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「念のため抗菌薬を・・・」の弊害

当院もそうなのですが、研修指定病院では「無駄な抗菌薬は投与するな!仮に投与する前にはしっかり培養!」といった考え方が、かなり浸透してきています(少なくとも研修医の先生のレベルでは)。非常に素晴らしいことだと思いますし、すべての医療現場でそういったコンセンサスが得られれば、日本の感染症診療は格段にレベルアップすると思います。思いますが・・・実際に診療所で診察していると、そうも言っていられないことなんてしばしばです(詳しくは『抗菌薬の小難しい話』をどうぞ)。

 

さて、抗菌薬を闇雲に投与すると、どんな弊害が起こるのでしょう?これについては、様々な報告があります。有名なものは、『上気道炎にセフェム系抗菌薬をアトランダムに投与した場合の有害事象』を検討したものです(Mandell, Bennett, and Dolin Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th Edition.)。

 

〈セフェム系抗菌薬を4,000人に投与した場合〉

  • 予防効果(上気道炎後の肺炎、咽頭炎後の咽頭膿瘍、中耳炎後の乳突蜂巣炎):NNT4,000以上(4,000人に1人以下
  • 皮疹(1~3%)・・・40~120
  • 下痢(1~19%)・・・40~760
  • アナフィラキシー(0.01%)・・・0.4

 

これ以外にも肝障害なんかは高率に認める印象がありますし・・・投与群完敗(>_<)

 

また、抗菌薬の副作用による救急外来受診数をまとめたアメリカからの報告もあります。データの精度としては前出のものの方が良いのですが、なんといてもそれぞれの抗菌薬の処方数約100,000症例に対して検討している圧倒的なデータです。

・ペニシリン系 13.0

・バンコマイシン、リネゾリド 24.1

・モキシフロキサシン 20.7

・サルファ剤と trimethoprim: 18.9

・リンコマイシン系(クリンダマイシンを含む): 18.5

・セフロキシム: 11.9

・エリスロマイシン: 10.0

・テトラサイクリン系、 メトロニダゾール、 nitrofuran:0.2 ~ 0.76

全体的には100,000症例あたり、105の救急外来受診率とのことです。救急外来に限っているのでこれが多いか少ないかの評価は難しいところですが、ワルファリンや、インスリン、ジゴキシンなど、一般的に副作用報告の多い薬剤の約半数の受診比率であることを考えると、『抗菌薬は副作用を起こしやすい薬』であることは間違いないところです。ちなみに、処方数が多いため、全体に占める割合はペニシリン系(36.9%)、フルオロキノロン系(13.5%)、セフェム系(12.2%)が多いです(Emergency Department Visits for Antibiotic-Associated Adverse Events;Clinical Infectious Diseases. 1058-4838/2008/4706-00XX DOI: 10.1086/591126)。

 

これらのデータをみれば、「やっぱり抗菌薬を闇雲に出すのは良くない」という結論になるのは明らかです。でも、「じゃあ出さないのが正解で、出すのが不正解か」というと、やっぱり何か引っかかるものが・・・。医療に正解を求めるのは難しいですし、少なくとも「患者様が満足してくれた」という結果を得られたら、それはそれでいいんじゃないかと、個人的には思います。でも、「抗菌薬を闇雲に投与すると、投与しなかった時より有害事象が多いんだ」という事実を知っておくことは、絶対に必要ですね(^-^)

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