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『痛み止め』 vs 『神の手』?

救急外来の永遠の(?)テーマ、『急性腹症の症例に鎮痛薬を使ってもいいか?』に、結論が出たようです。日本腹部救急医学会、日本プライマリ・ケア連合学会など5学会が合同で作成し、今年の3月に発刊された『急性腹症診療ガイドライン 2015』では、「鎮痛薬を使用しても、誤診や過小評価に繋がらない」として、鎮痛薬の積極的な使用を推奨しています。ま、普通に考えたら当たり前ですよね。「お腹が痛い!何とかしてくれ!」って救急外来に飛び込んできたのに、「いやいや、診断しにくくなるから痛みはとりません」って、「そんなの、医者側の都合だろうがヾ(~O~;)!」と、思わず突っ込みたくなりますよね(そんな余裕はないかもしれませんが(汗))。

 

 

そもそも、「腹痛の患者に鎮痛薬を使うな」という考え方は、いつ頃からあるのでしょう。管理人の調べた限りでは1921年発行のアメリカの教科書にそういった記載があるようですが、臨床的に検討されたものではなかったようです。1979年に、当ブログでも度々お世話になっているBMJ(British Medical Journal)でこの題材が議論されていますが、ここでは結論が出ていません。結局、その頃にあった意見、鎮痛薬を投与すると『腹部所見が変化して、正しい診断がつかない』、『手術が必要かどうかの判断を誤る』といったものが、長きに渡り“しきたり”として根付いてしまいました。1986年にZoltie & Custによる288例の腹痛を対象に鎮痛薬投与群とプラセボ群を比較した臨床研究の報告がありますが、プラセボ群の腹痛の半数が自然軽快してしまったこともあり、精度の高い報告になりませんでした。1990年代に入っていくつかの臨床研究が続きましたが、患者数が少なかったり試験デザインがバラバラであったりと問題点が多く、やはり結論は出ませんでした。

 

 

風向きが変わったのは、2003年に発表されたThomas & Silenの『Effects of morphine analgesia on diagnostic accuracy in Emergency Department patients with abdominal pain』というレビューで、結論としては「急性腹症の患者に対する思慮深く、分別のある鎮痛薬の投与は、安全かつ妥当である」としています。これも74症例(モルヒネ投与群38、プラセボ群36)と小規模なスタディですが、プロスペクティブな研究デザインであったこともあり、ある程度のインパクトを残しました。さらに効果的だった報告が、2006年10月にJAMAに掲載された『Acute Abdominal Pain』です。急性腹症患者への鎮痛薬投与が、身体所見や手術適応に影響するかを検討したRCTで、急性腹症患者にオピオイド系鎮痛薬を投与して身体所見の変化や診断エラー(不要な手術を行った症例や手術のタイミングが遅れた症例)を検討しています。結論は、「急性腹症患者に対する鎮痛薬投与は、身体所見には影響するが(リスク比は成人で1.51、小児で2.11)、手術適応には関連がなかったし、腹痛に伴う絶対的なリスクを軽減させた。」としています。

 

 

その後の風向きは、完全に『急性腹症への鎮痛薬投与は、患者アウトカムにとっていいことだから積極的にやりなさい』といったものです。でも、たかだか10年余りの流れなので、ベテラン指導医の先生方が「痛み止めを使うな」と言われるのも、ある意味仕方がないことなんです。

 

 

前述の『急性腹症診療ガイドライン 2015』の話に戻ります。このガイドラインでは、痛みの強さによらず、治療の中心はアセトアミノフェン静注(アセリオ)1000mgになっています。このガイドラインの素晴らしいところは、痛みの程度や性状による薬の投与量や投与方法、併用薬を示しているところです痛みの強さを10段階に分けるNRS(numerical rating scale)を利用し、4以上ならジビロン(メチロンなど)を追加、6以上の場合はオピオイドを追加することを推奨しています。なお、鎮痙薬のブチルスコポラミン(ブスコパン他)については、急性腹痛の第一選択とはせず、鎮痛薬投与後の疝痛に対する補助薬という位置付けになっています。

 

 

【診断前の急性腹症疼痛管理アルゴリズム】

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「急性腹症診療ガイドライン 2015」より

 

 

この図があると安心ですよね。あの怖い外科指導医のA先生にも「急性腹症ですので、ガイドラインの疼痛管理アルゴリズムに則って除痛しました!」って言えますし(^ ^)b笑

 

 

ただ・・・ちょっと考えてみてください。今まで「診断がつきにくくなるから、痛み止めは使わない」という風潮がまかり通ってきたってことは、こんな場面もあったハズです。「先生、この経過や検査結果から考えると、アッペは否定的ですね。」「待て待て、俺が触った感じからするとこれはアッペだ。長年のカンがそう言ってる。すぐオペの準備だ!!!」――それだけ身体診察が重要視されていたわけです。ある意味、恰好いい世界ですね (外れていたら患者様もたまったものじゃありませんが(^_^;))。

 

『神の手』( ̄▽ ̄;)

 

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