “Key Sentence”を挙げます。あくまで「想起している疾患の可能性を上げ下げする情報」というだけですので、この情報に振り回されすぎないように。

 

 

頭蓋内病変マネージメントに役立つ“Key Sentence”

  • Ÿ 「増悪」、「突発」、「最悪」の症状を1つでも満たす頭痛は要注意!
  • Ÿ   嘔気がないのに突然嘔吐→脳圧亢進?(幽門狭窄や食道アカラシアでもみられる)
  • Ÿ   急激な意識障害後の発熱(脳幹部の広範な病変を示唆)
  • Ÿ   片側の払いのけるような動き→片麻痺?
  • Ÿ   上肢屈曲・回内、下肢伸展・回内、足関節底屈→除皮質硬直(大脳の広範な障害?)
  • Ÿ   上下肢ともに伸展回内位→除脳硬直(中脳下部から橋にかけての障害?脳ヘルニア?)
  • Ÿ   人形の眼現象の消失(下部脳幹の障害を示唆)
  • Ÿ   瞳孔の不同は脳幹部に病変が及んでいるサイン
  • Ÿ   pinpoint pupils≠橋出血(必ず有機リン中毒を否定)
  • Ÿ   クモ膜下出血は「頭痛+発熱+項部硬直」といった髄膜炎様の症状を呈することがある
  • Ÿ   クモ膜下出血に典型的な症状が揃うことは少ない(頭痛90%、項部硬直74%、意識障害60%、昏睡27%)
  • Ÿ   両側性のBabinski反射/Chaddock反射陽性→脳ヘルニア?(代謝性脳症の可能性もあり)
  • Ÿ   脳圧亢進時には軽度過換気で脳圧低下(過度の過換気は脳虚血をきたすので注意)
  • Ÿ   気管内吸引は頭蓋内圧を亢進させるので過度に行わない

 

 

ここまでの情報を踏まえたアプローチ、特に『ERでのアプローチ』を、アルゴリズムにまとめてみました。こんなにスッキリいくことはないかもしれませんが、ある程度行動の漏れを防げるのではないかと思います。

 

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悪心・嘔吐評価のためのアルゴリズム

Keith Scorza, et al. Dewitt Army Community Hospital Family Medicine Residencyを改変

 

 

治療の中心は、もちろん原疾患の治療です。でも、救急外来で意外に多いのが「原疾患の検索ばかり夢中になって、症状の緩和は忘れがち」ってこと。もちろん確定診断は大切なのですが、特に救急外来に来られる患者様の多くは、「原因を突き止めてくれぇ~」ということよりも、「早くこの気持ち悪いのを何とかしてくれぇ~」というのが本音なんじゃなかと思います病態に対してしっかりとしたアプローチをされている限り、吐き気を止めることで患者様が不利益を被ることはないので、制吐剤は積極的に用いるべきでしょう。ここで登場するのが、冒頭に書いた病態生理。どこが原因っぽいか(←こんな感じでも十分です)を考えながら処方してみて下さい。以前雑誌で書かせていた、それぞれの薬のポイントも合わせて載せておきます。

 

嘔気・嘔吐に対する受容体と作用する制吐剤

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  • M1アンタゴニスト:スコポラミン(ブスコパンR

 

  • アセチルコリンのM1受容体への結合を競合的に阻害することにより、副交感神経の活性を抑制し、内臓平滑筋の痙攣をおさえたり、胃酸の分泌を抑制する。
  • 緑内障、前立腺肥大症、甲状腺機能亢進症、麻痺性イレウス、出血性大腸炎、重篤な心不全には禁忌。副作用として口渇感・眠気・せん妄・尿閉などがある。
  • D2アンアゴニスト、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬との併用で両者の副作用が増強する可能性がある。

 

  • D2アンタゴニスト

①フェノチアジン系(ノバミンR、ウインタミンR、コントミンR

  • ドパミン神経の過剰な活動により発現する陽性症状(妄想、幻覚、幻聴、混乱、興奮)をおさえる。また、中枢神経と自律神経を抑制することで鎮静作用と制吐作用を示す。
  • M1、H1にも部分的アンタゴニストとして作用するため副作用に注意。

②ブチロフェノン(セレネースR

  • 純粋なD2アンタゴニストであり副作用(薬剤性パーキンソンニズム・眠気・口渇感)が少ないが、制吐作用はあまりなく、純粋に制吐剤として使用されることは少ない。

 

③末梢性D2アンタゴニスト(プリンペランR、ナウゼリンR

  • 胃や十二指腸に存在するD2受容体を遮断することで、消化管運動を活発にする。またCTZに直接作用することにより制吐作用を示す。
  • プリンペランRはBBBの通過がよく制吐作用が強いが、錐体外路症状・乳汁分泌・無月経などを来たすことがある(長期使用は避ける)。
  • ナウゼリンRはBBBを通過しにくいため錐体外路症状などの副作用が少ないが、催奇形性が報告されており妊婦には禁忌である。
  • いずれの薬剤もイレウス・消化管穿孔には禁忌である。

 

  • H1アンタゴニスト(トラベルミンR、ドラマミンR

 

  • 内耳迷路、CTZに対して抑制的に作用することにより制吐作用を示す。
  • メニエール病に有効なほか、船酔い・車酔いなどの動揺病にも有効。

 

  • HT3アンタゴニスト(セロトーンR、ゾフランザイディスR、カイトリルR

 

  • HT3はCTZに大量に存在しているため、強力な制吐作用を示す(保健適応上は化学療法後などの特殊な状況でのみ使用が認められている。非常に高価な薬でもあり慎重に使用する必要がある)。
  • NaSSAであるリフレックスには、HT3アンタゴニストの作用がある。

 

 

吐き気って本当に辛いですよね・・・って、お酒飲んだ後程度しか経験のない管理人が軽々しく言うのはダメですね(*_*; でも、間違いなく辛い主訴です。是非適格なアプローチを押さえておいて下さい。

 

 

man over toilet bowl on white background. Isolated 3D image

何となく検査――今回のお題は“β-D-グルカン”

