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『睡眠時無呼吸症候群』を知る意味

最近、外来で「睡眠時無呼吸症候群の検査をしてもらえますか?」と、何人かの患者様に質問されました。おそらく先日のバス事故(日刊時事ニュースの影響もあるかと思います。ただ、この事故と睡眠時無呼吸症候群の因果関係はまだ分かっていません。癲癇と同様、『言われなき偏見』を持たれる可能性もあります。でも、この疾患自体は絶対押さえておきたいところです。

 

そもそもこの病名が付けられたのは1976年で、まだ40年弱の歴史しかありません。ただ、1956年にBurwellらが、日中の強い眠気、心不全、呼吸性アシドーシスを持った肥満の患者について報告しており、これが「ピックウィック・クラブ」という本に登場する「少年ジョー」に似ていることから「ピックウィック症候群」と命名しています。

 ピックウィック

 

 1981年にはCPAP(continuous positive airway pressure)、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術、1984年にマウスピース、1993年にはオートCPAPが開発されるなど、治療の進歩がみられました。また、1993年にはアメリカで大規模な調査が行われ、患者数が非常に多いことや、重大な事故の原因になっていることが報告されています。1979年の『スリーマイル島原子力発電所事故』、1986年の『スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故』、『チェリノブイリ原発事故』なども、この病気によるものと言われています。ただ、日本でこの病気が認知されたのは、やはり『山陽新幹線の運転手居眠り事件』でしょう。2003年2月26日、JR山陽新幹線岡山駅で、東京行の新幹線が、所定の位置より約100m手前で止まり、3両ほどがホームからはみ出したままになっていた。車掌が運転席に駆けつけると、運転士は腰かけたまま眠っていた――この体重100kgを超える運転手が、後に重度の睡眠時無呼吸症候群であったことで、日本でもこの病気への関心が高まりました。

 

診断基準は以下の通りです。

s21

合併症にも注意する必要があります。睡眠時無呼吸症候群はよく氷山にたとえられるのですが、症状として実感できるものは、「いびき・無呼吸」の下に、高血圧・心臓病・脳卒中・糖尿病といった生活習慣病を引き起こすリスクが潜んでいます。脳卒中治療ガイドラインでも、この疾患は独立した危険因子として挙げられています(脳卒中ハイリスク群の管理-睡眠時無呼吸症候群

 

SAS合併

 

実際、睡眠時無呼吸症候群とメタボリックシンドロームの合併率は、非睡眠時無呼吸症候群の人に比べ、男性で2倍、女性で4倍と言われています

 

男性

女性

非睡眠時無呼吸症候群

22.0%

6.7%

睡眠時無呼吸症候群

49.5%

32.0%

重症睡眠時無呼吸症候群

59.0%

50.0%

Sasanabe, R et al.: Metabolic syndrome in Japanese patients with obstructive sleep apnea syndrome Hyperten Res, 29: 313-322, 2006.

 

検査はスクリーニングのためのポータブルモニターと終夜ポリグラフィ検査ですが、レントゲン検査(胸部・頸部)・内視鏡検査や血液検査で二次性多血症・アレルギー素因の有無・生活習慣病関連の項目の確認を行います。

 

SAS健常者 SAS異常者

健常者の頸部軟部XP

SAS患者の頸部軟部XP

 

ちなみに、これがポータブルモニター。ただ、低呼吸と無呼吸の境界が曖昧だったり、慢性閉塞性肺疾患や心不全の場合は評価がイマイチ。あくまでスクリーニング用です

 

PM

 

終夜睡眠ポリグラフィ検査で、どんなことをチェックしているか知っていますか?実は、こんなにたくさんの項目をチェックしているんです。

・脳波:睡眠の深さの測定

・眼球運動:レム睡眠・ノンレム睡眠の判定

・心電図:無呼吸による心拍変化や不整脈の有無を確認

・パルスオキシメーター:低酸素血症の確認

・オトガイ筋電図:下顎の状態の評価

・下肢筋電図:むずむず足の睡眠への関与の確認

・気流センサー:鼻~口への呼吸の確認

・呼吸センサー:胸部・腹部の呼吸時の喚起運動の確認

・体位センサー:睡眠時の体の向きの確認

・いびきセンサー:いびき音の確認

 

検査を勧めるからには、それぞれの検査の値段もある程度知っておきたいところです。以下は、平成26年3月現在の3割負担の場合です。入院その他の料金は含みませんのであしからず。

・簡易検査(パルスオキシメーター):300円

・簡易検査(ポータブルモニター):2,700円

・終夜睡眠ポリグラフ検査:10,440円

 

最後に治療。CPAPがメインなのは間違い無いのですが、これが意外にエビデンスが少ないんです。小規模な報告はあるのですが・・・。例えば、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断された149名を対象とした報告では、3ヶ月間のCPAP療法における鼻マスク装着時間が長いほど、日中の眠気や身体症状の改善作用が高くなることが判明しました(ただし、7時間以上装着しても2割の患者では眠気を解消できないとのことです)。

Weaver TE et al., Relationship between hours of CPAP use and achieving normal levels of sleepiness and daily functioning. Sleep: 2007; 30:711-719

 

合併症の発生率低下に関しては、そこそこインパクトのなる報告があります。少し古い報告なんですが2005年のLancetにこんな報告がありました。

Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study.

健康成人264名、未治療軽症の無呼吸症候群377名、未治療中等症の無呼吸症候群403名、未治療重症の無呼吸症候群の235名、CPAP治療群372名を対象に、致死性心血管イベント/非致死性心血管イベントの発症数を比較したものです。健康成人が100名中0.3名/0.45名だったのに対し、未治療軽症群が0.34名/0.58名、未治療中等症群が0.55名/0.89名、未治療重症群が1.06名/2.13名だったのに比べ、CPAP治療群は0.35名/0.64名でした。この数字を見てしまうと、少なくとも中等症以上は積極的にCPAPを勧める必要がありそうです。ちなみに、CPAPの費用は3割負担で4,500円/月です。

マウスピースに関しては、単独での質の高いエビデンスは見つけられませんでした。システマティックレビューをまとめたAHRQでは、マウスピース+CPAPが、最も有効な治療法であると報告しています。

 

・・・長くなっちゃってスミマセン(^_^;)

でも、我々が気付いて差し上げられなかったばっかりに、言われなき偏見に晒されてしまうかもしれないんです。是非おさえておきましょう。

 

いびき

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