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「知らなかった」では済まされない ―― アメリカの“今”と日本の“近未来”

『安全保障関連法案の閣議決定』と、それに関する若手議員勉強会の『報道機関への圧力発言』、総理補佐官の『法的安定性なんてどうでもいい発言』、若手議員の学生運動グループに対する『戦争行きたくないという利己的考え発言』などなど、「本当にこの国はどこに向かっているんだろう」と、首を傾げたくなります。言いたいことは山ほどあるのですが・・・ブログの趣旨とはなれちゃうので止めておきます( ̄b ̄)

 

 

皆さんに知っておいていただきたいことは、その裏で着々と進んでいる『日本医療制度へのアメリカ市場の進出』の事実です。これ、今後医療を行う我々は絶対知っておかなければならない内容なのですが、実際に知っている人ってあまりいないんじゃないでしょうか?偉そうなこと言っている管理人も、実はほとんど知りませんでした。アメリカを題材とした書籍を多数出版しているジャーナリスト堤未果氏の著書『沈みゆく大国 アメリカ』を読んで「これは知ってなきゃマズい!」と・・・ま、簡単に影響を受けちゃったわけです(^_^;) でも、本当に大切な話です。少し長くなりますが、しばしお付き合いをm(_ _)m

 

ほん

 

 

まず、アメリカの医療の現状をちょっと把握してみましょう。皆さんも、「アメリカの医療費はべらぼうに高い!」ってことは、感覚としてご存知だと思います。個人的に世界一の医療保険制度だと思う日本の『国民皆保険制度』と違い、アメリカの医療は『自由診療』が基本です。高額な医療費に備えて各自が民間保険会社の保険に入りますが、保険に入るための基準が厳しかったり(保険適応の薬が限られる、慢性疾患に罹患したら更新できないなど)、保険料が高かったりと、非常に“不親切”なものです。保険料が払えない低所得者層が無保険のため、重篤化して初めてERを受診するようなことが後をたちませんし、保険に入っている人達の多くも十分な医療の恩恵を受けられずにいます。実際、アメリカの自己破産の約6割は医療費が原因で、そのうちの約8割が医療保険に入っていたと報告されています。もちろん、公的な医療保険制度もあります。65歳以上の国民と障害者用の『メディケア(Medicare)』と、低所得者用の『メディケイド(Medicaid)』という医療保険制度です。メディケアは連邦政府が運用しており、メディケイドは各州で運営されているのですが、メディケアは民間の保険会社を通して加入するプランもあります。その他、勤務先や所属団体が提供する団体保険もありますが、リーマンショックで大量の失業者が出て、その人々がメディケイドに入り・・・とにかく複雑すぎて、管理人にはよく理解が出来ません(汗)。少なくとも、『アメリカでは多くの人が安いけど質の悪い低保険加入者、もしくは無保険者だった』ということは言えます。

 

 

そこに登場したのが2010年に成立した『医療保険制度改革法』、通称『オバマケア』です。「もう誰も、無保険や低保険によって死亡することがあってはならない」という力強い宣言の元『国民皆保険制度』を打ち出したもので、医療保険加入が国民の『義務』となりました。この制度は、保険会社が既往歴を理由に加入を拒否されることや、保険を解約することを禁止したり、支払われる保険金の上限を撤廃したり、患者の自己負担額に上限がつけらたり、低所得者の場合は政府から一定額の補助金が受けられたりと、今までの保険制度と比べると、夢のような制度・・・にみえますよね、一見

 

 

america-obama

 

 

