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「これは腫瘍熱!」と言い切るには・・・

「この患者さん、多分腫瘍熱だと思うんですけど・・・」先日救急外来をしていると、コンサルト先を迷った研修医の先生に聞かれました。それに対して管理人の返事は「多分そうだと思うけどね~」という、何とも頼りないもの(-_-;) 反省も込めて『腫瘍熱』をまとめてみました。

 

まず発生のメカニズムから。宿主マクロファージまたは腫瘍そのものより産生されるTumor necrosis factor(TNF)、Interleukin(IL)-1、IL-6、interferon(INF) などがプロスタグランジンを誘導し、視床下部近傍の血管網の内皮細胞から体温調節中枢(Pre- optic Anterior Hypothalamus-Poah:PAHP)に信号が伝わり、セットポイントが上昇すると言われています(実はまだ完全に解明はされていません)。

 

原因として多いのはHodgikinリンパ腫白血病などの血液悪性腫瘍、腎細胞癌副腎腫瘍骨肉腫心房粘液腫大腸癌肝細胞癌すい臓がんなどですが、その他の腫瘍でも腫瘍が大きい場合、壊死を伴っている場合、他臓器に浸潤している場合、転移巣がある場合(特に肝転移)には発熱を伴うことがあります。結局、どんな腫瘍でも腫瘍熱の原因になる訳です

 

現時点での診断基準は以下の通りです。

 

〈腫瘍熱診断基準(案)〉

1. 37.8 ℃以上の発熱が少なくとも1 日1 回あり、その期間が2 週間以上にわたる。

2. 身体所見や採血結果、画像所見などで感染症を思わせる所見がない

3. 薬物、輸血反応、放射線及び化学療法による反応ではない。

4. 適切な抗菌薬使用によっても反応が少なくとも1 週間は認められない

5. ナプロキセンにより直ぐに解熱をし、それを使用している間は平熱を保っている

 

Neoplastic Fever -A Proposal for Diagnosis. Arch Intern Med.1989;149(8):1728-1730.

 

5のナプロキセン投与に関しては、この診断基準を提示したChangらが、腫瘍熱が強く疑われる50症例と感染症13症例、膠原病4症例に対してナプロキセン250mgを1日2回投与した結果、腫瘍熱症例は46症例が完全寛解を得たのに対し、感染症症例と膠原病症例では完全寛解はなく、ナプロキセンテストの感度92%,特異度100%と報告しています

 

Chang JC. How to differentiate neoplastic fever from infectious fever in patients with cancer: usefulness of the naproxen test.Heart Lung. Mar;16(2):122-7.1987

 

診断基準を見る限り、結局のところ“感染症の除外をしましょう”といった感じです。感染症の頻度は肺炎、尿路感染症、血流感染症、皮膚軟部組織感染症で9割を占め、一般の感染症と大きくは変わりません。ただ、がんの部位によっては、気管の閉塞による無気肺や尿管の閉塞による水腎症、胆道の閉塞による胆管炎など、解剖学的異常により生じる感染症を起こしやすくなります。もちろん、デバイスが挿入されている場合も易感染部位です。さらに、好中球減少、ステロイド使用、麻薬などの鎮痛薬使用など症状や所見が出にくくなることも要注意です。

 

では、どういった情報が除外の参考になるのでしょうか。印象としては「熱が高いけど元気」というものです。『入院中の患者さんで体温が39℃を超えていて医療者側は慌てているけど、当のご本人は比較的お元気』というパターンで、意識障害や頻脈、悪寒戦慄を伴うことは少ないような・・・実際はどうなんでしょう。

 

沖縄県立中央病院血液・腫瘍内科に入院した252人(男性133人、女性119人)のうち、38℃以上の発熱のあった187人(男性99人、女性88人)の延べ発熱回数661回を、①熱型、②全身状態、③悪寒戦慄、④比較的徐脈の有無につき検討した報告では、以下のように報告しています。

 

①    間欠熱:感度48 %、特異度76 %、稽留熱:感度42 %、特異度61 %⇒熱型での鑑別は出来ないが、間欠熱と稽留熱が多い傾向にある

②    良好:感度50%、特異度71%、軽度~中等度:感度33 %、特異度59 %、不良:感度27 %、特異度54 %⇒全身状態で腫瘍熱の除外をすることはできないが、全身状態の良好な場合が多い傾向にある

③    腫瘍熱と考えられた症例で悪寒戦慄(shaking chill)がある場合、悪寒(chill)がある場合、悪寒(chilly sensation)がある場合、症状がない場合の血液培養陽性率は、それぞれ28 %、13 %、3 %、3 %⇒腫瘍熱は悪寒戦慄を伴いにくいとも考えられるが、対象となっている症例が化学療法などにより無顆粒球症になっていることもあり評価不能

④    比較的徐脈:感度37 %、特異度84 %⇒比較的徐脈がないから否定することは出来ないが、比較的徐脈の場合は腫瘍熱の可能性が高い

 

http://www.okinawa.med.or.jp/old201402/activities/kaiho/kaiho_data/2010/201008/047.html

 
プロカルシトニンと腫瘍熱の関連を示す、有意なデータは見つけられませんでした。CRPや赤沈に関してはn=66(感染症56例、腫瘍熱10例)の小規模な研究ですが、『CRPも赤沈も感染症と腫瘍熱の鑑別には使えない』という報告があります。

 

Kallio R, Bloigu A, Surcel HM. C-reactive protein and erythrocyte sedimentation rate in differential diagnosis between infections and neoplasticfever in patients with solid tumours and lymphomas. Support Care Cancer. Mar;9(2):124-8.2001

 

というわけで、最初の研修医君への返事としては「元気そうで比較的徐脈があればそれっぽいけど、持続が2週間以上でかつ適切な抗菌薬が使われていて、ナイキサンに反応して初めて腫瘍熱っていえるわけだから、現時点では何とも言えないね」が正解・・・かな(^_^;)

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