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三つの悲しいこと ―― 求められる“人間力”

有名芸能人の方々の癌に関するニュースが話題になっています。亡くなられた方、これから闘病生活を送られる方、お二方とも「自分の身体を犠牲にして、一般の方々への癌の啓蒙を行う」という、素晴らしい行動をとられています。本当に頭の下がる思いです。特に、亡くなる直前までメディアの前に姿を表し、最期まで女優然とした立ち振る舞いをされていた川島なお美さんの強さに、深い哀悼の意を表したいと思います。民間療法を中心に行っていた治療内容について医師の間で色々と物議を醸していますが、腫瘍学を専門としない管理人が意見するのは差し控えようと思います。

 

 

管理人が気になったのは、以下のような内容です。

 

http://wol.nikkeibp.co.jp/atcl/trend/15/105974/100600005/?rt=nocnt

 

この記事を読んで、皆さんはどう思われますか?確かに、北斗晶さんの担当医の先生が言われた「胸の事よりも今は5年先、10年先、生きることを考えましょう」という言葉は、患者様に寄り添った素晴らしいと言葉だと思います。正直、こんなカッコいいセリフを管理人は言えません。では、川島なお美さんの担当医の言葉はどうでしょうか?言い方にもよりますし、その時の医師の表情や仕草なども関係はしてきますが、恐らく、診察室で日常的に行われている“普通の会話”です(良い悪いは別にして)。むしろ、「良性か悪性か病理検査の結果がないと確定はできないですが、悪性腫瘍の診断がないと長期に休みにくいでしょうから、その辺は融通を利かせますね」といった、好意的な表現だったかもしれません。良かれと思って言っていることが、患者様の気持ちを逆撫でしてしまっているのかも・・・。これは、実は前者に関しても同様です。同じ言葉を伝えられて好意的に受け止められる方ばかりとは限りません。もしかしたら、「『胸の事より』なんて、気楽に言うんじゃない!」と、憤慨されるかもしれません

 

 

以前にもこのブログ(『高い壁』『すれ違い・・・気付いていますか?』 )で書かせていただきましたが、とにかく、『その人の人生の一部と向き合う』ということは、本当に難しいことです。

 

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管理人が好んで読んでいる中日新聞の連載記事に『ホンネ外来』というものがあります。患者様が医療機関を受診された時に感じた何気ない感情をまさに“ホンネ” で語っている記事です。患者様側から見える“医療の風景”を感じられる貴重な意見が沢山掲載されています。もちろん、好意的な意見もありますが、大部分は「医療者側の心ない言動」についてです。多少の選択バイアスはあると思いますが、やはり、まだまだ医療界は一般の方々からみたらネガティブな世界なのだと思わずにはいられません。

 

 

医師とはどうあるべきか――。もちろん、管理人ごときに答えなど出せませんし、一生かかっても解けない問題だと思います。ただ、ヒントになる本があります。岸和田徳洲会病院の内科医で、右足の線維肉腫のため1979年にわずか31歳の若さでこの世を去った、井村和清先生の手記です。

 

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一読すると、構成が少し散漫な印象を受けます。また、似たような内容の文章が繰り返し出てきます。ただ、これは井村先生がこの本を執筆されている間も想像を絶するような闘病生活を送られながら、さらに最期の最期まで患者様と向き合い医療に身を捧げられていたからです。その事実を踏まえて読むと、この構成が返って胸に刺さります。

 

 

タイトルから、井村先生がご家族に向けて書かれた本と思われるかもしれません。確かに、そのような要素もあるのですが、管理人は『志半ばで逝く自分の後を託す医療者へのメッセージ本』だと感じました。以下の文章は、井村先生がいよいよ医療を続けることが出来なくなり、断腸の思いで岸和田徳洲会病院を辞職される際、全職員の前で話された言葉です。

 

 

「私の心には三つの悲しいことがあります。一つめは、どうしても治らない患者さんに何もしてあげられない悲しさです。二つめは、お金のない貧しい患者さんが、病気のことだけでなく、お金のことまでも心配しなければならないという悲しさです。三つめは、病気をしている人の気持ちになって医療をしていたつもりでも、本当には病気をしている人の気持ちにはなれないという悲しさです。ですから、私は皆さんに、患者さんに対してはできる限りの努力を一生懸命していただきたいのです。」

 

 

この言葉を言われたのは、亡くなられるわずか一か月前のことです。死を目前にしてなお、患者様を思い、患者様に愛情を注がれています。そして、何よりすごいのが、自身が最も患者様の立場を理解しているにも関わらず、「病気の人の気持ちになれない悲しさ」を嘆いていられることです

 

 

医師という職業は、かくも“人間力”を必要とするものなのか――若輩者の管理人にとっては、途方もなく高い『頂』です。もちろん、この頂を目指すのは臨床経験が何年経ってからでも問題ありませんし、目指さなければいけません。ただ、経験は時として『邪魔になる言い訳』を沢山作ってしまいます。このブログを読んでいただいている学生さんや研修医、若い先生方には、熱い気持ちを持っている今こそ読んでみて、何かを感じていただければと思います。

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