Home > ブログ > “見えているもの”と“見えていないもの”

“見えているもの”と“見えていないもの”

突然ですが、以下の動画を観て下さい。白いユニホームのチームが、何回パスをしているかしっかり数えてみてください。結構激しくパスをまわすので、気合入れて観ないと分かりませんよヽ(・∀・)ノ

 

 

どうですか?これは、アメリカの心理学者Christopher F. ChabrisとDaniel J. Simonsが認知科学の学術専門誌『Perception』に掲載された『不可視のゴリラ』という有名な実験です。PIPC(Psychiatry In Primary Care)のセミナーに参加されている方にとってはお馴染みの動画だと思いますが、実際、この実験に参加して動画を観た人の約半数がゴリラの存在に気付かなかったといいます。

 

この実験が報告されている『錯覚の科学 あなたの脳が大ウソをつく』では、このような錯覚を「注意力の錯覚」としています。その他、錯覚を「記憶の錯覚」「理解の錯覚」「自信の錯覚」「理由の錯覚」「隠れた才能の錯覚」といった6つの心理的錯覚に分類しています。詳細は省略しますが・・・まぁ、色々な錯覚パターンがあるわけです(´・ω・`)。

 

この本の中に、このような記載があります。

 

『私たちは周囲の世界の、ある部分は生き生きと体験する。そして、自分が注意を集中させているものはとりわけ鮮明に見える。だが、その鮮明な体験が自分には身の回りのあらゆる情報を細部にいたるまで見逃さないという、誤った自信を生んでしまう。実際には、まわりの世界の一部は鮮明に見えていても、現在熱中していることから外れた部分は、まったく見えていないのだ。実験の鮮明さが精神的な盲目状態を生み出し、私たちは視覚的に目立つものや異常なものがあれば、絶対に自分の注意を引くはずだと思い込む。だが、実際にまったく気づかないことが多い。』

 

はい、ここからが本題(´-ω-`)

 

これ、診断における“極意”だと思うんです。特に、緊急性の高い疾患を扱うことが多い救急外来では、“見えているもの”と“見えていないもの”を明確に分ける必要があります。表現はややこしいかもしれませんが、“見えているもの”は意識して見なくても見えていますが、“見えていないもの”は意識して見にいかないと、いつまでたっても見えてきません。「見えているものが全てではない」なんて、冷静に考えれば当たり前なんですが、いざ現場の最前線に立たされると、「見えているものが全て」と、脳が錯覚してしまうんです(だって、「あなたの脳がウソをつく」のですから(^_^;))。

 

例えば、こんな症例 ――

 

43歳男性が右背部痛を主訴に明け方の救急外来を受診した。昨日友人と飲酒をしそのまま入眠したが、午前4時頃に突然右の背中に激痛が走り起床した。待合室では右の背部を押さえ、苦しそうにしている。痛みは20分程度の間隔で襲ってきて、ピーク時はのたうち回るような痛みである。同時に軽度の悪心も伴っている。健康診断で脂質異常症を指摘されたことがあるが、特に治療の必要性はないと判断されている。

 

尿路結石

 

恐らく、ある程度経験を積んだ先生なら『尿路結石』が“見えて”ますよね。実際、明け方の尿濃縮力があがってくる時間帯、しかも前日はアルコールも入っていますので、発症のタイミングはバッチリです。間欠的な痛みを伴っているのもそれらしい訴えですし、尿管が刺激されると腹腔神経叢や迷走神経叢まで刺激してしまいますので、半数以上は悪心や嘔吐を伴います。

 

「はい、尿路結石決定!とりあえず尿検査だけ出しておいて、ボル〇レン出してオシマイ!」でも、ほとんどの場合は大事故にはならないと思います。でも、ここで“見えていない”ものを見に行ってください。尿路結石が見えてきたら、それを敢えて隠して下さい。そして、見えないものを探すと・・・出てきましたか?何より大切な除外対象は腹部大動脈瘤による圧迫や切迫破裂です。腎梗塞や精巣捻転などの腎・泌尿器系疾患の可能性もありますし、胆道系疾患や虫垂炎の関連痛かもしれません。もしかしたら胸膜炎や横隔膜下膿瘍なんかもありえますし、蜂窩織炎や帯状疱疹などの皮膚疾患だって考えなければなりません。もちろん、女性だったら卵巣茎捻転や子宮外妊娠など婦人科疾患の否定が必要になります。

 

「いやいや、この病歴でここまでは考えすぎでしょ┐( ∵ )┌」という意見もあるかと思います。確かに考えすぎです。でも、毎回こうやって考えすぎて、一回でも見落としを防げたら、この手間は全然無駄ではないと思います。それに、毎回こういた考え方をすると、診断力が格段に上がります。これは、特に精神科に通院歴のある患者様に対しては、非常に重要です。医療者の中に蔓延る『プシコ・バイアス』(←管理人の造語です(^_^;))は、「注意力の錯覚」はもちろん、「理解の錯覚」や「理由の錯覚」など、錯覚のオンパレードに陥ります。それで被害を受けるのはもちろん患者様自身です。

 

脳は錯覚するんです

 

「見えているものを見ず、見えていないものを見る」という、禅問答のような感覚を養っておきましょう。きっと、貴方の診療レベルを上げてくれますよ)^o^(

Home > ブログ > “見えているもの”と“見えていないもの”

メタ情報

Return to page top