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食うか、食われるか ―― “人食いバクテリ”の恐怖

ここ数年徐々に増加傾向にあった『劇症型連鎖球菌感染症』が、今年は1999年の統計開始からすでに過去最高を記録しているそうです。その名の通り“劇症”な経過をとることが多く、救急外来での『発熱+皮疹』のカードの中では最重要な疾患・・・ではありますが、実際に出会う頻度はそんなに高くないという印象でした。ところが、今年は8月16日時点で284人と、すでに昨年の報告数を超えているそうです(朝日新聞医療サイト:「人食いバクテリア」感染が過去最多 劇症化なら死亡も)。『人食いバクテリア』なんて一般の方々の恐怖を煽るようなニックネーム(?)まで付いていますし、情報番組の格好のネタですね(-“-)

 

 

CDCのホームページをみると“flesh-eating infection”(生肉を食らう感染)なんて記載されていますが、『人食いバクテリア』のほうがインパクト大です。原因になるのはもちろんA群溶血性連鎖球菌感染症溶連菌)ですが、その他にも KlebsiellaVibrio vulnificusClostridium大腸菌黄色ブドウ球菌Aeromonas hydrophilaなど、結局どこの感染でも頭の片隅には入れておかなければいけません。

 

 

さて、A群連鎖球菌。どこにでもいるありふれた菌であることは、改めて言うまでもありませんよね。デンマークの報告では健常者の約2%が保菌しているとのことです。A 群連鎖球菌はスーパー抗原と呼ばれる溶連菌発熱外毒素(streptococcal pyrogenic exotoxins:SPEs)を産生し,ごく微量でも短時間のうちに抗原提示細胞やT細胞を直接刺激,活性化し,大量のサイトカインを発生させることにより、ショックや多臓器不全を来たします(Norrby-Teglund A, et al:Similar cytokine induction profiles of a novel streptococcal exotoxin, MF, and pyrogenic exotoxins A and B. Infect Immun 62:3731-3738, 1994)。ただし、溶連菌に感染したうちの何%が劇症化するのか、また、何をきっかけに劇症化するのかは、ほとんど分かっていません。日本の国立感染症研究所が、毒素産生を調節している遺伝子に変異が起こることによって毒素が増加し、劇症化が起こるのではないかと報告していますが、なぜそのような遺伝子変異が起こるかも特定されていません(Ikebe T et al. PLoS Pathog. 6(4):e1000832, 2010)。一部の遺伝子株が変異を超しやすいなんてことも言われていますが、“時間との勝負”の劇症型連鎖球菌感染症診療で、臨床現場で遺伝子検査を使用するのは現実的ではありません。

 

GPC

 

 

なぜ発症するかは不明ですが、どういった人がなりやすいかは分かっています。糖尿病、肝硬変、CKDなどの慢性疾患をもつ場合、免疫抑制状態、アルコール多飲、妊娠中や出産直後、インフルエンザや水痘などウイルス感染後などです。こういった背景因子のある方のちょっとした傷、火傷、虫刺されはもちろん、打撲跡や捻挫などが原因になることが多いです。ただ、まったくエントリーになる傷が見当たらない症例や、陰嚢の裏など分かりにくい場所の傷が原因になるフルニエ症候群のようなパターンまであり、実際の発症予測は非常に困難です

 

 

初期症状で最も一般的なのは四肢の“疼痛”です。疼痛の開始前に、発熱、悪寒、筋肉痛、下痢のようなインフルエンザ様の症状が20%程度みられます。その後は、全身症状として発熱を認めますが、約10%はショックによる低体温を示すと言われています。その他、錯乱状態、昏睡、好戦的な姿勢などの意識混濁がみられることもあります(Stevens DL:Invasive group A streptococcus infections. Clin Infect Dis 14:2‐13,1992.)。

 

 

下の写真は、管理人が経験したVibrio vulnificusによる『人食いバクテリア』の症例です。局所的所見はこのような水泡性紫斑で、深部の軟部組織感染症によるものです。この症例、来院された時は独歩で受診されたのですが、あれよあれよという内に症状が進行し、24時間後には残念ながら亡くなられました。実際、報告されている死亡率は30~50%と、とにかくシビアな疾患です。

 

ビブリオ

 

 

治療は、とにかく大量の輸液と、一刻も早い抗菌薬の投与です。ペニシリン系抗菌薬がファーストになりますが、組織内の菌量が増えると菌の発育が抑制されるため殺菌作用のβラクタム系抗菌薬の効果が低下すると言われていますので、重症の場合(ほぼ全例だと思いますが)、クリンダマイシンの併用も推奨されています。確実なエビデンスがあるわけではありませんが、免疫グロブリン製剤の有効性も報告されています。あと、壊死の急激な進行は防ぐことが難しく、急速な腎障害や代謝性アシドーシスの悪化はほぼ必発ですので、速やかに広範囲な病巣切除を行う必要があります

 

 

ちなみに、本疾患は5種感染症ですので、診断して一週間以内の届け出が必要です。

 

 

こうやってまとめていても、何だか気が滅入ってしまいそうな情報ばかりです。ただ、間違いなく言えるのは「救急外来で気付くか気付かないかで、患者様の予後が大きく変わってしまう」ということです。少なくとも、慢性疾患や免疫不全、妊婦さんなどが原因の分からない四肢の痛みを訴えられたら、徹底的に傷や紫斑を探してください。少しでもおかしいと思ったら全例入院!オーバートリアージは許容される疾患です

 

ぱっくまん

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