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仕方がない誤嚥性肺炎ヽ(´ー`)ノ・・・なんてナイ!

多くの総合診療部門には、誤嚥性肺炎が多く入院してきます。『○○肺炎』と付いているにも関わらず、「この歳で肺炎だから誤嚥だな。よし、“総診”呼ぼう。」 ――今では当たり前のようになっている日本の病院の“文化”(?)ですが、これって少し問題だと思います。というのも、誤嚥性肺炎は死亡率の高さ、マネージメントの難しさなど、肺炎の中でもかなり難易度の高い疾患だからです。もちろん総合診療をしている先生方はエビデンスに基づいた治療を行っているので問題ありません。むしろ医療界に『誤嚥性肺炎』→『専門科での入院適応なし』→『専門性の低い楽な病気』といった思考パターンができてしまうことが問題です

 

偉そうな問題定義はこれぐらいにしておいて、何故年齢と共にこうした現象が起こるのかは押さえておく必要があります。東北大学の研究グループが提唱した『ドーパミン低下説』です。大脳基底核から放出されたドーパミンの刺激により、頸部神経節でサブスタンスPが生成され、そのサブスタンスPが迷走神経と舌咽神経を経由して、嚥下反射咳反射を誘発します。東北大学の説は、加齢によるドーパミンの低下が、サブスタンスPの低下を招き、結果として嚥下反射と咳反射の両者が低下して誤嚥が起こり易くなる、というものです。この病態生理、確定したように扱われていますが、実は世界的にみればあくまで仮説の一つのようです。ただ、これ以外にこれといった説もないようですので、現時点ではこの説に基づいた治療戦略を立てざるを得ません。この病態生理を踏まえた治療は後ほど説明します。

 

それでは、目の前の患者様に誤嚥のリスクがどれくらいあるか。もちろん、正確な評価には嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査が必要ですが、一般外来や病棟でもある程度の評価はできます。

 

・咽頭反射テスト:上咽頭部を綿棒で刺激し、嘔吐反射が出るかどうかをチェック

反射あり⇒(+)

顔をしかめる⇒(±)

反応無し⇒(-)⇒経口摂取は困難

 

・反復唾液飲みテスト(RSST):30秒のうちに何回唾液を飲み込めるかをチェック

2回以下⇒通常食の摂食は困難

 

・改訂水飲みテスト(MWST):冷水3mLを口腔前庭に注ぎ、嚥下してもらう

1点:嚥下なし、むせまたは呼吸変化を伴う

2点:嚥下あり、呼吸変化を伴う

3点:嚥下あり、呼吸変化はないが、むせあるいは湿性嗄声を伴う

4点:嚥下あり、呼吸変化なし、むせ、湿性嗄声なし

5点:4点に加え、追加嚥下運動(空嚥下)が30秒以内に2回以上可能

判定不能:口から出す、無反応

⇒3点以下の場合、誤嚥の疑いあり

 

リハビリ科に嚥下評価を依頼する際に「咽頭反射陰性、RSST2回、MWST2点です。よろしくお願いします。」なんて書けるとカッコイイですよね(^-^)

 

 senior male 92 years old being fed by a nurse

 

このあたりを押さえた上で、誤嚥性肺炎のガイドラインのポイントをみてみましょう。まずは急性期のポイントです(日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会 編:成人院内肺炎診療ガイドライン2008)。

 

・ 多くの症例では、発熱、喀痰、咳嗽、頻呼吸、頻脈などを伴うが、高齢者では食欲低下や日常活動低下、意識障害、失禁など症状が非典型的な場合があり注意が必要である。

・ 誤嚥を来しやすい病態(脳血管障害、神経筋疾患、認知症、胃食道逆流など)があり、発熱、咳嗽、喀痰、日常活動低下や意識障害などがみられたら誤嚥性肺炎/嚥下性肺炎の可能性も考える。

・症例は基礎疾患を有する高齢者であることが多く、重症度は中等症以上の肺炎として対処する

・胸部X線写真では肺炎像が認めがたいものもある。起因菌としては、肺炎球菌、嫌気性菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの頻度が高いが、嫌気性菌を含む口腔内常在菌が原因となることが多く、喀痰検査では起因菌の決定が難しいことも多い。

・急性期には水分バランス、栄養状態に注意しながら全身状態の管理と肺炎に対する抗菌薬の投与を行う。

・抗菌薬はβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬を第1選択として、その他に第3世代セフェム系薬、カルバペネム系薬を投与し、適宜クリンダマイシン(ダラシン®など)を併用する。

