Home > ブログ > “高い壁”

“高い壁”

「我々は、色々なことをしゃべりますけれど、本当は、二つのことしか言っていないんです。一つは・・・」

医師は患者の胸に手を差し出した。

「あなたはもしかしたら、死ぬかもしれません」

「そして、もう一つは・・・」

医師は自分の胸、白衣の襟元に手を当てた。

「そのとき、私を責めないで下さい」

 

これ、『はてラボ』というサイトに何気なく掲載されていた文章です。正直、ドキッとする先生も多いんじゃないでしょうか。もちろん、こんな直接的な言い方をする方はいないと思いますし、多くの医者は、患者様が少しでも元気になれるように一生懸命頑張っています。でも、みなさんもこんな言葉を使いませんか?「もし何かあったらすぐに救急外来に来てください。」これはもちろん、患者様のために言っている言葉です。でも、ほんのちょっとはこんな気持ちはあるんじゃないでしょうか。「こう言ったんだから、何かあったとき、私を責めないで下さい

 

医療における言葉は、本当に難しいものです。我々が極力分かりやすく噛み砕いて話したとしても、患者様やその家族にはほとんど届いていないことがあります。また、何気なく使っている単語が、患者様の気分を害してしまうことも経験します。

 

管理人もこんなことがありました。

 

60代の敗血症の男性。

「〜という訳で、慎重に経過観察させていただきます。」

「何だと!観察するだけってどういうことだ!

 

80代肺炎の女性。

「ご高齢ですし、急変のリスクは高いと思います。」

「“リスク”って何だ!人の母親をモノ扱いするな!

 

我々が当たり前のように使っている言葉、患者様にとっては全然当たり前じゃないんです。また、数字の解釈も大きく変わってきます。医者側が「この抗がん剤は非常によく効きます。7割の有効率ですから。」と言ったら、患者様側は「そうか、よく効くんだ。自分はきっと治るんだ。」と解釈するかもしれません。「この処置の2%(という高い確率)で、出血の合併症があります。」に対しては「たった2%なら安心ってことだな。」になってしまいます。

 

また、我々医師側のコミュニケーション能力の欠如も大きな問題です。医学部は6年制のため一般的に社会に出るのが遅い上、社会に出た途端、いきなり「先生」と呼ばれる立場になります。大学で医療面接などの授業はあるものの、通常の会社で受ける教育とは雲泥の差。その上、病気の時は誰もが気が弱く、傷つきやすくなりがちで、ごく普通の言葉でも落ち込むものです。我々若造に名前ではなく「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼はれるばかりか、時には子どもをあやすように話すことも・・・。もちろん、しっかりと礼節をわきまえている先生もいらっしゃいますが、耳の痛い先生もいらっしゃるんじゃないでしょうか(管理人もその一人です)。

 

医療を行う側と受ける側の間にある壁・・・これを無くす方法は恐らくないと思います。むしろ、最も大切なことは『医療を行う側と受ける側の間には壁がある』ということを、常に意識することなのではないでしょうか。そして、ありきたりな結論ではありますが、『医師の言葉は患者様やその家族を元気づけ癒すこともできれば、落胆させてり不信感を持たせることもできる』ということをしっかり自覚する必要があるんじゃないかと思います。

 

Home > ブログ > “高い壁”

メタ情報

Return to page top