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“過去”にしないためにー震災から4年ー

 

あの大震災から4年の月日が流れました。「あの事実を風化させてはいけない」というのはもちろんなのですが、我々が診療を行っている東海地方では、正直日常生活の中であまり意識することは無くなってしまっています(あの震災を実体験された方々からしたら失礼極まりないと思いますが)。少なくとも、一年のうちのこの時期だけは、みなさんと一緒にしっかり考えてみたいと思います。

 

まずは、過去の震災に関連したブログをご覧下さい。

 

『平成23年3月11日』

 

『事実を知る“義務”―原発後の甲状腺がん』

 

このように、大震災後には時期によって対応すべき疾病が変わってきます。今の時期はおそらくPTSDへの対応が大切になってくると思いますが、今回はあえて『震災後ストレスと循環器疾患』を取り上げたいと思います。

 

今回の震災の特徴として、心不全をはじめ、ACS (Acute coronary syndrome) および脳卒中などの循環器疾患が約3倍も増加したことを東北大学循環器内科のグループが報告しています。特にここまで著明な心不全の増加は過去の大震災疫学調査では報告例がなく、東日本大震災の特徴であるとしています。これは、一聴するとかなり不思議な事実です。例えば1995年に起こった阪神淡路大震災。1月17日という最も寒い時期に起こった災害にも関わらず、これほど心不全が有意に増加したという報告は(管理人の知る限りでは)されていません。もちろん、世界の寒冷地でも様々な災害が起こっていますが、同じくそのような報告は見受けられません。この理由として、報告した東北大学循環器内科のグループは「今回の震災では地震に加え、津波の被害が甚大であったことから、被災者のストレスが多大であったと推定され、これが心不全の要因および増悪因子となりえた」と指摘しています。

 

確かに、ストレスと循環器疾患の関連に関しては、多くの報告がされています。ストレス負荷により副腎髄質からのカテコラミン分泌が増加することは、今更言うまでもないと思います。カテコラミンが視床下部・下垂体に作用することにより、心拍数を増加させたり小血管を収縮させるために血圧が上昇します。また、血糖値の増加も影響しますし、たこつぼ型心筋障害を誘発することも心不全増悪の要因になります。実際、自然災害以外、例えばベトナム戦争やアメリカ同時多発テロなどの強いストレスに曝されたであろう事例の後には心不全の急激な増加が報告されており、なるほど今回の震災により強いストレスに曝され、結果として心不全が増えたんだろうと想像できます。

 

でも・・・やっぱり何かすっきりしない感じしませんか?阪神・淡路大震災だって、新潟中越地震だって、同じように強いストレスを感じた方々は大勢いらっしゃったはずです。この結果だけで、「東日本大震災が最もストレスフルだった」としてしまっては、他の震災に遭われた方々にとっても、今回の震災を経験された方々にとっても失礼です。

 

今回の震災が以前と大きく違うこと・・・それは、『原発事故による放射性微粒子の拡散』です。放射線被曝による健康被害に関しては過去に多くの報告がされています。その中で、2009年にイギリスのMark P. Littleらによる、『日常的に少量の被曝を浴びている職業の方々の心疾患リスクに関する報告』は、被曝による心疾患の発症メカニズムにまで言及している興味深い内容です。この論文では、血栓形成に関わる因子であるmean chemo-attractant-1(MCP-1)の濃度が、低線量被曝による累積量と直線関係で増加することを報告しています。MCP-1とは、単球に対する走化性の亢進、ライソゾーム酵素や活性酸素の放出亢進、抗腫瘍活性の増強、IL-1やIL-6の産生誘導など多様な作用を有するサイトカインで、これが増えることで心臓および脳での血栓症を起こし易くすることが知られています。つまり、「仮に低線量の被曝でも長期間曝されていれば、心血管リスクが上がる」わけです。

 

Mark P. Little*, Anna Gola, Ioanna Tzoulaki:A Model of Cardiovascular Disease Giving a Plausible Mechanism for the Effect of Fractionated Low-Dose Ionizing Radiation Exposure: PLoS Comput Biol 5(10): e1000539. doi:10.1371/journal.pcbi.1000539

http://www.ploscompbiol.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pcbi.1000539

 

もちろんこの報告だけで、「原発事故のせいで心不全が3倍に増えたんだ」なんて乱暴な理論を展開するつもりは毛頭ありません。ただ、原発事故の影響は発がんだけでなく、精神的なストレスや心疾患リスクを上げていることは間違いないようです

 

震災の被害はこれから何十年、何百年も続いていきます。原爆の影響は、報告によって1万年なんてことも言われています。被災された方々の苦しみは続いていくのです。犠牲となった方々には、改めて哀悼の意を表するとともに、医療従事者である我々はこういった事実をしっかり学んでいく必要があると思います

 

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