重要なのは『分かりにくい症状で発症する』『すべて中等度以上として対応する』といったところです。次に安定期の予防についてです。

・とにかく口腔ケア。歯磨きの徹底、義歯の手入れ、うがいにより口腔内を清潔に保つ。歯周病の治療を行う。

・食後は胃食道逆流を防ぐ体位をとる。就寝時にはできるだけ頭位を高く保つ(30°)。

・嚥下障害が強く、自力での食事摂取不能な場合や、誤嚥を反復する場合は経管栄養(胃瘻造設)を考慮する。

・嚥下反射、咳反射を担っている内因性物質であるサブスタンスP、ドーパミンを増加させる薬剤(ACE阻害薬やパーキンソン病治療薬)を考慮する。

・脳血管疾患の予防:高血圧や糖尿病などの生活習慣病のコントロールと、脳血管障害の進展を防止する。

 

30°のギャッジアップ自体にエビデンスレベルの高い報告はなさそうですし、胃瘻に関しては色々な意見がありますが、それについてはまた別の機会に。ここでは、ACE阻害薬やパーキンソン病治療薬について述べたいと思います。

 

さきほどの『ドーパミン低下説』に戻ります。ドーパミンが低下することで嚥下反射や咳反射が悪くなるのなら、ドーパミン、あるいはサブスタンPの濃度を高める薬剤を使えばいい訳です。この目的で使用されるのが、パーキンソン病の治療薬の1つである、アマンタジン(シンメトレル®)、降圧薬であるACE阻害剤(レニベース®、タナトリル®など)、漢方薬の半夏厚朴湯、抗血小板剤のシロスタゾール(プレタール®)です。

 

まずはアマンタジン。嚥下反射の低下した脳血管障害患者にL-DOPAを投与すると嚥下反射が著明に改善したことをうけ、脳血管障害を有する高齢者患者に大脳基底核でのドーパミン遊離促進薬であるアマンタジンを投与したところ、肺炎発症率が1/5に抑制されました(相対リスク:5.92)(J Am Geriatr Soc 2001; 49: 685-90)。

 

次にACE阻害剤。ACE(アンギオテンシン変換酵素)はサブスタンPの分解酵素の1つで、ACE阻害薬を投与すればサブスタンPの分解も阻害されるため、誤嚥性肺炎患者の嚥下反射が正常化するというもの。脳梗塞再発に対するACE阻害剤の有効性を検討した有名なPROGRESS試験がありますが、その2次解析をさらに肺炎の予防効果に関して、アジア人を対象にしたサブ解析では、45人を5年間治療すると肺炎の発症を1人減少させると報告しています(Am J Respir Crit Care Med 2004; 169: 1041-5)

 

また、誤嚥性肺炎の症例を抗菌薬単独投与群と抗菌薬+ACE阻害薬(タナトリル)+シンメトレル併用投与群との比較試験では、併用群で抗菌薬使用量が半減し、在院日数・医療費は2/3に減少、MRSA発生率、肺炎での死亡率も有意に減少しています(J Am Geriatr Soc 2004; 49: 687-8)。

 

その他、シロスタゾールを投与すると,誤嚥性肺炎発症率が40%に低下したという報告(J Am Geriatr Soc 2001; 49: 685-90)や、嚥下反射時間が短縮することが知られている半夏厚朴湯の肺炎発症予防効果の報告(J Am Geriatr Soc 2007; 55: 2035-40)もあります。また、予防効果とは逆に、PPI投与による誤嚥性肺炎増加の報告も多数報告されています。同じ胃酸分泌抑制剤でもH2受容体拮抗薬では肺炎の増加は認めないようです(Front Gastroenterol 2009; 14: 263-70)。ちなみに、PPIはClostidium difficile関連下痢の原因になることも重要です。

 

これらをまとめると、誤嚥のリスクのある患者様にはACE阻害剤とアマンタジンを積極的に使い、必要に応じてシロスタゾールや半夏厚朴湯を加える、PPIが投与されている場合はH2受容体拮抗薬に変更する・・・といったところが、現時点での正解でしょう。ただ、すべて保険適応外であることアマンタジンにはせん妄などの副作用があることには注意が必要です。

 

長々と書いてきましたが、一番強調したいことは「歳だから誤嚥してもしょうがない。専門的な治療は必要ないでしょ。抗菌薬投与してそのうち胃瘻を造って・・・」という、間違った認識を持たないで欲しい、ということです。・・・説教じみててすみません(^_^;)

 

えがお

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