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事実を知る“義務”―原発後の甲状腺がん

3月11日の報道ステーションで、非常に意義深い特集がされていました。『福島県で震災当時18歳以下の子ども約27万人のうち33人が甲状腺がんと診断。原発事故との関連性は?真相を求めてチェルノブイリへ』――結論はともなく、ここまで突っ込んだ報道をした同番組に敬意を表したいと思います。

 

 

実際の報道内容はこうです。

 

福島第一原発の事故から3年がたった。福島県で震災当時18歳以下の子ども約27万人のうち、甲状腺がんと診断された子どもは33人。子どもの甲状腺がんは、年間100万人に1人か2人とされてきたが、それよりもはるかに高い割合で見つかった。県の第三者委員会は、今、見つかっている子どもの甲状腺がんについて、原発事故の影響は考えにくいとしている。しかし、子どもが甲状腺がんと診断された母親は、やり場のない思いを抱えている。子どもの甲状腺がんは、本当に放射線と関係ないのか。1986年4月26日、チェルノブイリ原発の4号機が爆発・炎上し、莫大な量の放射性物質が放出された。未曽有の原発事故を経験したこの地で、子どもの甲状腺がんと被ばくの関係は、どのような結論に至ったのかテレビ朝日ホームページより)。

 

 

日本人の気質を考えると、どうしても“権威あるもの”“悪”としてしまうところがあります。今回の特集も、どうしても国や県の対応に対して批判的なトーンで報道されています。しかし、実際にこれだけ大きな集団に対して、一手に情報をまとめ、定期的に検診を行う病院の先生方は、大変なご苦労をされていると思います。このブログでは、極力中立的な立場で事実を書こうと思います。

 

 

まず事実として抑えておかなければいけないことは、甲状腺がんのように、進行の遅い癌に対してのスクリーニングには、『期間バイアス(length bias)』がかかる、ということです。これは、『より早い時期に頻回にスクリーニング検査を行うことにより、より高頻度に検査に引っかかってしまう』、というものです。ご存知の通り、甲状腺がんの大半を占める乳頭癌や濾胞癌は進行が遅く、生存率も診断から30年で90%以上と、非常に“大人しい”癌です。小児の甲状腺がんの発生は100万人当たり1~3人といわれていますが、今回の報告は100万人当たり100人以上です。これに対して、福島県内の甲状腺がんスクリーニングを行っている福島県立医大は、「今回のような精度の高い超音波検査で大勢の子どもを対象にした調査は前例がなく、比較はできない」と発表しています。つまり、「『期間バイアス』がかかっているから、単純比較は出来ない」ということです。そして、現在の知見からは「チェルノブイリで子供の甲状腺がんが増えだしたのは、事故後4、5年後だった。だから、今発症している子供の甲状腺がんは、原発事故と因果関係がない」と結論づけています。

 

 

では、ここで取り上げられているチェルノブイリのデータはどういうものでしょうか。グラフはチェルノブイリ原発事故後のベラルーシ共和国における、小児甲状腺がんの年齢別発生件数です。確かに、事故後4年目から増え始め、5年目から著明に増加していることが分かります。

 

甲状腺がん

 

甲状腺がんのスクリーニングに対して、86年当時の旧ソ連の診療体制はどうだったのでしょう?頸部超音波などが導入されたのは90年代に入ってからで、甲状腺の検査は、基本的に触診のみでされていたのです。しかも、当時はI-131による内部被爆が甲状腺がんを引き起こすことは分かっておらず、「放射線被爆によって甲状腺がんが増加する」といった、科学的なコンセンサスが、完全には根付いていなかった時代です。おそらく、事故直後に国レベルでのスクリーニングがされていなかったと思います。1990年頃から旧ソ連の科学者達から「チェルノブイリ事故における発癌リスクが低く見積もられていた。」といった内容の報告が出始め、それに伴い甲状腺がんの報告が増えていきました。

 

 

なぜスクリーニングが十分に行われなかったのでしょう。それは、チェルノブイリの時代の甲状腺がんに対する知見が、「発症するのは被爆後8、9年後」だったからです。そして、その知見は広島、長崎のデータ、つまり1945年前後のデータを元にしていたからです。当時の甲状腺がんの診断技術は、“押して知るべし”です。

 

 

これらの情報は、あくまで“事実”であって、それが良い、悪いという話ではありません。また、報道では「変に人々の不安を煽るから」という理由で、県(国)が情報を一手に管理している、という点も批判していますが、それについても私見を述べるつもりはありません。管理人が言いたいことは、こういった事実が存在すること、こういった事実に苦しまれている方々がいること、そして、医療人はその事実をそれぞれ受け止め、自分なりの考えを持つことが必要だ、ということです。

 

 

東日本大震災を、過去の事にしてはいけません――

 

福島原発事故を-レベル7-に引き上げたことを報道する新聞

 

 

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