このブログでは、時々「何とな~く測りがちだけど、実際に陽性になったら解釈に困る💦」みたいな検査に触れてきました。今回は、その最たるもの『(1→3)‐β‐D‐グルカン(以下β‐Dグルカン)』についてまとめてみます(以前も取り上げているのですが、新しい検査法が出た直後でしたので、その後の臨床データを踏まえて改めてまとめましたm(_ _)m)。

 

 

真菌感染症の診断に当たり前のように登場するβ-D-グルカンですが、実はこの検査が臨床現場に登場したのは1995年、たかだか20年前のことです。日本で開発された検査なのですが、偽陽性も多く見られ、欧米ではあまり評価されていなかったようです。しかし検査精度の改善から、2004年に米国のFDAがβ-D-グルカン測定キットを承認、2008年に改訂された米国感染症学会のアスペルギルス症治療ガイドラインやEORTC/MSGの診断ガイドラインにもβ-D-グルカン測定が紹介され、徐々に世界的に認知された検査になってきています。この流れを受けて、「熱源が分からなかったら、とりあえずβ-D-グルカン」って思考パターンになってきてしまったんじゃないかと思います。何といっても楽ですからねぇ~。でも、本当にそれでいいのでしょうか?

 

 

そもそも、何故こういった抗原検査が開発されたか?それは、とにかく『真菌感染症の診断は難しいから』です。まず、カンジダを始めとした真菌は皮膚の常在菌に近い存在ですので、血液培養以外から検出された際の病原性のある or なしの判断が難しいことが挙げられます。また、その血液培養に関しても、1960年代の報告にはなりますが、剖検にて最終的に侵襲性カンジダ症と診断されたうちおよそ半数は、死亡2週間以内に行われた血液培養が陰性だった、とのことです。一般的な細菌に比べて培養結果の出るのが遅いのも難点。治療の遅れがそのまま予後の悪化に繋がりますので、真菌血症は「検査結果がどうであれ、疑わしければさっさと治療開始(゚Д゚)ノ!」が大原則になります。それを踏まえてβ-D-グルカンを考える必要があります。

 

 

「何とな~く検査はダメ!」というからには、どういう症例で疑うか、ということ大切になってきますよね。これ、患者様の背景によって変わってきます。2014年に深在性真菌症のガイドライン作成委員会より発刊された『深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014』では、血液疾患、呼吸器疾患、外科系・救急・集中治療、臓器移植等々、アプローチを細かく分類していますが、ここでは以前のblog(血培からカンジダ!・・・で、どうする?)でも記載した、ざっくりしたリスクファクターを挙げておきます。

 

〈深在性真菌症のリスクファクター〉

  • 重症患者(特にICU在室7日以上)
  • APACHE Ⅱ score≧20
  • 好中球減少、血液悪性腫瘍
  • 中心静脈カテーテル留置
  • 広域スペクトラム抗菌薬使用歴
  • ステロイド使用者
  • H2-ブロッカー長期使用
  • 腎不全・血液透析・持続血液濾過透析
  • 急性膵炎
  • 外傷、および広範囲熱傷
  • 消化管穿孔・腹部手術・術後消化管縫合不全
  • 移植レシピエント
  • 過去のカンジダ定着・複数部位からの検出

 

こういった患者様に対して真菌感染症を疑い、β-D-グルカンを提出することは、的外れではない訳です。

 

 

β-D-グルカンは主な真菌に共通する細胞壁構成多糖成分の一つなので、特定の菌種で特異的に上昇することなく、まさに『真菌のスクリーング検査』です。特にカンジダ属やアスペルギルス属の細胞壁に豊富に含まれていますので、これらの真菌による侵襲性の感染症で上昇しやすいことは、臨床的に重要です。逆に考えれば、クリプトコッカス属や接合菌症では全くといっていいほど参考になりません。また、食道カンジダ症や肺アスペルギローマなど非侵襲性病変の場合には一般に上昇がみられません。繰り返しになりますが、『β-D-グルカンの上昇なし』→『真菌感染症なし』は、全くの的外れな考え方なわけです。

 

 

偽陽性についても触れておきます。下に、主な偽陽性の原因をまとめましたが、まだ原因が分からない偽陽性報告も多い様です。

 

〈β-D-グルカン測定における偽陽性の主な原因〉

  • セルロース系透析膜による血液透析
  • レンチナン、シゾフィランなどのβ-D-グルカン含有製剤
  • アルブミン製剤、グロブリン製剤
  • 高ガンマグロブリン検体での非特異的反応
  • 高度溶血
  • Alcaligenes fecalisによる敗血症
  • ガーゼの使用
  • 測定中の振動(ワコー法のみ)
  • 環境中のβ-D-グルカンによる汚染

 

これらを踏まえて感度・特異度。多くのスタディは小規模なメタ解析で、かつ領域ごとに分かれてしまっています。以下の表は日本で行われた領域に拘らないスタディの結果で、一般臨床に当てはめやすいと思います。ファンジデル法は、主に欧米で使用されている検査方法ですので、あくまで比較としてご覧下さい。表のMK法は、現行のMKⅡ法の前のバージョンにはなりますが、原料となる中国産カブトガニの入手困難により他の種類のカブトガニを利用しているだけで、基本的な検査特性は変わらないようです。

 

 

べーた

Yoshida K, Shoji H, Takuma T, Niki Y: Clinical viability of Fungitell, a new (1→3)-β-D glucan measurement kit, for diagnosis of invasive fungal infection, and comparison with other kits available in Japan. J Infect Chemothre 17, 473-477. 2011.

