Home > ブログ > エボラ出血熱を知る意味~対岸の火事にしないために~

エボラ出血熱を知る意味~対岸の火事にしないために~

連日、エボラ出血熱の報道が続いています。『致死率90%以上!』、『治療法なし!』など、ショッキングなフレーズがいたずらに恐怖感を煽っている感も否めませんが、我々医療人が一緒になって騒いでいてはいけません。以前もこのブログ(感染症とプライマリケア医)で少し触れたことがありますが、改めて勉強してみようと思います。

 

このウイルスが初めて確認されたのは1976年6月です。スーダン南部の小さな街、ヌザラの綿工場に勤めていた倉庫番の男性が、39℃台の発熱と頭痛・腹痛で入院、その後口腔内・鼻腔・肛門からの激しい出血で死亡しました。その後、この男性の関係者2人も同様の症状で死亡、患者家族、病院内と次々と感染が広がり、最終的には284人が発症し151人の死者を出しました。この原因となった細長いRNAウイルスが、最初に発症した男性の出身地であるザイールのエボラ川にちなんでエボラウイルスと名付けられました。当初はサルからの感染が疑われていましたが、2005年にNatureでオオコウモリ科のウマヅラコウモリやフランケオナシケンショウコウモリなどがエボラウイルスの自然宿主であり、現地のコウモリを摂取する習慣によるものと報告しています(サルは大元の原因ではなく、ヒトと同じ終末宿主であるとされています)。

 

先に症状について押さえておきましょう。WHOやCDCの発表によると、潜伏期間は2-21日(平均7日間)。発症は突発的で発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛といった“インフルエンザ様”の症状で始まり、その後に激しい腹痛、嘔吐、下痢といった消化器を呈します。血液凝固系の破綻や血管透過性の著しい亢進による全身(口腔・歯肉・結膜・鼻腔・皮膚・消化管など)の出血を認め、50-90%は発症から5日程度で急激に死に至ります。また、仮に治癒しても失明や神経障害といった重篤な後遺症を残します。

 

ebola_poster2

 

 

ウイルス発見から38年、今回の感染拡大前までにも10回程度の流行を認めていますが、累計死者数は2,000人程度と、年間3-5億人の感染者を出すマラリアなどに比べて、“感染しにくい”ウイルスです。いや、実際は3-4個のウイルスで感染(インフルエンザウイルスは1,000-3,000個)してしまうので、“感染しにくい”というのは語弊がありますね。それでも、今までは大きな感染拡大は認めていませんでした。その理由として、感染経路が血液、唾液、排泄物などの『飛沫感染』であり、通常の生活ではほとんど移らないからです(空気感染が完全に否定された訳ではありませんが)。また、エボラウイルスはインフルエンザウイルスや単純ヘルペスウイルスなどと同じ、脂質からなる膜状構造(エンベローブ)をしており、アルコールや有機溶剤、石鹸などでも容易に消毒することができます。また、一般的な航空機の換気システムならば、前後2列以外の座席ならば移らないとされています。それ以外にも『他人に感染する前に死亡してしまう』という悲しい現実もあります(ウイルスですので、宿主が死亡すれば基本的には自分も死にます)。

 

それが、今回はWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、シエラレオネとリベリアで国家非常事態宣言が発令される事態にまでなっています。治療に当たった医師やボランティアの人々にも感染が広がっていることも、今回の感染拡大の重大性が増している理由でしょう。今回の最初の感染は、2013年12月2日に発症し12月6日に亡くなったギニア南部の2歳男児とみられています。その後、その男児の母親が同月13日、3歳の姉が同月29日、祖母が2014年1月1日に亡くなりました。この祖母の葬儀に参加した他の村の人々がウイルスを持ち帰り、治療に当たった医療関係者や親族に感染が広がったとされています。この地域は今まで感染が認められた地域よりも、人の出入りの多い場所であったことも、今回の感染拡大を招いた原因の一つです

 

WHO

 

 

圧倒的な医療資源不足が感染拡大の大きな原因です。テレビに映る現地の医療施設は、日本では医療施設と呼ぶのも憚られるようなものですし、そこで働くスタッフの人数もまったく足りていません。さらに、現地の劣悪な環境も、スタッフ個々人の作業効率を著しく下げているようです。また、今回の報道では、現地の人々の生活習慣が感染拡大の要因として取り上げられています。残念ながら“ワイドショー的な扱い” をされてしまっていますが、紛れもない事実でもありますので記載しておきます。

 

・サルやコウモリを燻製にして食する習慣があるため

・病気が病原体によってもたらされるといった概念が浸透しておらず、「悪魔の呪いによるもの」と思われているため(そのため、祈祷師による儀式がもっとも有効な方法と考えられている)

・病気の家族がいると「呪われた家族」として差別を受けるため、感染者を隠してしまうため

・死者を洗い清め、土や川に葬る風習があるため

・現地の人々が医師団を「呪いを持ち込んだもの」「臓器を採取しに来たもの」など敵視しているため(感染者の脱走が多数報告されている

 

アフリカ大陸が今まで辿ってきた『迫害の歴史』が、今回の悲劇を引き起こした原因の一つなのかもしれません。

 

最後に治療について。エボラウイルスに対するワクチンや直接的な治療薬は、このブログを記載している段階では確立されていません。現時点では、脱水に対する補液や鎮痛薬の投与、DIC治療、血液透析といった対症療法しかありません。2010年にLancetで報告された低分子干渉RNAはエボラウイルスの自己複製能力を阻害する働きがあることを、アカゲサルのレベルで報告しています。また、今回治療にあたり感染したアメリカ人2人に対して抗体治療薬である『ZMapp』は効果があったことより、投与承認の申請がWHOにされています。さらに、日本の富山化学工業が開発した抗インフルエンザ薬『ファビピラビル』は、細胞内でのウイルスの増殖を抑えると言われています。人体内での有効性はまだ未確認ですが、インフルエンザを対象とした試験は行われており、副作用の少なさに関してはほぼ確認できていることから、今後治療の中心になっていく可能性があります。

 

現時点で日本にこのウイルスが持ち込まれる可能性は非常に低いとは思います。だからといって、医療従事者である我々が、この問題を『対岸の火事』にしていては駄目だと思います

 

img_182e1bf0acf13513823311ae5cd7797f384379

 

 

Home > ブログ > エボラ出血熱を知る意味~対岸の火事にしないために~

メタ情報

Return to page top