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まさに“カオス” ―― IVIGする?

「“総合診療”や“プライマリ・ケア”を勉強するには、まず何をすればいいですか?」って質問を受けました。もちろん、管理人ごときに正解を導き出せる訳はありませんが、間違いなく言えるのは「重症患者管理を覚える」ということです。「いやいや、自分は将来そんなことする予定ないんで(*_*)」なんて方もいると思います(実は管理人もそのひとりでした(^^;))。でも、『プライマリ』つまり『最初』を守るためには、その後にどういう経過を辿るか、どういう状態になるか、最終的にどういう治療がされるかを知っていなければなりません。

 

 

・・・って、説教染みた話になってしまいましたが、今回のテーマは『敗血症への免疫グロブリン投与』です。ICUなどのセッティングでは当たり前のように使われていると思いますが、一般病棟では使うかどうか結構悩むんじゃないでしょうか?何といっても高いですからね~。以前に比べればかなり値段は抑えられていますが、それでも1バイアル平均5万円程度、日本では5gを3日間投与するのがスタンダードですので15万円・・・「確実に効果がありますよ!」と言われれば出してもいいかなって思えるかもしれませんが、「効くかどうか何とも言えないけど、とりあえず使ってみますか?」では・・・。

 

 

まず、免疫グロブリン投与でどういった効果が得られるかを確認しておきましょう。

 

  • 食細胞の貪食作用を促進するオプソニン化
  • 補体を介した溶菌作用促進
  • 毒素・ウイルスの中和作用
  • Fc受容体を介した、抗体依存性細胞障害活性促進作用
  • 樹状細胞、T細胞、B細胞の活性化
  • IL-1α/β、IL-6、TNF-αなどのサイトカインの抑制作用

 

作用機序としてこれだけのことが言われていますので、理論的に重症感染症の治療に効果を発揮することは間違いないと思います。ただ、これが『臨床的なアウトカムを改善するか』というところが問題です。

 

 

敗血症に対する免疫グロブリン療法(Intravenous immunoglobulin; IVIG)の使用に関しては、以前に紹介したSurviving Sepsis Campaign Guidelines (SSCG)2012と、日本版敗血症診療ガイドラインが全く真逆の立場をとっているのが厄介なところです( ̄◇ ̄;)

 

 

SSCG2012では、免疫グロブリン療法の有効性に対して否定的な立場をとっています。その根拠となった2002年発表のコクランデータベースのメタ解析では、ポリクローナルIVIGに関する10報告(1430例)とIgM濃厚ポリクローナルIVIGに関する7報告(528例)の解析を行っています。この報告では、死亡率をそれぞれ29%、34%と減少させたとしていますが、それぞれの試験の規模が小さいことで信頼区間が広がってしまい、最終的な結論として「強固な結論を導き出すのに不十分」としています(https://translate.google.co.jp/translate?hl=ja&sl=en&tl=ja&u=http%3A%2F%2Fwww.ncbi.nlm.nih.gov%2Fpubmed%2F11869591&anno=2)。その他、成人624例を対象とした大規模多施設協同RCTであるSBITS study(Crit Care Med 2007; 35: 2693-701)、小児3493例を対象とした大規模多施設共同RCT(N Engl J Med 2011; 365: 1201-1)などでもIVIGの有効性は否定されています。これらの結果を踏まえ、「IVIGの有効性を示した報告はほとんどが小規模試験で研究の質が低いものが多く、比較的質の高い大規模臨床研究では有効性は否定されているため、現時点では敗血症治療にIVIGを推奨する根拠は乏しい」というのがSSCG2012の立場です。

 

 

それに対して、同じく2012年に発表された日本版敗血症診療ガイドラインでは、「現時点での根拠は乏しい」としながらも、前出のSBITS studyの結果をもとに「死亡率改善効果は認められないものの、人工呼吸器装着日数の短縮やICU生存率の改善効果があるため使用を考慮してもよい」という立場をとっています。また、2010年にAlejandriaらによるコクランレビュー、 MEDLINE、EMBASEの3つのデータベース を基にした敗血症症例についてIVIG投与群とコントロール群(プラセボ投与または投与なし)とを比較した無作為化比較試験42論文のメタ解析では、プラセボ群に比較してのハザード比は、ポリクローナルIVIG投与群で0.45、IgM-IVIGで0.66と有意な低下を示したという報告も、このガイドラインの見解の根拠となっているようです(ただし、この報告もバイアスの少ない報告に限定した検討では有意な改善はみられなかったようです)。

 

 

う~ん・・・“カオス”ですな(´-ω-`)

 

 

ただ、ここで気をつけなければならないことがあります。それは、『海外の報告と日本の実臨床で使われている免疫グロブリンの投与量は全然違う』ということです。例えば、SBITS studyでは治療開始2日間でトータル0.9g/kg(体重50kgで45g)が投与されており,日本の標準的な投与量である5g/day×3日間と比べても3倍の量になります。その他の報告も、投与量は0.15~0.5g/kg/dayと日本に比べてかなり多く、これらのデータを根拠にアウトカムを検討することには無理があると言わざるを得ません。

 

 

もちろん、日本の投与量に関する国内の報告もあります。2007年に日本集中治療医学会で行われたSepsisRegistry委員会の調査では、敗血症患者246例に対し免疫グロブリン15g/3日投与の有無により2群に分類し、年齢、性別、APACHEⅡスコア、SOFAスコア、IVIG施行前の乳酸値,抗菌薬投与前の血液培養、ICU入室1時間以内の抗菌薬投与の有無の計7項目で傾向マッチング解析を行った結果、28日死亡率、ICU死亡率、院内死亡率の有意な改善がみられたと報告しています(日本集中治療医学会SepsisRegistry委員会.第1回SepsisRegistry調査(2007年10月〜12月)。ただ、これはあくまで後ろ向き試験ですので、エビデンスレベルとして高いものではありません。

 

 

結局、現時点でのIVIGの位置づけは「確固たるエビデンスはないけど、作用機序的には意味があるし、小規模な試験なら死亡率の改善報告もあるから、使ってもいいんじゃない!?」っていう、非常に曖昧なものと考えていいでしょう(ウダウダと書いてきて、結局結論は一緒(― ―;))。

 

 

「SSCGでは否定的なんだから止めておこう」「他に手立てもないし、やらないよりいいんじゃない?」「全部やってダメなら仕方が無いから、IVIGもやっておこう」「家族も積極的な治療は望まれてないし、そこまでやらなくていいんじゃない?」「こんな高い薬使って改善しなかったらマズくない?」・・・色々な感情が入り乱れるのが免疫グロブリン投与の『臨床』です。こういった感情を持つのは決して悪いことではないと思います。ただ、そういった感情に対する『根拠』を持っていることは、プロフェッショナルとして必要だと思います。

 

Isolated studio shot of a dark haired caucasian woman comparing apples to oranges.

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