 

 

特異度が高めなので一見すると確定診断に使えそうですが、陽性的中率の心もとなさ・・・。結局、検査前確率に大きく左右される訳です。『検査前確率が低い時に陰性なら、かなり強く侵襲性のカンジダ・アスペルギルスの感染症は否定できる』といった所でしょうか。・・・とすると、『検査前確率の低い時に、無暗にβ-D-グルカンを測るな!』という、根底の理論が崩れていく(T_T) 結局、本邦で使用頻度の高い検査でいえば『わずかな治療の遅れが予後に直結しやすい血液内科領域や臓器移植領域では、比較的感度が優れているMKⅡ法が陽性ならば積極的に治療、その他の比較的免疫状態が保たれている領域(呼吸器系、外科系など)の場合は、β-D-グ ルカン値の解釈はより慎重に』といった当たり障りのない結論になります。

 

 

患者様はもちろん、犠牲になっているカブトガニの為にも(?)「何とな~く」にはご注意をm(_ _)m

 

図1

偽装の達人―― 現代の梅毒事情

フレデリックヘンリー8世、アレキサンダー6世、ニーチェ、ベートーベン、シューベルト、ヒトラー、リンカーン、アル・カポネ、シェイクスピア、ゴッホ・・・梅毒にかかっていたといわれている有名人です。実は、昭和の大スターのあの方も、梅毒だったそうです。外来でも時々見かける「古くて新しい」病気。これ、医療者は絶対に押さえておかなければいけない疾患なのです。

 

 

歴史上に現れたのは15世紀末で、恐らくコロンブス一行が新大陸の風土病をヨーロッパに持ち込んだのではないか、と言われています。日本でも16世紀の初めごろにはすでに登場しているようです(何と20年程度でヨーロッパから日本に!・・・やっぱり性感染症は恐ろしい💦)。ペニシリン開発以前はこれといった治療法もなく、日清・日露戦争の頃には軍隊内で大流行していました。芥川龍之介(1892年3月1日~1927年7月24日)の『南京の基督』では、梅毒になった遊女に、友人が「あなたの病気は御客から移ったのだから、早く誰かに移し返しておしまいなさいよ。そうすればきっと2〜3日中によくなってしまうのに違いないわ」・・・恐ろしい(-_-;) ちなみに、ペニシリンが日本で一般的に使われだした1940年代以降は、梅毒の患者数は劇的に減少、1948年に性病予防法に基づく梅毒の報告者数は約220,000人と膨大な数に上っていましたが、その後の啓蒙活動や治療の進歩により急激な減少を認めていました。しかし、ここ10年でじわじわと上昇しはじめ、昨年は2,698人と、最も報告の少なかった2003年の約5倍にまで増えています。

 

梅毒1

 

 

増加している理由について、以下のようなものが考えられます。

 

  1. 女性の性活動範囲の拡大(特に10代~20代女性患者が増加)
  2. 1990年代に起こった、コンドームを用いた“セーフセックス”推奨運動の衰退
  3. HIV治療の確立による、男性同性愛者間でのコンドーム使用率の減少
  4. 梅毒の診療経験のある医師の不足
  5. 一般人(医師も含む)の中にある「昔の病気」という認識

 

個人的には、④と⑤がかなり問題なんじゃないかと思います。特に④は、「何となく鼠蹊部のリンパ節が腫れて、それに対して何となくフ○モックス」みたいな中途半端治療により、さらに感染が拡大・・・さっきの遊女さん達と、やっていることあまり変わらんやん ( ゚Д゚ノ)ノ と、思わず突っ込みを入れたくなるような状況が横行していそうです💦

 

 

原因はスピロヘータ属の1つであるT.pallidumによって起こります。長さ5~20μg、厚さ0.1~0.2μgと非常に薄く、通常の光学顕微鏡では確認できません。下の動画がT.pallidumなんですが・・・優雅?ですねぇ。しかも、突き刺さりやすそうです(^^;) そのため、皮膚をドリルのように貫通するんです。増殖スピードは遅く、一般的な細菌の30分の1なのだそうです。独特の臨床経過をとるのは、T.pallidumこういった生態学的な特徴が影響しています。

 

 

 

症状はとにかく多彩で、かのウイリアム・オスラーは梅毒のことを“the great imitator” (偽装の達人)と称しています。ただ、これは主に第二期梅毒の症状を表しています。現在の梅毒診療で第三期~晩期での発見は完全に“負け”ですので、とにかくこの“偽装の達人”を押さえておかなければいけません。

 

 

キーワードは“トリプルスリー”!『3週間-3か月-3年』のことで、第一期が感染から3週間~3か月、第二期が感染から3か月~3か月、第三期が感染から3年以降になります。

 

トリプルスリー

 

 

第一期

トレポネーマ侵入部位(陰部、口唇部、口腔内)に排膿を伴う無痛性硬結(硬性下疳)が出現。多くは数週間で消失しますが、稀に潰瘍を形成します。無痛性の鼠径リンパ節腫脹(横痃)も多く認めます。

 

第二期

 

とにかく皮膚症状がポイントで、70~90%の症例に認めます。あらゆる部位に認めますが、一般的にはピンク~赤色、斑状、斑丘疹状もしくは膿胞性皮疹が体幹よりはじまり、四肢、手掌、足底に広がります。頻度は10~15%と高くありませんが、主に肛門、陰嚢、陰唇などの湿潤環境に認める扁平コンジローマは、感染性が極めて高いことが特徴です。梅毒性粘膜疹は、主として口腔内に出現、眉毛や髭の脱毛も認めます。皮膚症状以外もとにかく多彩です。発熱、全身倦怠感、全身性リンパ節腫大、関節痛、体重減少といったおなじみの(?)全身症状が出現し、特に上腕内側上顆リンパ節腫大は梅毒の診断を示唆します。その他、中枢神経系では頭痛、髄膜炎(特に脳底髄膜炎→眼球運動障害など)、脳神経障害、眼症状では虹彩炎ぶどう膜炎、泌尿器系では糸球体腎炎やネフローゼ症候群、筋骨格系では関節炎、骨炎、骨膜炎など多くの症状を認める可能性があります。この“可能性がある”という表現が厄介で、これらの症状が現れたり現れなかったり、タイムラグをもって出現したり、何も症状を認めずに潜伏性梅毒に移行したり・・・困ったものですね(´・ω・`) ちなみに、この第二期の症状も発生から1か月程度で消失してしまいます。

 

梅毒2

 

この後、血清梅毒反応が陽性で、特に症状を認めず、かつ中枢神経浸潤のない潜伏梅毒の時期に入っていきますが、ボリュームオーバーなんで省略!下の図が非常に纏まっていますので参考にして下さい。

 

梅毒3

梅毒の自然経過

モダンメディア54巻2号[話題の感染症]現代の梅毒;14-21,2008より

 

 

