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漠然と診察していませんか(=_=)?

管理人が総合診療を始めた頃、『EBMジャーナル』という雑誌がありました。内科全般、特にプライマリ・ケアの分野のテーマをEBMに徹底的にこだわった内容で特集していた雑誌で、管理人も随分お世話になりました。個人的にも、初めて執筆させていただいた雑誌で思い出深いのですが、EBMの一般化に伴い残念ながら休刊になっています。研修医や若い先生方にも勉強になる内容ばかりでしたので、是非復活してもらいたい雑誌です。

 

この雑誌の2006年3月号の特集『症状と身体所見から診断へ―道具としてのEBMを使いこなす』は非常に秀逸な内容で、当時この雑誌の情報を“どや顔”で研修医の先生方に話していた記憶があります(当時の先生方、すみません(^_^;))。最近は身体所見の感度・特異度なんて話は当たり前になってきていますが、先日改めて言われました。「感度や特異度を意識して診察するって言われても、その所見がしっかりとれているかどうか分からないですし、実際どうやって利用したらいいか分かりません。」――ここで「それは数をこなせば・・・」なんて返事では本末転倒なので、身体所見の使い方について考えてみました。

 

以下の表をみて下さい。

身体所見2

数値の幅が広いものと狭いものがありますよね。腹膜炎に対する『筋性防御』の感度なんて振れ幅が大きすぎて、意味があるのかないのか分かりません。これは、験者の“能力”と、被験者の“再現性”“個人差”の問題があるためです。これらの影響により、身体所見は『誰にでも同じようにとれる所見』『うまくやらないととれない所見』に分かれます。

 

『誰にでも同じようにとれる所見』とは、『被験者自身に再現してもらう所見』です。「出来る」「出来ない」、「はい」「いいえ」で分けられる“定性的な”所見とも言えます。例えば腹膜炎に対する咳嗽反射や踵落とし試験、髄膜炎に対するjolt accentuation testなど、患者様にしていただく試験(患者様に触らなくても出来る試験?)なんかがこれに当たります。“個人差”は多少あるかもしれませんが、験者の“能力”は関係ありませんし、同じ診察時間内なら“再現性”もあるでしょう。そのため、数値の振れ幅も小さくなります

 

それに対して『うまくやらないととれない所見』とは、『験者が主導で再現させる所見』です。やり方次第で所見が変わってしまうことがあり、先ほどの所見に比べてより“定量的な”所見と言えるでしょう。以下の二人の「痛い!」は同じでしょうか?

 

いたみ

 

左のストイックな剣士は、滅多なことで痛いとは言わなさそうですが、右のお調子者の痛いは、ちょっと眉唾なところがありそうです。被験者の“個人差”の問題ですよね。実際、臨床の現場でもご高齢の女性の我慢強さを経験することがよくあります(奥ゆかしき大和撫子・・・でも(>_<)!)。当然、験者側の力加減で所見も変わりますし、別の被験者に行うときにやり方が違えば、その所見の感度・特異度も変わってしまいます(つまり、“再現性”が変わってしまうわけです)。虫垂炎のMcBurney圧痛点やRovsing徴候、腹膜炎の筋性防御や反跳痛、胆嚢炎のMurphy徴候など「患者様に触らないと出来ない試験」で、数値の振れ幅の大きな所見です。

 

ここまでの内容をまとめるとこんな感じです。

 

『誰にでもとれる所見』(『被験者に触らないでもとれる所見』)⇒より定性的な検査⇒ブレが少ない⇒感度・特異度が使える?

 

例:病歴、バイタルサイン、jolt accentuation test、neck flection test、咳嗽反射、目で見える所見すべて(頸静脈怒張・虚脱、クモ状血管腫、ばち指、Hoover徴候、Osler結節・・・)

 

『慣れないととれない所見』(『被験者に触らないととれない所見』)⇒経験や個人差が大きい⇒ブレが多い⇒感度・特異度が当てにならない?

 

例:項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候、McBurney圧痛点やRovsing徴候、筋性防御、反跳痛、Murphy徴候、CVA叩打痛、Barre徴候など(尤もらしく行う診察の大部分!)

 

「じゃあ、時間をかけてやる身体診察のほとんどは意味ないんじゃん!」なんて声が聞こえてきそうですが、それは違います。よく身体診察は“アート”に例えられますが、例えば、どんなに頑張っても『幻想即興曲』をショパンのレベルで弾きこなすことは恐らく出来ません(ショパンは作曲だけでなく、演奏技術も凄かったそうです)。上手く演奏する人は大勢いますし、仮に演奏レベルが低いからといって『幻想即興曲』自体の価値が下がる訳ではありません。身体診察も同じです。験者のレベルがどうであれ、その身体診察の価値が否定されることはないんです

 

では、どう利用すればいいのでしょうか?もちろん、その所見の診断特性を勉強しておく必要があります。それを踏まえた上で、今自分がとろうとしている所見が「患者様に触らないと出来ない診察かどうか」を考えます。「患者様に触らなくても出来る診察」ならば、あなたの頭の中にあるデータをそのまま使えばいいんです。「患者様に触らないと出来ない診察」なら、その診察の主導権はあなたに移ります。つまり、あなた自身でコントロールすればいいんです。診察所見は一般的に、負荷を強くすれば感度が上がり、負荷を弱くすれば特異度が上がります(腹部を思いっきり押しても痛くなければ腹膜炎の可能性は極めて低いが、やさしくトントンするだけでも痛ければ腹膜炎の可能性が高くなる、といった感じです)。つまり、自分で感度と特異度を操作することができるんです。まず侵襲の少ない、特異度の高い診察から始め、それでもはっきりしなければ徐々に侵襲度を上げていって除外しにいく・・・玄人っぽいでしょヽ(・∀・)ノ!

 

でも・・・やっぱり華麗にショパンを弾きこなしたらカッコイイですよね(^^ゞ

 

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