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苦悩は続く―「てんかん?」のアセスメント―

また痛ましい事象が起こってしまいました。JR池袋駅前で乗用車が暴走、男女5人の方が死傷した事故で、運転していた男性医師が逮捕されましたが、この男性医師が免許更新時に『てんかん』の既往を申請していなかったことが、大きく取り上げられました(毎日新聞:池袋暴走:医師てんかんの持病 定期的に通院、服薬怠る?)。今回の事象とてんかんとの関連はまだ明らかではありませんが、こういった事故のたびに、てんかん患者様が謂れのない偏見にさらされるのでは・・・と心配になります(言われなき偏見〜癲癇のアセスメント〜)。

 

 

救急外来が主戦場の研修医の先生方にとっては、てんかんを考えるのは『失神』と出会った時だと思います。以前もこのブログでポイントを取り上げていますが、今回はその第二弾。今回は失神とてんかんの関係について重点的に書きます。

 

 

そもそも『失神』とはなんでしょうか。ハリソン内科学をみるとSyncopeは“脳の虚血による一過性の意識消失”と書かれています。意識の中枢である両側大脳または脳幹網様体の虚血により生じるので、血圧の変動など血流量が35%以上減少した場合や5-10秒の脳への血流途絶で起こります。くどいのは重々承知で言いますが、TIAでの失神は非常に稀です。脳幹網様体に限局したTIAには脳梗塞の他に脳底動脈解離やSAH、片頭痛に伴う血管攣縮などが考えられ、この場合は意識障害だけで他に神経学的所見を伴わないことも理論的にはあり得ますが、極めて稀な例と考えておくべきです。

 

 

そのため、The American College of Emergency Physicians (ACEP)の失神ガイドラインでは、『12誘導心電図は全症例に施行しなければいけないが、それ以外では何も所見がなければ、ルーチンでの血液検査、心エコー、頭部CTはするべきではない』としています。推奨レベルCとそこまで強いエビデンスがないにも関わらずここまで言い切るのは・・・お国柄ですかね(^^;) (もちろん、家族が『頭が心配なんです』というように医学的な見地と別に頭部CTを検査することは、個人的にはありだと考えています)

 

ただ、『失神』に『痙攣』が加わると、話は全く違ってきます。言うまでもなく痙攣を認めた場合はてんかんの可能性が圧倒的に高くなり、その原因の10~40%(50歳以上なら50%以上)が脳血管障害ですので、当然頭部CTは必須です。その他の原因として低血糖、高浸透圧性高血糖性非ケトン性昏睡、高Na血症、低Na血症、低Ca血症、低Mg血症、腎不全、低酸素血症、呼吸性アルカローシスなどの代謝性疾患、アルコール、頭部外傷、髄膜炎・脳炎、頭蓋内膿瘍、感染性心内膜炎などの頭蓋内感染症、脳腫瘍などを考える必要があります。

 

 

意識障害が5分以上であったり、意識回復後もはっきりとしていなかったり(after sleep)、舌縁の咬傷(特に片側性なら特異度100%!)、震戦、無心没頭(ぼーとしている)、幻覚、気分変調といった前兆、尿失禁・便失禁などがあれば、てんかんの検査前確率が上がります。ただ、何らかの原因で失神したにも関わらず、倒れて横になれなかったりすると脳虚血により痙攣が起こることもあります(syncopal convulsions)。これは、てんかんと診断されている患者の20~30%を占めるといった報告すらあり、結構な頻度です(J Am Coll Cardiol. 2000 Jul; 36(1): 181-184)。ただし、症状の推移に注目してみると、やはり痙攣前に嘔気や冷汗、冷感を伴っていたり、痙攣自体の一回の持続時間も短かかったり、発作後のafter sleepがなかったり、痙攣も実際は90%がミオクローヌス様(ピクピク感)だと報告されています(Ann Neurol. 1994 Aug; 36(2): 233-237)。

 

 

とにかく病歴が大切なてんかんですが、原因検索以外の目的で、検査で役に立つものはあるのでしょうか?もちろん、脳波は重要ですが、実際救急外来でとれる環境なんてほとんどないと思います。もちろん、「この数値が上がっていたらてんかんだ!」なんて便利な項目もありません。結局、『失神』が疑われる患者に対して“痙攣していたかどうか”の確認をすることになります。てんかんを疑われる症例に対して乳酸値>2.5mmol/Lは感度73%、特異度97%、陽性尤度比25、陰性尤度比0.28と報告されており、かなり有用なツールです(Press Med. 1998 Apr 4; 27(13): 604-607)。CPK上昇は発作後3時間以内では約20%しか上昇しませんが、24時間後にはほぼ全例で上昇すると報告されており、こちらも必須の検査と言えるでしょう(J Gen Intern Med. 1991 Sep-Oct; 6(5): 408-412)。

 

 

最近の・・・といってももう10年ぐらい前から言われていますが、プロラクチン値はてんかんの予測に非常に重要です。これは、内側側頭葉がてんかんによる影響を受けることで視床下部の働きが抑制され、視床下部から放出されるプロラクチン抑制因子であるドパミンの分泌が減り、結果として下垂体からのプロラクチン分泌が増える、という理論です。プロラクチンは発作後15~25分でピークを迎え、1時間を超えると正常化しますので、発作後1時間以内の数値が24時間後の基準値の2倍以上(あるいは1時間以内の値>20~45ng/mL)なら陽性尤度比7.3と、てんかんの可能性がかなり高まります(Neurology. 2005 Sep 13; 65(5): 668-675)。ただ、これは強直間代性痙攣の場合のみで、その他のパターンの痙攣の際は解釈に注意が必要です。ちなみに、 強直間代性痙攣後にはプロラクチンと一緒にコルチゾールが上昇しますが、模擬けいれんではコルチゾールしか上昇しないので、採血の際はセットでオーダーすることをお勧めします。

 

 

もちろん、確定診断のために脳波は必須です。脳波はてんかん発症後24時間以内の感度は51%で、24時間を過ぎると34%と報告されていますので、可能な限り早めにとりましょう(Lancet 1998 Sep 26; 352(9133): 1007-1011)。

 

 

てんかん・・・患者様はもちろん、主治医にとっても苦悩の続く疾患です。

 

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