本当は検査を中心に書くつもりだったんです。って訳で、ここまでは前振りということでm(_ _)m笑 梅毒の診断はT.pallidumが生体外(in vitro)で培養できないために複雑になっています。PCR法によるトレポネーマDNA同定の開発も進んでいるようですが、まだ一般的な検査ではありません。結局、以前からされている『非トレポネーマ検査』(STS法:VDRL、RPR)と『特異的トレポネーマ検査』(TPHA法、FTA-ABS法)を利用するしかありません。

 

〈非トレポネーマ検査〉

 

  • 直接T.pallidumを抗原としていないので、生物学的偽陽性(正常妊娠、膠原病、慢性肝炎、肺結核、麻疹、マラリア、麻薬中毒など)がある。
  • 感染後約3~4週で陽性になる。
  • 第一期(または第二期梅毒)では、通常治療の6ヵ月以内に1/4、12ヵ月で1/8に減少する。
  • 通常第二期もしくは早期潜伏梅毒で最も高く、適切な治療の後では通常<1:4に減少する(1/4は陰性化する)。
  • 持続的な陽性、特に1:4を超える抗体価が続く場合は偽陽性、持続的活動感染、再感染を意味する。
  • 梅毒のスクリーニングと治療への反応のモニタとして推奨される(梅毒と確定診断されたら、STSの定量を行う必要がある)。

 

〈特異的トレポネーマ検査〉

 

  • 陽転化するのがSTSより2週間ほど遅れる。
  • T.pallidumそのものを抗原としているので、STS法にみられる生物学的偽陽性がなく、偽陽性も極めて少ない。
  • 特異的ではあるが定量化することが難しく、活動性の評価には使えない(陽性は、過去に梅毒に暴露したという意味しかない)。
  • 治療すると値は低下するが、陰性化することはなく陽性のままである(STS法の陽性を確認するために用いられるが、治療反応のフォローには使えない)。

 

 

STS法とTPHA法(またはFTA-ABS法)を組み合わせた結果の解釈をまとめます。

 

梅毒4

 

梅毒5

 

TPHA法は感染後の陽性化がSTS法よりも遅いため、STS(+)かつ TPHA(‐)で梅毒の初期感染が疑われるケースでは、2~3週後にTP抗体価の上昇を待って再検査を実施する必要があります。つまり、最初の検査で梅毒の感染が疑われるケースは『STS(+)かつTP(‐)』と『STS(+)かつTP(+)』の2通りだけで、更に再検査結果を含めてSTS(+)かつTP(+)となったケースも含め、FTA-ABS法等の確認試験結果や診察結果も加えて治療の要否を判断するのが一般的です。

 

 

その他、潜伏梅毒で眼科的な症状や徴候があったり、第三期梅毒を示唆する証拠がある場合、VDRLやRPRの抗体価が適切な治療後に減少しない場合、罹患機関の不明な梅毒、もしくは晩期潜伏梅毒を伴うHIV感染を起こした場合は脳脊髄液を調べることが推奨されていますが・・・ここまでいきたくないですね(~_~;)

 

 

治療は、ともかくペニシリン!どの病期に対しても有効性はしっかり確立しています。前述した通りトレポネーマの増殖は遅いので、治療は長期間(2週間)必要です。でも、実はしっかりした臨床研究がされたことはないようで、古くからおこなわれている“究極のエンピリックセラピー”と言えます。詳細は成書をみていただきたのですが、知っていていただきたいのは“ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応”という、抗菌薬投与1~2時間後に始まる全身性反応(発熱、悪寒、筋肉痛、頭痛、過呼吸、頻脈、のぼせ感、血圧低下)です。メカニズムは不明ですが、すべての病期の10~25%、第二期の70~90%に起こると言われています。通常は自然に消失するので、通常の解熱薬などでの対応で構いません。ただ、治療前に必ず伝えておきましょう。

 

 

やっと終了!・・・といきたいのですが、最も大切なのは『セックスパートナーの治療』です。第一期、第二期梅毒の人は、他人にうつす可能性があるので、自分とパートナーの治療が終了するまでは性的接触を避ける必要があります。第一期の場合は過去3カ月間、第二期の場合は過去1年間のセックスパートナーすべてに感染の危険性があるので、この間のセックスパートナーは、梅毒のスクリーニング検査を受けなければいけません。でも、ここが難しいんですよね~。患者様自身に今のパートナーだけじゃなく、過去のパートナーの方全てに連絡していただき、自主的に検査を受けていただく・・・日本ではなかなか高いハードルですね(*_*;

 

 

20面相

妊娠と薬 ―答えのないテーマ―

CMになるのですが、今月号の『週刊医学界新聞』で、初期研修の先生を対象にした記事を書かせていただいています。「初期研修中に身に付けたて、皆に頼られる存在になろう!」みたいなコンセプトで、一年間(もつのか(*_*;!?)連載させていただく予定です。是非ご一読をm(_ _)m(PDFはこちら

 

 

そのためという訳ではないのですが、blogの更新が滞ってしまいました💦 今回は『妊婦さんへの薬の投与』についてです。一般外来ではもちろん、救急外来でも「妊娠中なんですが、薬飲んでもいいですか?」なんて質問、よく受けると思います。で、薬の添付文書を読んでみると、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」という文章にぶつかり、毎回悩む・・・“外来あるある”ですね(^^;) なぜこのような表現がされているかというと、一般的な医薬品の臨床試験では、倫理的な側面から妊婦を除外しているため大規模臨床試験が組めず、疫学調査や症例報告など限られた情報をもとに判断されているからです。要するに、医師の『裁量』に任されている訳です。

 

 

『裁量』という意味、「自分の考えで問題を判断し処理すること」ですので、我々一人ひとりも、「自分の考え」を持っている必要があります。『UCSFに学ぶできる内科医への近道改訂3版』の、『妊娠と薬剤』のコラムの冒頭に、妊娠可能年齢の女性患者さんに対する心構えが載っていますので、以下に抜粋して記載しておきます。

 

 

 薬剤の使用責任は100%処方医にある。妊娠の可能性については常に心しておく必要がある。以下の点に注意を払い妊娠の有無について確認を行う。

●年齢にとらわれず、妊娠可能年齢の女性を診たら妊娠を疑う(12歳未満や45歳以上の妊娠もある)

●母親同伴の娘の言葉は信用してはならない(1人だけにして問診を行う)

