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医者は・・・“誤診”します

元東大名誉教授で神経内科の大家である沖中重雄医師(1902-1992)が東大を退官されるとき、自らの誤診率を約14%と発表したというのは有名な話です。神経内科という診断の非常に難しい分野で86%の正診率は、さすがは日本の神経内科の開祖という数字ですが、一般の方の受け取り方は違います。「14%も誤診するんだ!」となります。「名医って言われている人でもそんなに間違えるんだから、普通の医者はどれだけミスしているんだろう」と不安に思われるんです。

 

では、我々普通の医者は、どの程度誤診をするのでしょうか・・・て、こんなの分からないですよね。実際の現場では「ん~、風邪だと思いますけどね~。とりあえず風邪薬出しておきましょう。」何て感じで、対応されることが多いですよね(良い、悪いという話は置いておいて(/_・)/)。で、仮にそれが風邪じゃなくても、“自然に治る病気”だったら、医者側は「風邪薬で治ったから風邪だったんだ。」と考えますし、患者様も「お医者さんが風邪って言って、実際治ったんだから風邪だったんだ。」と思います。その結果、その時の“誤診”は闇の中・・・て、別にこれが悪い訳ではないですけどね(^_^;) とにかく、正確な“正診率”、“誤診率”を出すのは、実際の臨床の中では難しいと思います。

 

待てよ、沖中医師が主に診療されていたのは20世紀の前半、MRIはもちろんCTもない時代です。こういった検査を組み合わせる現代なら、正診率はもっと上がているかも・・・ってこともちゃんと検討されています。有名なのは2001年のJAMAに掲載された『Has misdiagnosis of appendicitis decreased over time? A population-based analysis.』という報告です。一般的に虫垂炎の誤診率(手術してみたら虫垂炎じゃなかった)は約15%程度と言われていましたが、それがCTの普及により低くなったんじゃないか、ということを85,790症例を対象に検討したコホート研究です。その結果は、『 84.5%は虫垂炎(25 .8%は穿孔)で、15.5%は虫垂炎との診断と関連せず』・・・変わってないんです(ToT) 恐らく、他の疾患も似たり寄ったりなんじゃないでしょうか。

 

こんな報告がありました。2004年のArch Interne Medに掲載された『Clinical and autopsy diagnoses in the intensive care unit』という前向き試験です。世界的に剖検率が減少していることに対しての背景因子を検討したもので、ICUに入院した1492人のうち、死亡した315人を対象にしたもので、剖検数は167(53%)にのぼります。剖検できなかった理由の約80%が家族の拒否であったり、ICU滞在期間が長いほど剖検率が上がったりと、興味深いデータが挙げられていますが、今回のメインテーマである“誤診”についても検討されています。剖検された167例中、見落とされた疾患が述べ171個にのぼり、何と53例(31.7%)が診断変更、つまり“誤診”だったということです。比較的最近の報告ですし、ICUなら、恐らくかなり精査がされているはずです。で、この数字です。

 

でも、誤診を恐れては何も進みません。我々はどうしたらいいんでしょう・・・。

 

語弊があるかもしれませんが、誤診には「ある程度仕方がない誤診」「言い訳の出来ない誤診」があります。

 

「ある程度仕方がない誤診」は、①十分な医療面接を行った上で、②(それぞれの状況の中で)必要十分な検査が行われ、③診察の段階で考えうる診断名を患者(あるいはその家族)に丁寧に説明され、④十分な同意が得られており、⑤後から他の医師が検証してもやむを得ないものです。

 

例えば、髄膜炎の場合を考えてみましょう。十分な問診と身体所見をとった上で髄膜炎が否定できなかったとします。髄液検査をしようにも、診療所では行えません。そこで「通常の感冒に伴うものの可能性が高いですが、髄膜炎の可能性も完全には否定できません。完全に除外するためには髄液検査を行わなければなりませんが、当施設では行えません。○○病院に紹介させていただこうと思うのですがどうですか?」と患者様にお伝えして、その結果、「分かりました。でも、今は少し楽になったので、もう少し様子をみたいです。」と返事をされました・・・これなら、①~⑤を満たしていますので、「ある程度仕方のない誤診」と言えます(もちろん、人によって解釈は様々ですが)。

 

「言い訳の出来ない誤診」は、簡単に言ってしまえば前述の①~⑤のどれかが抜け落ちているものです。①十分な問診も身体診察もされず、②その結果必要な検査がされず、③患者様には十分な説明がされず、④同意の確認もせず、⑤他の医師からみてもフォローの仕様がない・・・。実際に行われている医療訴訟の多くはこのパターンのようです。

 

医者は誤診をします。それはもう仕方がないことです。むしろ、「自分は3割以上誤診しているんだ」ということを肝に命じるべきだと思います。世は訴訟時代。どんなに予防線を張っていても、自分が訴訟対象になる可能性はあります。でも、日々の努力でその可能性を下げることは十分に可能です。そしてそれは、すべて患者様の利益になります。みんなで頑張りましょう(・∀・)/

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