“一見”と書いたのは、もちろん理由があります。日本のように、日本医師会などの意向を踏まえた上で、国が一括して医療政策を決めていくなら、こういった方針は素晴らしいのですが、アメリカの場合、政治を動かしているのは“巨大企業”であり“ウォール街”なのが、この話を非常に“きな臭いもの”にしています。医療保険も、相変わらず中心は民間企業です。もちろん、具体的な話し合いをするのは議会ですが、その話し合いの中には各業界の支援を受けた政治家が多数います。今回の法案に関しても、保険会社や製薬会社(医師ではなく!)の強い意向が入っているようです。そのため、今回の保険制度改定には、患者の利益は度外視された、“保険会社・製薬会社の一人勝ち構造”が存在します。詳細は前述した本を読んでいただきたいのですが、簡単に言えば『保険に入るのが強制になった』→『でも、保険に入る条件が厳しくなった』→『保険に入らないと罰金が科せられるから、多くの人は今までより質の低い保険に入る』→『顧客が増える上、適応される医療の範囲も限られるから、保険会社が儲かる』『保険適応外の薬の処方が増え、しかも薬の値段も自由につけられるから製薬会社が儲かる』――ここまで単純化すると批判もあるかと思いますが、大きくは間違っていないと思います。

 

 

さらに、アメリカの診療が『自由診療』というところも問題です。確かしオバマケアが提案した保険は、医師への診療報酬が保障されていますが、その額は決して高くありません。一般の民間保険の支払い率が100%としたら、メディケアは70~80%、メディケイドは60%弱なのですが、オバマケア保険の支払い率は“メディケイドよい多少マシ”といった程度です。しかも、オバマケア保険を利用するためには細かな規則が沢山存在し、一項目ごとに電子報告書に入力しなければならないそうです。このように『手間は掛かるが儲からない』オバマケア保険ですので、多くの病院はオバマケアネットワークに入っていない、つまり『オバマケア保険加入者は診ない』というスタンスをとっています。これは決して現場の医師が責められることではありません。むしろ大部分の医師達は、ぎりぎりまで頑張っているのですが、国の制度が現場の声より保険会社の声を優先してしまっているために起きてしまっている“悲劇”です。残念ながら、アメリカでの医療は、日本のような『公平平等』なものではなく、『ビジネス』なのです

 

 

Wall street

 

 

この流れのなかから出てきたのが、“ヘルスケアリート”と呼ばれる、ウォール街の投資家達による、医療機関や介護施設の不動産への投資です。「頑張っている医療施設に安定した資金を」なんて言えば聞こえがいいのですが、これはあくまで“投資”であり、“慈善事業”ではありません。つまり、「儲からないことはとことんカット」が原則です。まず、医療施設が『大型医療法人』になります。そして、採算のとれない分野(例えば小児科やER)はどんどんカットされますし、点数の割にリスクの高い処置は行われなくなります。支払い能力の低い患者は診ません。そこには『医療の公平性』などといった、崇高な思想はありません。あくまで『ビジネス』です

 

 

ここまでうだうだと書いてきましたが、これは決して『対岸の火事』ではないんです。2013年末に、日本で『国家戦略特区法』が成立しており、大阪、京都、兵庫に『医療革新拠点』が置かれました。ここでは、「病院の株式会社経営や医療の自由化、混合診療解禁など総合的な規制撤廃地区」と、まさに「アメリカの進んでいる道」そのもの医療が行われています。カンのいい方ならお分かりかと思いますが、この法案はアメリカ政府の強い圧力によりすすんでいるのです。これが全国に広がったら、地方の中規模病院はたまったものではありません。経営不振になった際に外資系企業に買収されたら、その地域の医療体制がどうなっていくか・・・。民間保険会社のビジネスチャンスが増えることでの混乱も招くでしょう。少なくとも日本医師会の掲げている『医療の公平性・非営利性』と相反する姿であることは間違いありません

 

 

こういった内容を書くとどうして批判的なトーンになってしまいますが、これは決して特定の方針や団体を批判するものではありません。いつでも・どこでも・誰でも安心して医療が受けられる日本の『国民皆保険』が患者・医師双方にとって素晴らしい制度であること、それが今どういった状況に置かれているかを知ることは、医療のプロである、あるいはこれからプロになっていく我々にとって義務であると思います。こういった内容にも是非アンテナを張っておいて下さいね(´∀`)

 

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