●性体験(性交)の有無を必ず聞く(問診票には記載しないこともある)⇒診療録に記載する

妊娠の可能性を否定されても素直に信じてはいけない(妊娠反応は我々の免罪符)

 

 

最初の一文なんて、結構重いですよね。問診のテクニックで、服薬することに対して無理やり「患者さんとの同意のもと」みたいに持って行っちゃっている気が・・・(-_-;)

 

 

実際の薬剤の影響云々の話の前に、一般的な知識は押さえておきましょう。出生時の先天異常の自然発生率は 2~3%自然流産の頻度は約 15%といわれています。そして、現在一般的に処方されている催奇形性作用のある薬の多くは奇形の発生率を1~3%上昇させる程度。つまり、異常があったからといってすぐに薬の影響と判断することはできないんです。ただ、仮に奇形を持った赤ちゃんが生まれてきた場合、「確率的には薬のせいではない」なんて呑気な考えになんて、なれる訳ありませんよね。

 

 

では、実際の妊娠中の薬の影響について。薬剤の影響に関しては、①All or noneの時期、②催奇形性が問題となる時期、③胎児毒性が問題となる時期の3つに分けて考えるのだそうです。

 

表1

妊娠の経過と薬剤の影響(実践『妊婦と薬』第2版. 2010より)

 

 

① All or noneの時期(妊娠前から妊娠3週6日頃まで)

女性のみでなく、男性も関係してくる時期です。薬剤の影響を受けた精子や卵子が受精能力を失ったり、受精したとしても着床しなかったりして、流産に至る時期です。どのような薬剤が影響を与えやすいかはあまり分かっていません。

 

② 催奇形性が問題となる時期((妊娠4週から15週末まで)

 

最も問題となるのがこの時期。特に4週から7週末までの時期は胎児の中枢神経系、心臓、眼、耳、唇、消化器、四肢などの重要臓器が発生・分化する時期で、薬剤に限らず種々の催奇形因子に対して感受性の高い時期です。妊娠8週から15 週末までは、重要な器官形成は終わっていますが、歯・口蓋、外陰部などの形成は続いていますので、この時期も催奇形性が高い時期と位置付けておく必要があります。催奇形性の高い薬剤として確立しており、かつ処方頻度の比較的高いクスリは以下の通りです。

表2

 

ちなみに、ビタミンAは25,000IU/日以上での催奇形性の報告がありますが、健康な妊婦の1日必要量として推奨されている8,000IU/日では全く安全である。逆に摂取不足は新生児異常や奇形を招きますので、むしろ積極的に摂取してもらいましょう。

 

③ 胎児毒性が問題となる時期((妊娠16週から分娩まで)

 

 

胎児毒性とは、摂取した薬が胎盤を通って胎児に移行し、胎児の体内で作用することによって生じる有害作用です。胎児の機能的発育過程における発育抑制、機能障害、子宮内胎児死亡などを引き起こす可能性があります。

表3

 

我々の投与する薬とは離れますが、この時期のアルコール摂取による知能障害(胎児性アルコール症候群)や、喫煙による子宮内胎児発育不全も知識として重要です。また、脂溶性ビタミン、ステロイドホルモン、バルビツレート、ジアゼパム、ペニシリン、セフェム、ワルファリン、インドメタシン、SSRI、サルファ剤などは、催奇形性の報告は高くないものの、胎盤移行性が高いことが証明されていることも覚えておきましょう。

 

 

最後に代替薬についても触れておきます。ただ、「使用頻度が高く、大丈夫だったよという経験値が高いクスリ」というだけで、結局のところ「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」というところに行きついてしまいます(汗)特に、催奇形因子に対する感受性の高い妊娠4週から7週末は投薬を極力控える方が無難です

 

  • 抗菌薬:ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系
  • 抗ウイルス薬:ゾビラックス、バルトレックス、タミフル、リレンザ(アマンタジンは禁忌)
  • 解熱鎮痛剤:アセトアミノフェン、アスピリン(NSAIDSは血管への感受性が低い初期のみ/作用機序の違うソランタールのみ有益性投与)
  • 片頭痛治療薬:トリプタン系(エルゴタミン系は×)
  • 鎮咳薬・去痰薬:アスべリン、ムコダイン
  • 気管支拡張薬:テオドール、シングレア(可能な限り外用で)
  • 消化器疾患治療薬:PPI、H2ブロッカー、胃粘膜保護剤、プリンペラン(ナウゼリンは×)、ブスコパン、重質酸化マグネシウム(大腸刺激性薬剤は×)
  • 副腎皮質ステロイド:プレドニン(胎盤通過性が比較的低い)
  • 抗甲状腺薬:チウラジール(適切な甲状腺機能維持が優先される報告あり)

 

 

なお、抗てんかん薬に関しては、残念ながら代替薬はありません。てんかん発作による胎児の低酸素や流産や早産のリスクを高めるとも言われており、妊娠中でも服用せざるを得ません。服用による胎児奇形の確率は2~3倍と言われており、「催奇形性の可能性が10%程度であることを伝えた上での投与」という、苦しい選択を迫られてしまいます。

 

 

このテーマ、知識だけでも倫理観だけでもダメな、非常に難しい問題です。恐らく正解はないと思います。だからこそ、正確な知識を持っておくことが我々医療従事者にとって大切な使命だと思います。

 

Yellow and red pills spilling from bottles and blisters in front of pregnant woman, shallow DOF

「エビデンスなし!」・・・じゃあ、どうする?

今年に入り、BMJでめまいに対するベタヒスチン(メリスロンR)の効果を検討したレビューが出ました(出ていたんですが、スルーしちゃっていました💦)。「海外ではメイロンRすら使わないんだから、メリスロンRのレビューなんて日本からだろ。」なんて思っていたら、なんとドイツのミュンヘン大学病院からの報告です。どういう流れでこの研究しようと思ったんですかね(*_*)?

