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切るべきか、切らざるべきかーそれが問題だ

タイトルだけでもピーンとくる方が多いんじゃないかと思います。「虫垂炎は抗菌薬で保存的に経過をみるか、早めに手術に踏み切るか」これも救急外来では話題になりますよね。一昔前は「何でもかんでもオペだ\(*`∧´)/!」だったのはご存知の通りですが、最近は“風向き”も変わってきています。もちろん、非常に症状が強い場合や膿瘍・穿孔などあれば手術療法がよいのですが、そうでない場合にはどうなのでしょうか?

 

この疑問に関しては、2010年代に入って、比較的エビデンスレベルの高い報告が散見されます。

 

まずは有名な2011年Lancetの報告から。

 

Amoxicillin plus clavulanic acid versus appendicectomy for treatment of acute uncomplicated appedicitis: an open-label, non-inferiority, radomised controlled trial. Lancet 2011;377:1573-9

 

フランスの6つの大学で行われた、急性虫垂炎患者を対象に抗菌薬治療と外科的治療を比較したopen-labelのランダム化試験。患者は18歳から63歳の、CTで診断された合併症のない虫垂炎と診断された243人(4人が途中で脱落)を、アモキシシリン・クラブラン酸配合剤3g/日を8~15日間投与された119人の群と、緊急虫垂切除術を受けた120人の群に分け、30日以内の腹膜炎の有無をプライマリエンドポイントとしています。その結果、治療後30日以内の腹膜炎の合併は抗菌薬治療群の8%に対し、外科的治療群では2%と有意差が出たばかりか、抗菌薬治療群の14人(12%)は30日以内に改めて虫垂切除術が施行され、残りの102人のうちの30人(29%)は1ヶ月~1年以内に虫垂切除術を受け、そのうちの26名は急性虫垂炎が確認されています。ただ、外科的治療を受けた21人(18人)に、手術中何らかの合併症が発見されています。

 

「合併症の可能性はあるけど、今抗菌薬で粘っても結局切ることになるから切っちゃいましょう!」って感じですかね。

 

BMJからはこんな報告があります。

 

Safety and efficacy of antibiotics compared with appendicectomy for treatment of uncomplicated acute appendicitis: meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2012;344:e2156

 

4つのRCTに参加した900人の合併症のない虫垂炎患者を、抗菌薬治療を受けた群470人と外科的治療を受けた群430人に分け、プライマリエンドポイントを合併症(消化管穿孔、腹膜炎、創部感染)の発生、セカンダリエンドポイントを治療の効果、入院期間、複雑性虫垂炎、再入院として検討したメタ解析です。抗菌薬治療を受けた470人中345人(73%)が初期の治療に成功し、そのうちの277人(63%)が1年後にも再発を認めませんでした。再発を認めた68人のうち、65人(抗菌薬投与群の20%)は外科的治療(4人は虫垂炎以外)を受け、3人(同0.6%)が、再度抗菌薬投与を受けています。プライマリエンドポイントの評価では、抗菌薬投与群では18%(470人中84人)、外科的治療群では25%(430人中108人)に合併症が発生しており、抗菌薬投与群での合併症のリスク比は0.69、相対リスクは外科的治療より31%低いという結果になっています。セカンダリアウトカムのうち、治療効果、入院期間、複雑性虫垂炎のリスクには統計学的に有意差は出なかったものの、全体的なセカンダリエンドポイントは、抗菌薬投与群で31%減少したと報告しています

 

この報告だけみれば「結局手術ってこともあるけど、初期治療として抗菌薬もありですね」と言えるんじゃないかって思えますよね。でも、ちょっと注意しなければいけないことがあります。前出のスタディはCTで虫垂炎を診断しているのに比べ、こちらの論文はバラバラです。しかも、抗菌薬の種類や投与方法も統一されていません。母数の多い報告ではありますが、報告の精度はちょっと低めと思っておいたほうがよさそうです。

 

これ以外にもいくつかの報告があるのですが、概ね「発症から1ヶ月程度は抗菌薬でもいけるけど、再発率も高いし、やっぱり手術しておいた方が無難」といった結論になっています。

 

ここまでの報告では、特に今までの“風向き”と変わりませんよね。

 

でも、最近のNEJMの虫垂炎の総説では、こんな“風向き”を報告しています。「急性虫垂炎に対して虫垂切除か、 抗菌薬ファーストか?」って、虫垂炎の総説っていうより、「貴方の臨床現場の疑問にお答えします!」みたいな感じですねヽ(・∀・)ノ 今回のお題に関する部分のポイントをまとめてみました。

 

Acute Appendicitis – Appendectomy or the “Antibiotics First” Strategy. NEJM, May 14,2015, Clinical Practice

 

  •  1800年代後半から、現在に至るまで手術が主流で、腹腔鏡手術が導入された1980年代以降はその流れが顕著。
  • 虫垂炎として手術を受けたうちの13%が、実際には虫垂炎でなかったという報告もある
  • 虫垂を切除することの問題点も考慮する必要あり。虫垂が腸内細菌の“隠れ家”として機能しているかもしれない。また、Clostridium Difficile再発は虫垂切除患者で有意に高い
  • ただし、単純性虫垂炎に対して抗菌薬ファーストがダメなのか、といった疑問への検討はまだ不十分(複数のRCTがヨーロッパで行われているが、報告にバラツキあり)。
  • 抗菌薬ファーストの治療計画は『24時間抗菌薬静注+内服抗菌薬経口抗菌薬(ciprofloxacinとmetronidazole)7日』
  • 抗菌薬ファーストの場合、緊急手術群と比べて疼痛は同等かやや低く、麻薬の使用量も少なく、社会復帰も早い穿孔率も変わらない
  • 抗菌薬群で手術となったのは10~37%、平均的な再発までの期間は4.2~7カ月
  • ヨーロッパからのRCTでは、抗菌薬ファーストでも穿孔や合併症のリスクを上げないが、やはり再発のリスクは高いと報告。
  • アメリカのガイドラインでは、“腹腔鏡手術による即座の虫垂切除”を推奨しているが、ヨーロッパでは、“抗菌薬ファーストもありかもしれない”といった風潮になってきている。

 

 

手術や入院の費用がべらぼうに高いアメリカからでは「再手術の可能性が1~3割程度なら、抗菌薬で粘ってみたい・・・」なんて思うかもしれませんが、日本でどう解釈するかは、まだ悩ましいところです。でも、少なくとも言えることは、『夜間救急で単純性虫垂炎と出会っても、1日抗菌薬で粘ることは全然問題ないから、恐る恐る外科当直の先生を呼び出さなくてもいい』ってことです(笑)。

 

むしろ、最も大切なことは、確実に「単純性虫垂炎」と診断することなんじゃないかと思います。

 

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