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輸血・・・する(=_=)?

輸血を行う“閾値”って、医師個人や科ごとに結構違うような気がしませんか?集中治療や侵襲度の高い手術などをする先生にとっては、「まずは輸血!」なんて感覚だと思いますし、安定した疾患やご高齢の患者様を多く診る科なら「輸血も止むなし」なんて先生もいらっしゃると思います。臨床現場でこういったバラツキがあることはあまり良い事ではありませんが、今まであまりレベルの高いエビデンスの報告がなかったことも関係があると思います。

 

少し風向きが変わったのが2012年に米国血液銀行協会(American Association of Blood Banks ; AABB)がAnnals of Internal Medicineに安定状態の成人や小児に対する赤血球輸血のガイドラインが発表してからです。このガイドラインでは、以下の4点を推奨しています。

Clinical Guidelines ; Red Blood Cell Transfusion: A Clinical Practice Guideline From the AABB 

 

  1. 入院中の血行動態が安定患者では、制限輸血(Hb<7g/dLで輸血)を行い、貧血による症状がある入院患者に対しては、Hb8g/dLをキープする。
  2. 心血管疾患がある患者では症状があるか、Hb8g/dL未満の場合に輸血を考慮する。
  3. 入院患者で循環動態の安定している急性冠症候群の患者に対する輸血閾値に関して、非制限輸血(Hb<9g/dLで輸血)、制限輸血どちらも推奨する十分なエビデンスはない。
  4. ヘモグロビン濃度だけでなく症状も考慮して輸血の適応を決める。

 

ざっくりまとめると『制限的輸血と非制限的輸血の間で死亡率、独歩能力、入院期間に有意差はないから、輸血開始のヘモグロビン値は7〜8g/dLと考えるべき』といった感じになります(臨床の現場での感覚に近いですね)。ちなみに、2014年にLancetに掲載された股関節骨折後患者2016人を対象とした制限輸血と非制限輸血のランダム化試験でも、長期的な死亡率に有意差なしと報告されています(Carson JL,et al.Liberal versus restrictive blood transfusion strategy: 3-year survival and cause of death results from the FOCUS randomised controlled trial.Lancet. 2014 Dec 9. pii: S0140-6736(14)62286-8. doi: 10.1016/S0140-6736(14)62286-8. [Epub ahead of print]

 

その他、現状で報告されているトライアルも概ねAABBのガイドラインと同じような結論が出ています。

 

ただ、2013年のACPガイドラインでは、『最近の多施設RCTでは、ACSでHb8g/dLを維持するように輸血したグループと、Hb10g/dLを維持するように輸血したグループを比較すると、積極的に輸血をしたグループ(Hb10g/dLを維持した群)は、院内死亡、ACS再発、新規心不全や心不全の増悪率が有意に高くなっていた』と報告しています(報告自体にバラツキがありますが・・・)。さらに、2013年1月のNEJMの重度上部消化管出血患者921人を対象とした報告(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1211801?query=featured_home)でも、『制限輸血群は非制限輸血群に比べ6週時点での生存率が高く(95%対91%)、さらなる出血(10%対16%)および有害事象の発生率(40%対48%)が低かった』と、やはりHb<7g/dLでの輸血を支持しています。

 

結局どの辺の値から輸血すればいいのやら・・・(-_-;)

 

でも、「もー面倒臭いから全例Hb<9g/dLなら輸血しちゃえばいいじゃん!」なんてのはダメですよ。輸血にはデメリットもあるんです。急性期患者を対象とした生命予後に関する報告(Hill S, et al: Cochrane Database Sys Rev 2:1-14, 2006 Rao S, et al: JAMA 293:673-4, 2005)では、赤血球輸血過多により虚血性イベント(心臓、脳)が56%増加し、死亡率が何と20%も増加するとしています。原因は以下の通りです。

 

  1. 保存傷害(変形能低下、凝固亢進、膜傷害、NO/ATP低下、炎症物質放出)
  2. 混入白血球(保存前白血球除去がされていない場合)
  3. 循環負荷

 

特に問題になるのが3)です。ご存知の通り、末梢に運ばれる酸素の量は『心拍出量×酸素含有量』で決まります。心拍出量は『心臓が一回に送り出す血液の量』と『心拍数』で決まりますので、心臓の機能がある程度保たれていれば、多少貧血になっても大丈夫です。むしろ、血液が薄くなれば抵抗が減る分心臓への負担も減り、心拍出量も増えます。また、血液が薄くなった場合、酸素含有量の減少を補うため末梢で酸素を放出する能力は増える(つまり酸素解離曲線が右方移動する)ので、酸素含有量が低下しても簡単には酸素の運搬量が減るという訳ではありません。実際、末梢に運ばれる酸素量はHb8g/dLぐらいが一番多いと言うデータもあります。もちろん、これは心機能に問題ない人に限られますし、肺の疾患で血液中に酸素が取り込みにくい人にも当てはまりません。

 

つらつらと書き連ねてきましたが、結論としてはこんな感じです。

 

  • Ÿ   血行動態が安定している場合はHb<7g/dLで輸血
  • Ÿ   貧血による症状がある場合はHb<8g/dLで輸血
  • Ÿ   消化管出血の場合でも積極的な輸血は控えるほうが無難(明確なエビデンスなし)
  • Ÿ   心不全を併発している場合も、原則的にはHb7-8g/dLが輸血の目安
  • Ÿ   心不全兆候がないACSでは輸血ラインはもう少し高めでもよい(明確なエビデンスなし)

 

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