 

 

さて、まずはメイロンRの話。一般名は『7%炭酸水素ナトリウム』なんですが、何でメイロンRなんておしゃれな(?)名前になったか?洋名は『MEYLON』になるんですが、対象疾患である動揺病やメニエール症候群が内耳の迷路(『MEYLO』)に関連しているから・・・て、ダジャレかよヾ(- -;)笑 とにかく、『めまいに使うために生まれてきたような薬』です。実際、戦争中に戦闘機に乗られる方のめまい止めとして開発されたんだそうです(こういった戦争によって開発された薬って、結構沢山あります)。

 

 

作用機序に関して復習しておきましょう。機序は二つ、①血中HCO3濃度↑⇒代謝されてCO2濃度↑⇒血管拡張、②血中Na濃度↑⇒血漿浸透圧↑⇒血流量↑で内耳の血流を改善させる・・・と動物実験による仮説が立てられています。論文がないわけではないのですが日本のみからの報告で、少なくとも抗めまい薬としての質の高い臨床試験はされていません。でも、だからといって効かないか、と言えばそんなことはないと個人的には思っています。だって、効きもしない薬が急性期のめまい治療にずっと使われ続けるハズないですもんね

 

 

ただ、投与するからには副作用はしっかり押さえておきましょう。メイロンRのインタビューフォームには、以下のような副作用が載っていました。

 

副作用

 

 

よく考えたら、管理人自身もめまいの患者様に「口がしびれたり、体が冷たく感じたり、場合によっては不整脈起こしたりしますよ~」なんて、あんまり言った記憶がない(@_@;) 特に、ナトリウム負荷に関してはしっかり押さえておかないといけません。メイロンRのナトリウム濃度は833mEq/Lととんでもない量です。めまいの際には、一般的に20~40ml程度の投与にとどまりますが、それでも16.7mEq~33.4mEq。「結構な量を入れているんだな。」という意識を持つ必要がありますね(循環障害なんかの時のメイロンR250mlをダーと落とすのって、何と208mEqの大量ナトリウム負荷(>_<)!)。

 

 

ついでなんで、アデノシン三リン酸(アデホスR)のことも触れておきましょう。当然のごとくめまいに対してのエビデンスはほとんど見当たらず、ほぼ日本のローカル ルールです。以前は脳循環代謝改善薬の位置づけで、その流れでめまいにも使われていたのですが、1998年の再審査により、その適応もなくなってしまいました。何より、アデホスって半減期めちゃめちゃ短いんですよね。せいぜい数十秒ってところなので、それを点滴に入れて投与することにどれだけの意味が・・・。作用は強くないけど、副作用も少ないっていう、“毒にも薬にもならない”薬?です。もちろん、静注で発作性上室性頻拍などに使うこともありますので、多少なりとも注意が・・・て、そう考えたら“毒”か(汗)。

 

 

だいぶ前置きが長くなっちゃいましたが、冒頭のメリスロンRのBMJの論文について。この薬、H1受容体作動薬かつH3受容体拮抗薬ですので、血管拡張作用、気管支収縮作用、嘔吐中枢抑制作用などを持ちます。何となくめまいに効きそうですが、メイロンと同様根拠となる質の高い報告はなく、米国FDAは認可していません(日本や欧州の一部では保険適応があります)。

 

 

今回の報告は、2008年3月~2012年11月にかけて、21歳~81歳の片側性・両側性メニエール病患者221例(喘息患者、抗ヒスタミン薬内服中、胃十二指腸潰瘍を除外)を対象に行われた無作為化試験です。被験者を①低用量ベタヒスチン(1回24㎎/1日2回)73例、②高用量ベタヒスチン(1回48㎎/1日3回)74例、③プラセボ74例に分け、それぞれ9カ月間投与し、プライマリアウトカムを患者の日誌に基づく30日間ごとの発作回数、セカンダリアウトカムを発作の持続時間や重症度、QOLスコアの変化で評価しています。

 

 

結果は・・・皆さんの予想通りです。プライマリアウトカムである、7~9ヶ月の発作平均回数/月は、低用量群で 3.204回(1.345-7.929)、高用量群で 3.258(1.685-7.266)、プラセボで2.722(1.3-4-6.309)と有意差はなく、セカンダリアウトカムもすべて有意差なしと報告されています。結局、“自然に治る”ってことなんですね(^^;) 

 

BMJ 2016; 352 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h6816 (Published 21 January 2016) Cite this as: BMJ 2016;352:h6816

 

ちなみに、副作用の比較も有意差なしでしたので、「飲んでも飲まなくても同じ程度回復するけど、副作用も少ないから飲んでおいてもいいんじゃない?」ってことなんだと思います。

 

 

「結局何使えばいいの(*_*)?」ってなっちゃいますよね。天下のHarrionやUp To Dateでは、めまいの効果的な治療として抗ヒスタミン薬(cyclizine, dimenhydrinate, diphenhydramine, Meclizune)、抗コリン薬(スコポラミンの経皮的パッチ)、フェノチアジン系薬剤(promethazine)、ジアゼパム(セルシンRなど)、エフェドリンと記載されています。抗ヒスタミン薬の中ではレスタミン(diphenhydramine)以外は一般的でありませんし、第一世代抗ヒスタミン薬ですので、かなり眠くなります。スコポラミンの経皮的パッチは日本未承認です。エフェドリンを直接処方することはあまりなく、代用するなら麻黄湯になりますかね?

 

 

というわけで、結局こんな処方が無難なのかもしれません。

 

・メリスロンR(レスタミンの代用)

・セルシンR

・麻黄湯

 

結局、エビデンスレベルの低いところでの戦いになります。でも、「エビデンスがないからやらない」で、被害をうけるのは患者様です。むしろ、『めまいの治療には十分なエビデンスがない』ということを自覚し、その中で患者様にとって最良の選択肢を選ぶことが必要です

 

めまい

「メンタルかねぇ~?」のその前に!

