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氷山の一角

報告が遅れましたが、『週刊医学界新聞』『キーワードからの攻略』(山中先生監修)の9月号/10月号が発行されています。9月号は田口瑞希先生の『突然の痙攣!』、10月は管理人の『お腹が痛くてズル休み!?』です。救急外来&一般外来という真逆のセッティングで繰り広げられる診断推論!これぞ総合診療の醍醐味!・・・て、思いっきり手前味噌な宣伝でスミマセン(^_^;) でも、本当に勉強になると思いますので、興味のあるかたは是非ご一読を。

 

ここからが今回の本題。救急外来はもちろん、医療現場はどうしても“リスク”と隣り合わせになります。もちろん、我々医療者は最良の結果を得るために日頃から研鑽し、現場でも最善の努力をしています。でも・・・やっぱり人間のやることです。“失敗”とは言いませんが、“漏れ”はどうしてもあります。医療的な“限界”もあります。“不確実”な人間という生き物が“限界”のある医療を行なっている以上、どうしても不都合は起こってしまいます。

 

『ハインリッヒの法則』をご存知でしょうか?これは、アメリカの損害保険会社の技術・調査部に勤務していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが、1929年に報告した法則です。「ひとりの人が起こした330件の災害のうちの1件が死亡や四肢切断など重い災害があったとすると、29回がかすり傷程度の軽傷、300回が傷害のない事故である」という報告で、「1件の大きな事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態がある」ということです。実際、この報告自体がどの程度のエビデンスがあるかは不明ですし、異なる職業においては比率も違ってきます。この比率そのものが重要なのではなく、事故と災害の関係性における“戒め”のようなものです。

はいん

 

当然、この“戒め”は医療の分野でもよく引用されます。まさに『医療過誤』そのものを表していると言ってもいいでしょう。そして、その背景には多くの場合『ヒューマン・エラー』が存在すると言われています。

 

突然ですがクイズです。「片面が母音ならば、そのカードの裏は偶数でなければならない」というルールが成立しているかどうかを確かめるには、どのカードを裏返せばいいでしょう?

 

4まい1

 

何となく『4』と『E』をめくってしまいませんか?でも、実際の答えは『E』と『7』です。前提条件は「母音の裏が奇数であることを禁止しているだけ」なので、「『E』の裏が偶数であること」と「『7』の裏が母音でないこと」を確認するだけでいいんです(極端に言えば、『4』の裏が白紙でも、『K』の裏が♥マークでもいいわけです)。

 

では、この質問はどうでしょう。「未成年は飲酒してはいけない」という規則が守られているかどうかを確認するためにはどの人を調べたらいでしょうか?

 

4まい2

 

もちろん、『18歳』と『酔っ払い』を調べますよね。この2つの問題、実は全く同じ問題なんです。1970年にJohnson-LairdとWasonというイギリスの心理学者が報告した『4枚のカード問題』という有名な実験なんですが、下の質問の正答率がほぼ100%であったのに比べ、上の質問への正答率はわずか4%だったということです。なぜこのようなことが起こるかというと、それは我々が「未成年は飲酒してはいけない」という“肯定された事柄”が染み込んでいるため、無意識下で選ぶことが出来るからです。本来ならその事実に対する否定的な事柄も併せて推論すべきなのですが、人間はついついそれを怠けてしまうのです。このように、仮説に合う“肯定された事柄”に目が行き、それに対する否定的な事柄を考えない傾向を「確証バイアス」と言います。こういった“無意識下”で起こるものも『ヒューマン・エラー』の一つなわけです。

 

それ以外にも様々なバイアスが複雑に絡み合い、『ヒューマン・エラー』は起こります。『ヒューマン・エラー』は原因から、以下のように分類されます。

 

  1. 「無理」:無理難題。現在の知見を超えている。
  2. 「錯誤」:取り違い。思い違い。思い込み。
  3. 「失念」:し忘れ。
  4. 「能力不足」:作業遂行能力・技量の不足。
  5. 「知識不足」:やるべきことを知らない。
  6. 「違反」:手抜きや怠慢。規則違反。マナー違反。

 

「無理」に関しては・・・どうしようもありませんよね(T_T) これは、決して「今の医学では解明できない奇病」という訳ではありません。例えば、仮に突然発症の片麻痺の患者様が受診し、病歴や身体所見から限りなく脳梗塞っぽくても、MRIはもちろん頭部CTもない診療所で確定診断を行うことは「無理」です。それは救急外来でも同じことで、つい先ほど誤嚥された患者様で今は何もないからといって、その方が明日誤嚥性肺炎に絶対ならないと言い切ることは「無理」です。設備、時間軸、個人差といった様々な要因が加わる医療現場には、「無理」が沢山存在します。開き直りじゃないですが「無理」なことを求められたって「無理」なんです

 

でも、残りの2~6は何とかなりそう・・・というかしなければいけません。ここでのエラーは、(仮に平均以上のことが出来ていたとしても)個々人の問題として取り上げられ、場合によっては訴訟の対象にもなり得るのです。

 

結局、「人間はもともとミスを犯しやすい“不確実な”生き物である」という大前提に戻ってしまうわけです。“不確実な”人間(医療者)が、“不確実な”人間(患者)の“不確実な”もの(病気)に対峙する・・・それが医療の現場です。2~6を起こさないための組織・個人の努力を続けることはもちろん、不幸にして起こってしまう1に対してどう対応するか――ありきたりな結論ですが、医療者と患者が『不確実性の共有』をすることが大切です

 

ただ、“不確実”“リスク”は少し違います(この文章の中でも混同して使っていますが(^_^;))。20世紀の経済学者Frank Hyneman Knightと、『“リスク”は確率によって予測できるものであるのに対し、“不確実性”は確率によって予測できる事象ではない』と提唱しています(「ナイトの不確実性」)。

 

我々は、医療の“リスク”について患者様に一生懸命説明します。最近は医学部の授業でもそういった教育を受けていますので、若い医師の中にそういった文化は出来上がっていると思います。でも、はたして“不確実性”について共有できるほど説明しているか・・・個人や施設レベルだけでなく、医療界全体の問題だと思います。

 

Titanic

 

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