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“当たり前”の落とし穴

管理人の臨床経験なんてたかだか十数年ですが、それでも、研修当時には目新しいものだったり、聞いたこともなかったものが、今では“当たり前”になったりしています。プロカルシトニンなんて、その代表ですよね。もちろん、便利だから“当たり前”になったわけですが、便利なものが急激に広まると、どうしてもその解釈があやふやになりがちです

 

 

今回の主役のBNP/NT-proBNPも、ちょっと前までそんな存在でした。研修医の先生方にとっては「何を今更┐( ∵ )┌?」な感じかもしれませんが、実はBNPが保険で認められたのが1996年、NT-proBNPに至っては2007年なんです。結構“新参者”でしょ?こういった「便利すぎてすぐに“当たり前”になった」検査には注意が必要です

 

 

BNP(brain natriuretic peptide; 脳性ナトリウム利尿ペプチド)が主に心室で合成されるホルモンであることは、今更言うまでもないと思います。BNPは、主に心臓の壁にかかる伸展ストレスに応じて速やかに生成・分泌されるため、壁へのストレスが増大する心不全では、その重症度に応じて血中濃度が増加します。NT-proBNPに関してもBNPと生成は同じです。ちょっと小難しい話になりますが、BNP遺伝子が転写・翻訳された後、BNPの前駆物質であるproBNPが生成され、その後、生理活性を有する成熟型BNPと生理的に非活性のNT-proBNPに切断されます。つまり、BNPとNT-proBNPは心筋から同じモル数で分泌されるわけです(理論的には)。

 

ず1

http://www8.plala.or.jp/mcncvm/pg139.html より

 

ちなみに、BNPもNT-proBNPも心室だけでなく心房からも約10%分泌されますので、心房細動などでも軽度上昇します

 

 

心不全の診断におけるBNPとNT-proBNPのカットオフ値の解釈に関して、日本心不全学会では以下のように提示しています。

 

 心不全診断におけるBNP、NT-proBNPのカットオフ値

ず2

 

 

  • 18.4pg/ml未満潜在的な心不全の可能性は極めて低い
  • 18.4-40pg/ml:心不全の危険因子(高血圧や糖尿病)を有している症例でも、直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低い(ただし、収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作性不整脈などBNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合は除く)。
  • 40-100pg/ml:軽度の心不全の可能性あり。危険要因のある場合は、胸部X線、心電図、心エコー検査を検討する。
  • 100-200pg/ml治療対象となる心不全である可能性あり。心エコーを含む検査を早期に実施し、原因検索を行う必要あり。
  • 200pg/ml以上:治療対象となる心不全である可能性が高い。原因検索に引き続き、症状を伴う場合は心不全治療を開始する。

 

 

ただ、上記の解釈も、両者の血中濃度に影響を与える因子に注意が必要です。まずは何といっても腎機能。BNP、NT-proBNPともに腎機能の低下に合わせて血中濃度が上昇します。特にNT-proBNPはその代謝の殆どが腎臓からの濾過による排泄に依存しているために軽度の腎機能低下でも影響を受け、eGFR30ml/min/1.73m2未満(CKDステージ4以上)の場合は増加の程度が大きくなります。その他、高齢者でも一般にBNP、NT-proBNPともに血中濃度が上昇しますし、急性炎症でも高い値を示すことがあります。逆に、肥満者では非肥満者よりもBNP、NT-proBNPともに低値を示しますことが知られています。

 

 

ここで注意しなければいけないことが一つ。日本循環器学会の急性心不全治療ガイドライン、慢性心不全治療ガイドラインともにBNP、NT-pro BNPは、心不全の診断や経過観察に優れているとしています。が、これはあくまでも「心不全が疑われる患者」に対してです。以下の表を見てください。

 

心不全にけるBNP、NT-proBNPの診断特性

BNPの表

 

 

BNP、NT-proBNPともに陰性的中率の高さに比べ、陽性的中率の低さが際立っています。つまり、全く症状のない人、例えば一般集団を対象とした健診などで仮にBNP、NT-proBNPが上昇していても、それを心不全と決め付けることは出来ないのです

 

 

とはいえ、BNPやNT-proBNPが心不全の診断に有用であることは間違いありません。それを示した最近の報告がこちら。

 

 

http://www.bmj.com/content/350/bmj.h910

 

 

2012年に欧州心臓病学会で提示されたBNP、NT-proBNPの有用性を再検討した英国からの報告です。2014年1月28日時点で、Medline、Embase、Cochrane central register of controlled trials、Cochrane database of systematic reviews等々のメガデータの中から無作為に選択された成人患者を対象に、急性心不全の診断で1種以上のナトリウム利尿ペプチドを評価している15,263症例を検討したものです。急性心不全の診断においてBNP 100pg/mLとNTproBNP 300pg/mLの感度はそれぞれ0.95と0.99、陰性適中率は0.94(0.90~0.96)と0.98(0.89~1.0)と報告しています。前出の報告に比べてかなりいい数値なのは、恐らく選択された症例の心不全の重症度によるものと思われます。

 

 

一つの検査結果に振り回されない!・・・なんて、言うは易しですが(^_^;)

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