前回「風前の灯」みたいな書き方をした『新内科専門医制度』ですが、どうやら予定通り始まるようです。・・・前回のブログ、完全にフライングでしたね(*_*; ただ、やはり不安要素を抱えていることに変わりはありません。この制度に関わる方々は、是非最新の情報をチェックしておいて下さいね。

 

 

今回のお題は『副腎不全』です。「もしかして副腎不全合併してない?」なんてセリフ、症例検討会ではしょっちゅう出てきますよね。ただ、このセリフって、意外に根拠なく言われていることも多いんじゃないかと思います。何故なら、副腎不全はとにかく漠然とした症状で出てくることが多いからなんです

 

 

一口で副腎不全といっても、一般外来と救急外来のセッティングではアセスメントも違いますので、とりあえず今回は一般外来でのセッティングでまとめてみます。

 

 

副腎不全自体は10万人に5-14人程度と決して多くはありません。原発性副腎不全の原因の約80%は自己免疫性で、慢性甲状腺炎1型糖尿病副甲状腺機能低下症・自己炎症性肝炎・白斑症・悪性貧血・性腺機能低下症・脱毛症・カンジダ症などなど、合併症だらけです。ま、このあたりの検索は専門科に任せましょう(‘ω’)ノ 非専門医にとって大切なのは、残りの20%の原因疾患。一番多いのは結核性で、それ以外は転移性腫瘍、副腎出血<<アミロイド―シス、サルコイドーシス、ヘモクロマトーシス、播種性真菌感染症、AIDS患者におけるCMV感染症、梅毒ゴム腫などです。頻度的にはやはり結核性副腎不全を押さえておく必要があります。結核罹患の32±15年後に発症し、副腎の石灰化(67.9%)・腫大(60.9%)を認める場合が多いことが、特発性との鑑別点です(ジェネラリストのための内科診断リファレンスP337より)。ただ、実際の臨床現場ではステロイド投与による医原性副腎不全の頻度が一番高いと思いますし、それが内服に限らず外用薬でも起こり得るのはピットフォールです

 

 

押さえておくべきは症状でしょう。前述したとおり、副腎不全の症状は倦怠感、食欲低下、意欲低下、嘔吐、疼痛など、漠然としたものばかり、むしろこの『何が何だかよくわからない感』が、副腎不全の代表的な症状と言えるのではないでしょうか。具体的な症状は以下の通りです。

 

副腎不全1

 

これは、原発性副腎不全99例、 二次性副腎不全117例の症状を解析したものです。やはり漠然とした症状が多いようですが、色素沈着や塩分渇望を認めれば、かなり高い確率で原発性と言えそうです

 

また、同じ報告では『仕事状況の変化』にも注目しています。

 

副腎不全2

 

1/4の退職率は、かなり高いのではないでしょうか。こういう患者様に「うつ病ですね~」なんて言っちゃってるかもしれませんね(/ω\)

 

 

血液検査で有名なのは低ナトリウム血症、好酸球増多、低血糖などですが、実際の感度は意外に低いようです。

 

副腎不全3

 

やっぱりコルチゾールの解釈ということになりますね。一般的には前日夜から絶食していただき早朝6~8時の血中コルチゾールと一次性・二次性の鑑別目的でACTHを測定します。193名の副腎不全疑い患者(そのうち最終的に60名が副腎不全と診断)に対する早朝コルチゾールの評価は以下の通りです。なお、アルブミンの値が低い場合はコルチゾールへの結合蛋白が減少するため、見た目には低値を示すことは要注意です。

 

ず

 

さて、こちらもよく話題になるACTH負荷試験(rapid ACTH test)。コートロシン®250μgを静注し、30分もしくは60分(なんかアバウト💦)のコルチゾール値を測定します。結果の解釈は以下の通りです(ちなみに、負荷後の上昇が9μg/dL未満なら相対的に副腎不全と評価する方法もありますが、実際は明確な報告はないようです)。

 

副腎不全4

 

原発性の場合の陽性尤度比が飛びぬけていますね!除外も含めて、原発性ならかなり有用なツールと言えそうです。二次性でもそれなりに使えそうですが、強いストレス負荷のかかった状態(敗血症でのコルチゾール値の平均は45μg/dL)ではそもそもコルチゾールの値は高値ですので、“<20μg/dL”というカットオフ値は使えません。

 

 

最後に治療も少しまとめておきましょう。もちろんステロイドの補充になります。一般的には半減期の短いHydrocortisone(コートリル®)を用いますが、二次性副腎不全で鉱質コルチコイド分泌に問題ないような例では鉱質コルチコイド作用が少ないプレドゾロンも選択肢となります。初期投与量はコートリル15-25mg/日を2−3回に分けて投与します。電解質異常や起立性低血圧のある患者にはMeneralocorticoid (フロリネフ®)を 0.05-0.2mgを1日1回投与しますが、下腿浮腫の出現や血中レニン活性低下を認めることがあり、定期的なモニタリングが必要になります。

 

 

診断に困ったときはもちろん、「不定愁訴ばっかりだなぁ~。メンタルか?」なんて思った時には是非「もしかして副腎不全なら説明がつくかも・・・」と思って下さい。

 

 

急性副腎不全(副腎クリーゼ)への対応はまた別の機会に・・・。

 

副腎犬

 

 

『新専門医制度』・・・どこへ行く!?

新専門医制度が“迷走”しています。いや、この表現は適切ではないかもしれません。そこまで言うと言い過ぎかもしれませんが、“風前の灯火”という表現の方が近いかも・・・なんて思ってしまいます。少なくとも、順風満帆でないことは確かです。この制度に関わる人、特に研修医の先生や学生の方々にとっては人生に関わる大きな問題だと思いますので、ここで少し整理したいと思います。

 

 

これらの話を考える前に、まず現行の内科専門医制度と、新内科専門医制度がどういった経緯をとってここまで来ているかを確認しておきましょう。

 

図1

 

これが、現行の制度です。一番下の初期臨床研修は国が決めたもの、認定内科医は内科学会が決めたもの、上に乗っかっている柱はそれぞれの学会が決めたものと、バラバラな認定制度になっています(それぞれがそれぞれの制度を利用して成り立っている、という表現が正しいかもしれません)。この制度に関して、以下のような問題点が言われていました。

 

  1. 多くの若手医師が “学位” ではなくて、“専門医” 取得を目指す事で、Physician Scientist 育成がすすまない。
  2. サブスペシャルティ専門医の内科診療能力が低下する。
  3. サブスペシャルティ専門医を取得する迄に長い年月を要すると、各サブスペシャルティ領域に従事する医師が減少する(専門医とったらサヨナラ!)。

 

特に問題になっていたのは2で、「高度な医療は出来るけど、風邪もしっかり診られない医者が増えたことにより、地域医療が崩壊した!」なんて、極論まで出ていました。それを補うために新臨床研修制度がスタートしたハズですが、どうやらそれも空振り・・・(ま、その隙間をぬって存在意義を高めてきたのが総合診療なんですが(^^;))。

