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「美味しい!」と感じること

「何を食べても、ゴムと砂利を食べている感じです」――味覚障害は、経験したことのある人にしか分からない、非常に辛い症状です。時々外来にも来られるんですが・・・正直、しっかりしたアセスメントをしている自信はありません。確かに難しい主訴だとは思いますが、管理人の無知からくるものかもしれません。ちょっとまとめてみました。

 

まずは基本的なところから。ご存知の通り、味を感じる場所は味蕾です。味蕾は口腔内に約8,000 〜10,000個あり、その多くは舌に存在しています。味蕾は味細胞支持細胞から成るのですが、舌の表面にある味孔という小さな穴から味覚に関係する化学物質が入り込み、味細胞が感知して情報を電気信号に変換して中枢に伝達します。味細胞の寿命は約10日間と言われており、体内でも非常に新陳代謝の旺盛な器官の一つです。この新陳代謝に不可欠なミネラルの一つに亜鉛がある訳です。

 

味蕾で得られた情報は舌の前方2/3では舌神経→鼓索神経→顔面神経を介して、舌の後方1/3および咽頭では舌咽神経を介して伝達され、延髄を経て大脳皮質味覚野で味が識別されます。情報はさらに大脳皮質前頭連合野にも送られ、視覚、嗅覚、触覚などの情報と統合されて認知されます。この伝導路のどこかに障害が起こると味覚異常を来すことになる訳です。

 

味覚

 

原因は、大まかに以下のように分類されます。

 

1) 味蕾の異常

 

a) 亜鉛欠乏

亜鉛は細胞分裂に深く関わっていて、欠乏することで新陳代謝が早い味蕾の新生交代が延長し、味覚障害の原因になります。経口摂取で維持するためには1日約9mgを摂取する必要がありますが、ダイエットや偏食あるいはファーストフード、あるいは亜鉛とキレート結合し吸収を阻害する薬(鎮痛解熱薬、降圧薬、抗うつ薬など)の内服で欠乏します。

また、化学療法を受けた患者の約7割が味覚の変化を訴え、約4割が中等度~高度の味覚異常を来たしたという報告もあります。化学療法による味蕾細胞の直接的な障害はもちろんですが、亜鉛キレート作用を有する薬剤が投与されることによる、亜鉛排泄亢進から亜鉛欠乏を来すことも多いようです。

 

b)舌炎

味蕾の直接障害。不潔な義歯の使用や抗菌薬の長期投与や免疫不全による舌カンジダ症、鉄欠乏によるPlummer-Vinson症候群、ビタミンB12欠乏に伴うHunter舌炎、舌癌や口腔癌への直接的な放射線療法などが原因となります。

 

2) 味覚刺激を伝える神経や中枢の異常

脳腫瘍、聴覚腫瘍、中耳炎あるいは顔面神経麻痺が原因になり、傷害された神経に一致した部位に味覚障害がみられる(通常片側性)に発症します。発生頻度は比較的稀です。

 

3) 口腔環境の異常(乾燥による味物質の味蕾への輸送異常)

 

a)加齢

もっとも多い原因です。唾液腺細胞は加齢とともに減少し、唾液分泌量も少なくなります。

 

b)薬物性唾液分泌障害

・中枢神経あるいは末梢神経に作用して唾液分泌を減少させるもの

唾液分泌は自律神経で調節されており、交感神経で分泌を抑制、副交感神経で分泌を促進しています。そのため、副交感神経の伝導を遮断する抗コリン薬(抗パーキンソン薬、消化性潰瘍治療薬)や抗ヒスタミン薬は唾液分泌を抑制します。また、抗うつ薬、抗不安薬は唾液分泌中枢に直接作用して唾液分泌を抑制します。

・電解質や水分の移動に関係して唾液分泌を減少させるもの

利尿薬やカルシウム拮抗薬といった降圧薬で血管から細胞への水分の移動が少なくなることにより、唾液分泌が抑制されます。また、交感神経刺激作用のある気管支拡張薬も唾液分泌を抑制します。

 

c)自己免疫性疾患(シェーグレン症候群)

口腔乾燥症が進行することにより舌乳頭の萎縮がみられ、味覚低下が出現します(詳細は成書を参照)。

 

d)心因性唾液分泌機能低下

ストレスやうつ病などにより交感神経が刺激され、唾液分泌が抑制されることによります。

 

4) その他

 

a)心因性要因

口腔外科領域は、心身症と深い繋がりがあります。味覚障害以外にも舌痛症、非定型顔面痛、口臭症、口腔乾燥症など多岐に渡ります。

 

b)全身疾患

亜鉛は十二指腸~小腸で吸収されるため、十二指腸/小腸切除後は亜鉛が欠乏しやすくなります。また、肝障害では甘味、酸味あるいは苦味の閾値が上昇することがあるといわれています。糖尿病患者は甘味に対する閾値が高くなりますが、末梢神経障害の一部として、味覚に関する知覚神経も障害を受けることがあります。また、妊娠期間中は味覚全般の閾値が高くなるといわれています。

 

さて治療ですが・・・ここでちょっと手が止まってしまいます。もちろん、原因疾患の治療が大切なのですが、それ以外は正直、あまり有効な治療がないのが現状です(´・_・`)。全体の原因の約20%を占める亜鉛欠乏の治療は以下の通りです。

 

・亜鉛を多く含む食材の摂取(100g中の亜鉛量mg)

牡蠣 7、レバー 6、牛肉 4、小麦 4、チーズ 3、納豆 3、エビ 2、卵 1、牛乳 0.4

・薬剤による補給

抗胃潰瘍薬のプロマック(亜鉛含有)。ただし、亜鉛欠乏への保険適応なし。

・亜鉛の吸収を阻害する薬剤(解熱鎮痛薬、降圧薬、抗うつ薬など)の中止、変更。

 

最後に重要なポイントとして、血清亜鉛値の解釈について記しておいます。血清亜鉛値が生体内でのどのような状態の亜鉛を示しているのかは、実はまだハッキリしていません。また、血清亜鉛値は、日内変動が激しく、ストレスや食事などの条件で大きく変わります。さらに、血清亜鉛値のいわゆる基準値が測定法によってかなり異なります。実際、数値が正常でも、1~2割の亜鉛欠乏を見落としていると言われています。これを補助するために、血清銅値を測定することをお勧めします亜鉛欠乏時は銅の吸収が亢進するため、潜在的な亜鉛欠乏の拾い上げに利用できるかもしれない、という理論です。実際には、[血清亜鉛値/血清銅値]の正常値下限である0.7を下回っている場合は、潜在的な亜鉛欠乏を疑ってみましょう

 

RS

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