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平成23年3月11日

今年もこの日がやってきました。日本人にとって忘れられない日、忘れてはいけない日・・・どんな言い方をしても、虚しく聞こえます。まずは、亡くなられた方々への深い哀悼の意と、今も苦しまれている被災者の方々への御見舞いを申し上げます。

 

あの震災の時、管理人は・・・何も出来ませんでした。もちろん、被災地に行くという意志表示はしました。阪神淡路大震災の時はただテレビで観ることしかできなかったこともあり、「ここで行かなければ、死ぬ前に絶対後悔する!」って思ったんですが・・・どう仕事を調整しても無理でした。しばらくは、無力感に苛まれて悶々としていたんですが、途中で切り替えました!「災害医療をレクチャーして研修医の先生に知ってもらえば、間接的にでも役にたてるんじゃなか・・・」って。その時にしていたレクチャー内容です(阪神淡路大震災に即しての内容になっています)。少し情報量が多くなってしまいますが、お付き合い下さい。

 

被災直後

 

  • Ÿ災害医療とは、地震、火災、津波など大規模災害により、対応する側の医療能力を上回るほど多数の医療対象者が発生した時に行われる医療を指し、医療体制、及び避難場所の準備、食料支援の確保、PTSDのケア、ボランティアの組織、災害派遣医療チームの連携などのすべてを包括して言われるものである

 

〈発生直後〉

 

  •  “CSCATTT(シーエスキャスト)”。C:Command:命令、S:Safety: 自分の安全、場の安全、患者の安全、C:Communication: コミュニケーション、A: Assessment:評価、T:Triage:トリアージ、T: Treatment:治療、T:Transport:患者の域外搬送。情報伝達時に伝えるべき情報は“METHANE”
  • 重症でも広域搬送しない!:重症頭部外傷(GCS<9かつ両側瞳孔散大)、高度呼吸障害(FiO2 1.0でSpO2<95%)、広範囲熱傷Burn Index(3度熱傷面積+2度熱傷面積×1/2)が50以上

 

〈超急性期(発症2日以内)〉

 

  • ①患者救助・救出・避難誘導、②医療機関の被災情報、医療の需要情報発信、③診療科にこだわらずに医療活動(外傷対応やトリアージ)、④DMARTが到着した場合、適切に情報を伝達・共有し、新たな役割分担を実施、⑤慢性内科疾患の中でも緊急対処すべき疾病患者の把握と緊急対処(透析、在宅酸素療法、ステロイド内服、インスリン使用など)
  • 瓦礫の下の医療:①救助者の安全7つ道具:ライト付きヘルメット、ゴーグル、防塵マスク(N95以上、できれば吸収缶付き)、手袋、安全靴(爪先に鉄板)、肘と膝のプロテクター、ホイッスル、無線機、②使用機材はすべて外部で準備。瓦礫内で店を広げるな。③侵入は原則1名、処置が必要な時のみ2名、それ以上は無駄、④鎮痛の基本はモルヒネ系、麻酔はケタミン静注・筋注、⑤患者に接近したらまずボイスコンタクト、自己紹介、相手の性、氏名、年齢、訴えを聞き手を握り診察、静脈路確保し大量輸液開始、⑥閉じ込められた人の9割はコンクリートで熱を奪われ低体温になっている!壁と体の間に毛布や段ボールを差し込み、上からは保温シートを掛ける。
  • 挫滅症候群:①患者が瓦礫の下にいる間(6時間以内)から輸液開始、②生食1L/hで開始、救出後は低張生食(ST1,ST4)、③低張生食1Lあたりメイロン50mEq(メイロン84を50ml)追加、④20%マンニットール50mlを輸液1L毎追加、⑤時間尿量300ml/hを保て、⑥K入りの輸液(ST3など)は不可、⑦転送するときはKayexalate経口、あるいは注腸せよ、⑧透析を要する場合は早急に余裕のある後方病院へ、⑨最前線での病院の透析は極力避けよ、⑩時間が経つほど重症化し転送は困難になる
  • 問題となる感染症は、外傷・熱傷・骨折に伴う創部感染。特に破傷風!破傷風トキソイドと可能ならテタノブリンも。屋外での外傷では3日程度の抗菌薬(オーグメンチンなど)。動物咬傷ではオーグメンチンがよい。外傷の感染予防には、十分な創部の洗浄と適切な創閉鎖が肝!異物が残っていないことを必ずチェック!
  • 高リスク患者(例:コントロール不良の糖尿病、末梢血管病変があり、 血流不良のある場合、ステロイド使用、リンパ浮腫、AIDSなどの免疫不全、開放骨折または関節に達するような創、腱や軟骨に達するような創、 肉眼的に汚染されており、十分に洗浄できないような創、穿通創や挫滅創 ・動物咬傷、人咬傷 ・口腔内の傷 ・受診までが大幅に時間がかかった(18時間以上)場合では予防的な抗菌薬投与を!
  • 予防投与は蜂窩織炎の原因として頻度の高い黄色ブドウ球菌、連鎖球菌 をターゲットにして第一世代のセファロスポリ。汚染が強い場合はグラム陰性桿菌をターゲットに してアモキシシリン・クラブラン酸(サワシリン)。βラクタム剤にアレルギーがあればキノロン。実際に感染してしまったら、とにかくデブリードメント

 

被災3日後

 

〈3日目以降〉

 