 

 

『バラバラになっている専門医制度を統一する』『各科専門医の臨床能力を担保する』といった目的で、平成19年頃から日本の専門医制度の標準化を目指す動きが出始め、平成23年秋には厚生労働省の『専門医の在り方に関する検討会』が発足、平成25年4月に以下の方向性が提示されました。

 

  • 専門医制度は二段階制とする (基本領域とサブスペシャルティ領域)
  • 専門医の認定は各学会ではなく、中立的第三者機関で行う
  • 専門医育成は研修プログラムに従って行い、中立的第三者機関は研修プログラムの評価・認定、研修施設のサイトビジットを行う
  • 総合診療専門医を基本領域に位置づける

 

図2

 

図3

 

図4

 

この制度の目指す医師像は『適切な診断と治療をもって一定数以上の内科症例を経験し、かつ医師としての倫理観と安全に関する知識を有し、内科全般にわたる標準的な知識と技能を修得した、チーム医療のマネージャーとして全人的な診療にあたる医師』日本内科学会:新・内科専門医制度に向けて)と、非常に崇高なものです。

 

ここまでが、予定されていた新内科専門医制度の骨組みです。この指針が出された平成25年4月の段階では、制度開始に向けて以下のような予定が立てられていました。

 

図5

 

今は2016年度、ということは初期研修2年目の先生が養成プログラムに応募して・・・なんて動き、全然ないですよね(*_*; 実際、今はほぼ頓挫してしまっていると言ってもいいような状況です。そもそも雲行きが怪しくなってきたのが平成25年9月頃、つまり前出の指針が提示されてすぐのことです。まず、今回の柱の一つであった総合診療医の領域が、「内科専門医と何が違うねん!」という突っ込みの元、フワーとした扱いになりました。その後、「2017年の開始なんて、対応できへんわ!」といった大学等の各施設の意見を追い風にして、あろうことか今回の改革の本丸である『日本専門医機構』の中からも開始時期延長の意見が出始めました。さらに、遅ればせながら各サブスペシャリティ領域の学会から「そんな不十分な議論の上に、専門乗せられたらたまったもんじゃねぇ!」みたいな意見も出始めて・・・登場人物達の口が悪いですが(笑)、とにかく大混乱です。

 

さらに追い打ちをかけたのが、今年2月に開催された『社会保障審議会医療部会』です。ここで散々叩かれた訳です(内部の人間関係等がかなり絡んでいる感じもしますが・・・)。この会で、日本専門医機構理事長の池田康夫氏が新専門医制度の準備状況を説明したのですが、かなり厳しい口調で懸念や疑念を指摘され、議論は予定していた2時間を大幅に超えたようです。噴出した反対意見をまとめてみました。

 

 

地域医療への影響

 

「医師偏在をさらに強くする。地域医療に配慮していると言うが逆行している」、「地域包括ケア構想に支障が出る。来年4月からの開始は延期すべきだ。」(日本医師会副会長中川俊男氏)

 

「準備不足。地方では、(研修施設の基準となる)指導医数をクリアできる病院はなかなかない。次の医療崩壊の先駆けだ。」(全国自治体病院協議会会長邉見公雄氏)

 

「(地域連絡協議会の推進は)全然進んでいない。聞いたことが無い。地域医療にどう寄与するのか明確でなく、来年4月からやるのは拙速。」(全国知事会荒井正吾氏)

 

 

専攻医の待遇

 

「複数の施設で研修する新専門医制度では、国公立や私立の複数病院で短期間のローテーションが想定される。待遇や職場環境も含めて、専攻医が技術向上に集中できるサポートが必要だ。」(日本赤十字社医療センター木戸道子氏)

 

 

医師の診療科の偏在

 

「現在ホームページ等で記載されている領域別の労働環境や勤務条件などがかなり違う。産婦人科、救急、小児科など仕事がきつい診療科に進む人数がさらに減ってしまうのではないか。」(日本赤十字社医療センター木戸道子氏)

 

 

機構の組織

 

「新制度策定の柱の一つである『日本プライマリ・ケア連合学会』が社員ではないため、一日も早く他の18の学会と同じように社員とし、運営を委託すべきだ。」(日本医師会常任理事釜萢敏氏)

 

「研修施設群の認定評価が大学ばかりで病院はどうなるのかと不安がある」(日本病院会副会長相澤孝夫氏)

 

 

どの意見も正当性のあるものばかりで、これらに対する機構側の答弁は、客観的にみてもあまり説得力のあるものではありませんでした。で、結局どうなったかというと「もうちょっとしっかり話し合いましょう」って・・・(-_-;) 最新の話し合い(平成28年4月6日)では「延期ありきではないが、懸念が払拭されないなら延期も止む無し。何より機構側のガバナンスに問題があり、開始時期に合わせて無理やりスケジュールを組んでいるようで、議論の順番が逆。」と、「結局どっち?」といった感じで、さらに混迷を深めている訳です。

 

 

いつもこのブログでは私見を述べないようにしているのですが・・・「今更何を言ってるんだ!」というのが本音です。10年近く前から話が始まっており、制度としての骨組みが出来てから、あーだこーだ言い出すのは、ちょっと違うんじゃないか・・・別に、言ってる方々が悪い訳ではなくて、こういった問題点が出てくると予想できたはずなのに、それを先送りにしてきたことが問題だと思います。「厚労省+専門医機構」vs「その他団体」みたいなキナ臭さも見え隠れして・・・って、さすがにこの話はやめておきます(^^;) そして、管理人が一番腹立たしく思っていることは「実際にその制度を利用するであろう、研修医の先生方の利益・不利益が全然話題に出てこない」ということです。これで振り回されている先生方は大勢いると思いますし、ひいてはそれが患者様にも影響していく訳です。

 

 

繰り返しになりますが、『適切な診断と治療をもって一定数以上の内科症例を経験し、かつ医師としての倫理観と安全に関する知識を有し、内科全般にわたる標準的な知識と技能を修得した、チーム医療のマネージャーとして全人的な診療にあたる医師』という理念は素晴らしいものです。是非、最善の形で専門医制度がスタートすることを切に願います。

 

戦艦

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