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「痛みに耐え、よく頑張った!」・・・(´・ω・`)?

フィギアスケートのGPシリーズ第3戦の羽生選手の件が話題になっています。フリー演技前の練習中に中国の選手と正面衝突し、顔面からリングに激突。その後しばらくリンク内に横たわっていたんですが、10分後には練習に復帰、転倒を繰り返しながらも本番も滑りきり、最終的に2位になりました。今回のことを、マスコミやネット上では『美談』として取り上げていましたが、それに対してスポーツ医学の専門科達から猛反発が出ています。管理人は外傷やらスポーツ医学やらにはてんで疎いので、どちらかと言えば「お~、スゲー!」みたいになっていたんですが・・・反省です(´・ω・`) 救急外来でも『ゴミ箱診断』的に扱われている?脳震盪についてまとめてみました。

 

はにゅー

 

まず紹介したいのが、昨年3月に米国神経学会(American Neurological Association; ANA)から発表された、『エビデンスに基づくスポーツ脳震盪評価・管理ガイドライン』です。もう先に言ってしましますが、このガイドラインでは脳震盪が疑われる選手は、直ちに競技参加を中止すべきであるとしています。以前に発表されたガイドラインでは重症度別に対応を変えていたようですが、最新のガイドラインでは、「基本的に全例中止しましょう」、というスタンスです。あと、受傷後に専門的訓練を受けた医療従事者による評価を受けたうえで、徐々に競技に復帰することを推奨しています(羽生選手、完全にアウトですね(+o+))

 

ANN Issues Updated Sports Concussion Guideline: Athletes with Suspected Concussion Should Be Removed from Play

 

脳震盪後には色々な症状を生じることがあり、脳震盪後症候群(Post-concussion syndrome)』といいます。これは、「軽度の頭部外傷後に時に生じる身体および認知的症状を合わせた一群」とされ、まず始めの2、3時間~2、3日の間にめまい集中力低下などが現れ、徐々にめまい記憶力および集中力の低下頭痛倦怠感睡眠障害光過敏耳鳴頸部痛易怒性などが出現します(この症状だけで受診されたら「・・・」ってなりそうですね(汗))。これらの症状は通常数日で消失しますが、数週間~数ヶ月続くことも多いようです。しかも、徐々に増悪することもあるから厄介です。これらの症状は、脳の直接の障害ではないことがほとんどです(実際MRIは正常です・・・ていうか、異常がある時点で脳挫傷ですからね)。例えばめまいは、外傷により耳石が動くことによりBPPVが起こります。また、疼痛や感覚の経路をはじめとした神経系のセンサーが過敏になることで、頭痛や易怒性などを来すわけです。よく患者様で、「半年前に脳震盪をしたんだけど、その後からずっとめまいがして・・・脳に何か問題があるんじゃないかと心配で・・・」なんて受診されることがありますが、脳損傷の症状は通常8~12週で消失しますので、「半年前」って情報だけでそうじゃないと言えるわけです(最初の診断が間違っていなければ、ですが(^_^;))

 

しかし!!!軽度脳震盪患者でも、4ヶ月後の頭部MRI画像で両側前頭前皮質に左右不均等なfractional anisotropyを認めたという報告があるんです。

 

“A prospective study of gray matter abnormalities in mild traumatic brain injury” Ling J, et al; Neurology 10.1212/01.wnl.0000437302.36064.b1

 

もっとも、成人の脳細胞は正常でも毎日多くの細胞が壊れていますので、この所見自体を重要視する必要はないのかも・・・どうしたらいいんでしょう(T ^ T)

 

では、脳震盪への対応はどうしたらいいでしょうか。

 

もちろん、最初に正確な診断(脳挫傷の除外)を行うことが大切なのは言うまでもありません。その上で、「脳震盪は、実際に脳が損傷する訳ではないのですが、脳が震えたことによりめまいや頭痛、だるさや光への過敏性など様々な症状が数週間から続くことがあります。この症状は神経のセンサーが敏感になることによって引き起こされるのですが、このセンサーは不安やストレスなどでさらに敏感になってしまい、さらに症状が酷くなってしまいます。もちろん、不安に思って当たり前ですので、もし気になるようでしたらいつでも来院して下さい。」なんてアドバイスをすることが大切です。

 

最後に、脳震盪後のスポーツへの復帰について。

 

実は、脳震盪後の安静について、現時点で質の高いエビデンスはありません。ただ、以下の論文では、症状がなくても一週間は完全復帰を控えるようにとしています

 

McCrory P, et al “Consensus statement on concussion in sport: the 4th International Conference on Concussion in Sport held in Zurich, November 2012” Br J Sports Med 2013; 47: 250-258.

 

以下の行程をそれぞれ24時間以上かけて行っていくことを推奨しています。

 

  1. 安静
  2. 心拍数が上がるような軽い有酸素運動
  3. 少し強度を上げた運動
  4. 体のコンタクトのない練習
  5. コンタクトのある練習
  6. 完全復帰

 

また、以下の要素があれば、そのシーズンは参加中止の基準も設けています。

 

  • 脳震盪後症候群(めまい,集中力欠如,頭痛,ふらつきなど)が遷延する
  • 1シーズンに3回以上脳震盪
  • 1シーズンに2回以上,ひどい脳震盪
  • 学力低下あり.または,運動能力低下あり
  • 頭部CTまたはMRIで異常あり

 

 

今回の羽生選手の事故は、決して軽症の脳震盪ではないと思われます。直後の演技を中止するのはもちろん、医学的には今シーズンの競技参加も控えるべきなんだと思います。

 

 

ただ・・・「感動」は全く違うところにあります。「痛みに耐え、よく頑張った!感動した!」と、時の首相が表彰式で叫んだ貴乃花、日本シリーズ第6戦で160球完投したにも関わらず、翌日の最終回に連投した田中マー君・・・医学的には絶対間違っているんですが、そこで我々は「感動」してしまうんです。管理人もその口でして・・・全然プロじゃなですね(-_-;)

 

brain-wrapped-up

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