  • Ÿ被災地病院:使用できる病棟・診察室の確保、不足している医療物品の確認(特に薬の備蓄状況の確認)、患者の動線(危険の回避)、対応困難な症例の転院先の確認、転院手段の確認(ヘリ、救急車)、入院制限・入院優先順位の確認
  • 巡回先では災害対策本部で情報収集(ミーティング)、医療必要度の高い人のピックアップ、不眠、便秘、高血圧などへの対応、感染症(感染性腸炎、インフルエンザなど)の流行への注意、エコノミークラス症候群予防(水分摂取の励行、足を延ばせるスペースの確保)、慢性心不全・慢性呼吸不全の急性増悪、血管イベント、タコツボ型心筋症への留意、トイレ環境・食事内容の整備・改善
  • 非被災地病院:被災地病院からの患者受け入れ準備(ベッド確保・退院可能患者の早期退院・予定入院延期)、被災地病院との連絡担当は受け入れ可能人数の把握(経時的、各科ごと、重症度ごと)、医療救護班の派遣(内科系・精神科スタッフの招集、自己完結型の装備、派遣でいなくなるスタッフの穴を補充
  • 問題となる感染症:(1)洪水・津波:外傷(創部の化膿、破傷風ガス壊疽、炭疽)、汚染水吸入・誤嚥(緑膿菌性肺炎、レジオネラ肺炎、vulnificusを含むビブリオ感染症(冬ではそのリスクは低め)、レプトスピラ、A型肝炎、エアロモナス)、患者体液、汚物による環境汚染に起因(コレラ細菌性赤痢腸チフス)、感染した動物や死体との接触(レプトスピラ症(ワイル病)、ペスト、ハンタウイルス感染症)、媒介動物の生息域の拡大(アルボウイルス感染症、(デング熱、ウエストナイル熱、日本脳炎、黄熱、チクングニアなど)、マラリア、フィラリア)、汚染土壌の拡大(炭疽)/(2)地震:外傷に伴う感染症(洪水、津波と同じ)、土壌の真菌の飛散(コクシジオイデス症)/(3)森林火災:火傷(皮膚感染症)
  • 避難所で問題となる感染症:経口感染(ウイルス性感染症(ノロウイルス、ロタウイルス等・・・とにかく下痢が危険!)、A型肝炎、E型肝炎、コレラ、細菌性赤痢、腸チフス、サルモネラ症、アメーバ性赤痢、 クリプトスポリジウム、ランブル鞭毛虫)、飛沫感染(感冒インフルエンザ、髄膜炎菌髄膜炎)、空気感染(麻疹結核)、経皮感染、汚染水との接触(住血吸虫症)、野生動物との接触(レプトスピラ症、狂犬病、ハンタウイルス感染症、ペスト、トキソプラズマ症、エキノコッカス(包虫症)、住血線虫症)、蚊による吸血(アルボウイルス感染、マラリア、フィラリア)、その他の吸血性昆虫・動物による感染(ペスト、発疹チフス、ツツガムシ病、リーシュマニア、トリパノソーマ)
  • 死体からの感染症:血液媒介ウイルス(HBV・HCV・HIV(針刺しと同じ))、消化管病原体(ロタ・キャンピロ・サルモネラ・腸チフス・病原性大腸菌・赤痢・A/E肝・コレラ)、呼吸器病原体(結核)、通常の標準予防策で血液体液への曝露を回避し、手洗いの励行を。死体よりも、生存している人間による感染拡大のリスクのほうが大きいことに注意!
  • 放射線被曝:今回の被爆量は、多い人で胸部レントゲン3~4回分程度。皮膚・粘膜障害、骨髄抑制、脊髄障害などの『確定的影響』は出ない。癌や白血病などの『確率的影響』に関しては不明・・・

被災感染

 

〈被災地に入る内科医の対応〉

  • 自己防衛として「破傷風」「HBV」「麻疹」の免疫は確認。破傷風予防接種は最終接種から10年たっている場合は破傷風トキソイド 0.5mL 1回追加接種。
  • 急性期:救急科を中心とする外傷治療のサポート、軽傷処置/亜急性期・慢性期:内科疾患の治療・メンタルケアサポート/病棟業務:傷害を負った職員や入院患者の救護、入院患者の医療継続、重症傷病者の受け入れのための空床確保、入院中の軽症患者の帰宅支援

 

〈心理的ストレスへの対応〉

 

  • 焦って心理対応する必要はない(PTSD等の予防的カウンセリングは存在しない)。短く明快に、目を見てゆっくりと話す。心の話は必要なし(嫌われることも)。不安や心配の対象と決めつけない。相手が苦しんでいる時に「元気を出せ」「大丈夫」は禁物!
  • 初期の心理教育:不安、心配は当然であり、自然に落ち着く。呼吸法:6秒大きく吐き、6秒大きく吸う(朝夕5回ずつ)。カフェイン、飲酒、喫煙が増えないように。受診ポイントを指示する(心配で話が耳に入らない、ミスが増えた時、2日間眠れなかった時、動機・息切れで、苦しいと感じた時)
  • 惨事ストレスへの対応:一律に保護し、必ず数カ月の経過をみる。自然回復モデルでの説明は禁忌!本人の訴えだけでケアの必要性を判断しない(本人は必ず「大丈夫」と言う)。救援者も注意(目撃し易い、弱音を言えない)。身体医療の確保、医療連絡先の提示、睡眠環境の確保(抗不安薬は3回まで)。

 

もちろん、こういった知識が必要になる時が訪れないことが一番です。でも、我々は知っていなければなりません。それが、我々医療者ができる最低限の“鎮魂”なのではないでしょうか。

 

陸前高田

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