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“「風邪をひいた!」といって受診する症候群”

『せき・はな・のどにル○が効く~♪』なんてCM、よく流れていますよね。このフレーズを聴いたら「風邪薬のCMなんだな」って、誰でも分かると思います。でも、一般外来をやっていると「何か身体がダルくて・・・よく効く風邪薬下さい」なんてことしょっちゅうです。咳も咳嗽も咽頭痛も無いのに風邪・・・もちろん、医療に関して素人である患者様がそう言われるのは、全く問題ありません。ただ、あろうことか医療者側が「そうですね、じゃあ風邪薬出しときます」なんて対応をしていることも、実は日常茶飯事だったりします。幸い、そういった対応でも9割程度は問題なく過ぎていきます(患者様の“自然治癒力”に助けられている訳です)。でも、見落としたときは大変です。『風邪だと思ったら敗血症だった』、『風邪だと思ったら髄膜炎だった』、『風邪だと思ったら心筋炎だった』、『風邪だと思ったらHIV感染症だった』・・・落とし穴だらけです(~_~;)

 

そういったことを防ぐため、田坂佳千(よしかず)先生の『風邪症候群の病型と分類』は非常に役に立ちます(http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200902213072180793)。田坂先生は日本のプライマリ・ケアの発展に多大な貢献をされた先生で、管理人も研修医時代に田崎先生の論文を読んで「プライマリ・ケアってスゲェ!」って思ったものです(残念ながら2007年にお亡くなりになりました)。田崎先生の分類は『“患者様が「風邪をひいた」といって受診した症候群”の分類』ともいえる、非常に実用的な分類です。

 

<上・下気道症状が目立つもの>

(a)  非特異的上気道炎型(せき・はな・のど型)・・・いわゆる「自信をもって風邪」

(b)  急性鼻炎・副鼻腔炎型(はな型)

(c)   急性咽頭炎・扁桃炎型(のど型)

(d)  気管支炎型

 

<上・下気道症状が目立たないもの>

(e)   高熱のみ型・・・敗血症など重篤化しやすい疾患が盛りだくさん!

(f)   微熱・倦怠感型

(g)  下痢型

(h)  頭痛型(髄膜炎型)

 

本当は全部話したいのですが、今回はこの中の『急性咽頭炎・副鼻腔炎型』の話です。定石通り、まずは緊急性の高い咽頭痛をきたす疾患(急性心筋梗塞、頸動脈解離・椎骨動脈解離、くも膜下出血、亜急性甲状腺炎、急性喉頭蓋炎、扁桃周囲膿瘍、Ludwigアンギーナ、Lemierre症候群・・・)の否定をしましょう(・・・って、そんな簡単なものじゃないですけどね(^_^;))。それが済んだ上で問題になってくるのが『抗菌薬は必要か?』という話題です。

 

基本的に、咽頭炎を起こすものの大部分はライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスなどのウイルス感染症で、細菌性は全体の10%程度(小児は5-20%)程度です(N Engl J Med 2001; 344: 205-11.)。じゃあ、それら全例に抗菌薬の適応があるかというともちろんペケです。その中の5-10%(小児は15-30%)を占めるA群β溶連菌(ABG)のみが、抗菌薬の処方対象です・・・定説では

 

“定説では”と書いた理由はまた後で触れますが、やはりABGの拾い上げは大切です。その方法として1981年に発表されたCenterの基準』がスタンダードですし、それに年齢を加味した『Mclaacの修正基準』もよく使われます(CMAJ 2000; 163: 239-46.)。

 

Centerの基準(変法)

  1. 発熱(38.0℃以上)
  2.  白苔を伴う扁桃の発赤
  3. 咳嗽なし(あっても軽度)
  4. 圧痛を伴う前頚部リンパ節腫脹
  5. 3-14歳:+1点
  6. 15-44歳:0点
  7. 45歳-:-1点
  • 0点:2%⇒ ABGの可能性低い。抗菌薬不要
  • 1点:7.5%⇒ABGの可能性低い。抗菌薬不要
  • 2点:14%⇒迅速検査して抗菌薬の要否を決定
  • 3点:31%⇒迅速検査して抗菌薬の要否を決定
  • 4点:52%⇒迅速検査して抗菌薬の要否を決定

 

「1点以下なら抗菌薬はいらないけど、2点以上なら自分で判断してね」といったところでしょうか。

 

ただ、これはあくまで何十年も言われている“定説”です。そもそも、抗菌薬は何のために処方するのでしょう。京都市立病院の山本舜悟先生は以下のように解説されています。

 

  1. 合併症の予防
  2. 周囲への感染拡大の防止
  3. 症状緩和

 

先に解説しますと、2.はABGの場合24時間以内は感染力がある(逆にそれ以降は大幅に下がる)、3.は抗菌薬投与で1~2日程度罹患期間が減るといわれていますので、その意味合いで抗菌薬を投与することは大義名分として成り立つかもしれません(エビデンスは乏しいですが)。問題は①です。ABGによる咽頭炎の合併症として有名なのは『リウマチ熱』『急性糸球体腎炎』『扁桃周囲膿瘍』です。このうち『急性糸球体腎炎』はアレルギーⅢ型の反応ですので、抗菌薬での予防効果はありません。『リウマチ熱』はどうでしょうか?予防効果はあります。NNT(Number Needed to Treat;:一人の治療効果を得るために必要な患者数)は63という報告もありますので。ただ・・・これって40年以上前の報告なんです。その時の『リウマチ熱』の有病率は現在の60倍以上。ってことは、今のNNTは4000程度と考えるべきでしょう。『扁桃周囲膿瘍』に関しては、咽頭炎患者に対するNNTが4300と報告されています。ただ、ABGの咽頭炎だけに絞るとNNT27なので、これは抗菌薬投与の根拠になるかもしれません(もっとも、この報告も50年以上前のものですが…)。

 

ちなみに、処方するならABGに100%感受性のあるペニシリンG(1g×4/日/10日)が1st チョイスになりますが、なければアモキシシリン(500㎎×3/日/10日)でもOKです。ただ、伝染性単核球症に処方すると100%皮疹が出ますので要注意。ペニシリンアレルギーがあればクリンダマイシンやレボフロキサシンがお勧めです。マクロライド系は耐性化が進んでいますので1st チョイスには使いにくいことも覚えておきましょう。

 

何も「咽頭炎に抗菌薬を処方しちゃダメ!」って言っている訳じゃないんです。咽頭炎に限らないのですが、何らかの根拠があれば抗菌薬は投与したっていいんです。「centerの基準で3点か。まだ発症初期だし、小さなお子さんもいるから移るかもしれないな。苦しむ時間も多少短くなるし処方しよう。」なんて考え方が出来るようになれば、貴方も立派なプライマリ・ケア医です(^^)b

 

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