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薬剤性高血圧(Drug induced hypertension)

慢性疼痛で、管理人の外来に通院していただいている40代の男性。一日10kgのランニングと筋トレを欠かさない方で、男の自分から見ても羨ましい体型(しかも、こういう人に限って性格もいい)。痛みの器質的な原因はなく、SNRIをメインに治療を行なっていました。

その方からこんな話がありました。「先生、別に痛み以外の症状はないんだけどね。この前の健診で血圧が高いって言われちゃったんですよ。そんなこと言われたことないんだけどなぁ。今も運動はしているし、野菜もしっかり食べているし・・・。」血圧を測ってみるとやはり150/92mmHgと高値を示しています。普段の血圧は・・・あれ、測ってない!いつも痛みの話や世間話だけして、薬を処方しておしまいになっていたんです。「バイタルサインには色々な情報が詰まっているから、絶対に確認すること!」と普段研修医の先生に偉そうなことを言っているのに(/ω\)

(表面上は平静を装いつつ)慌てて腎性高血圧、腎血管性高血圧、内分泌性高血圧のスクリーニングをしましたが、いずれも異常なし。何回かに分けて再検しても血圧は高いまま、時には収縮期血圧が160mmHgを超えることもあります。「ありゃりゃ、中等度リスクじゃん。ずっと運動はしていただいているし、降圧薬始めなきゃ・・・でも、何か釈然としないなぁ。」・・・っと、ここで『すべての薬は患者に起こるすべての事件の“容疑者”である』という、管理人が勝手に作った“clinical peal”が浮かんできました。

多くの薬剤が一時的な、または持続性の血圧上昇をきたすことが知られています。その原因として①Na貯留による細胞外液量の増加、②血管平滑筋に対する直接的な収縮作用、③交感神経系を介する間接的な血管収縮作用、④①〜③の混在が考えられています。有名なのは以下の薬です。

グリチルリチン:グリチルリチンが主成分である甘草では、アルドステロン過剰と同様の病態(①)を引き起こす可能性あり。高齢でグリチルリチンの投与量が多く、投与期間が長いほど発症しやすい。

MAO阻害薬:神経終末におけるカテコールアミン濃度が上昇、交感神経が異常に興奮して血圧が上昇する(③)。また、チーズ・チョコレート・赤ワインなどに含まれるチラミンは、交感神経細胞内に取り込まれるとノルアドレナリンの放出を促進させる物質で、MAOにより不活化されるため、MAO阻害薬で血圧が上昇する可能性がある。三環系抗うつ薬はα受容体刺激による血圧上昇を認めるため、併用は禁忌。

NSAIDS:COXを阻害し、腎プロスタグランジン産生を抑制、水・Na貯留(①)と血管拡張の抑制(②)をきたす。特に、高齢者や腎機能障害者では、腎機能低下を代償するために腎プロスタグランジンが腎機能を保持しているが、プロスタグランジン産生を抑制すると腎障害が起こり、結果的に血圧が上昇する1)。また、利尿剤・ARB・ACE-I・β遮断薬は、NSAIDSと併用すると降圧作用が減弱する。

シクロスポリン:色々な病態が関与しているが、メインは腎血管収縮による腎血流低下から引き起こされるレニン・アンギオテンシン系の亢進と尿細管でのNa再吸収増加による(①)。

エリスロポエチン:貧血の改善による血液粘稠度の増加に伴う末梢血管抵抗の上昇による(慢性腎不全患者にみられる特有の病態の可能性がある)。

経口避妊薬:本邦では十分な解析は行われていなが、海外では未使用の女性に比べて50%のリスク増加の報告がある2)。

案の定、この患者さんは使用していた鎮痛薬を変更すると血圧はスーっと正常値に・・・。改めて『すべての薬は患者に起こるすべての事件の“容疑者”である』を思い知らされました。反省です(_ _ )/

1)Jonson AG, et al: Do non-steroidal anti-inflammatory drugs affect blood pressure? A meta-analysis. Arch Intern Med 121: 289-300, 1994.

2)Norman M, Kaplan N: Clinical Hypertension, 9th ed, p382-384, Lippincott Williams and Wilkins, 2006.

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