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我々が知るべき事実 ー化血研問題についてー

また残念な事象(事件と言ってもいいかもしれません)が起こってしまいました。一般財団法人化学及血清療法研究所(以下化血研)が、国の承認と異なる方法で血液製剤を製造していた問題です。この問題、言うまでもなく医療界における“激震”なんですが、管理人の実感として、実際の現場ではあまり大きく騒がれていないような気がします。この話題、何となくこのまま消えていってしまうのでは・・・と危惧します。医療を行う者すべてが知っておかなければいけない内容ですので、今回は敢えてこの件に触れることにします。個人のブログではありませんので、管理人の感情は極力おさえ、『事実』をまとめてみようと思います。

 

 

まず、化血研について簡単に押さえておきましょう。化血研は『生物学的医薬品の開発と供給を通して感染症や疾病の予防と治療に貢献し、国民の健康に寄与する』というミッションのもと、1945年に熊本県に設立されました(何とも皮肉なミッション・・・って、いきなり個人的な感情が入りそうです(- -;))。血漿分画製剤(ベニロン、アルブミン、ガンマグロブリン、ボルヒール等)、ワクチン(インフルエンザ、日本脳炎、DPT、ビームゲン等)、抗毒素製剤(まむし抗毒素、はぶ抗毒素)などを扱っており、特に血液製剤の国内シェアは2014年度で第二位です。血漿分画製剤自体は日本でも1950年代からあったようですが、実臨床で頻用されるようになったのは1970年代と言われており、それを牽引したのは間違いなく化血研だと思います。この功績はもちろん讃えられるべき事実です

 

かけつけん

化血研のホームページより

 

化血研が今回のような“負の報道”がされたのは、今回が初めてではありません。1989年に、主に1980年代に使用されていた非加熱の血液凝固製剤を使用したことにより、多数のHIV感染者を出した『薬害エイズ事件』です。日本では全血友病患者の約4割にあたる1800人がHIVに感染し、うち約600人以上がすでに死亡されている、非常に痛ましい事象です。この時、製造販売で提訴された製薬会社が、当時のミドリ十字(現在の田辺三菱製薬)と化血研なのです

 

 

HIVに感染したと推定される供血者からの血液と分かっていながら、それを原料に製造された血液凝固因子製剤を、ウイルスの不活性化を行なわないままに流通させ治療に使用していたわけです。この事件が非常に罪深いことは、今更言うまでもありません。ただ・・・ただです。当時の状況を想像すると、全く理解できないこともないんです(決して正当化するものではありません)。1980年代初頭でもエイズ自体の存在は知られており、何らかのウイルス感染症によるというコンセンサスは得られていました。しかし、その原因がHIVと確実に同定されたのは1984年のことです。しかも、当時の専門家の中には「HIVに対する抗体が陽性ならば、発症のリスクは非常に低い」といった見解も多く見られたようです。確かに、アメリカでは加熱製剤を早期に承認していましたが、それはあくまでB型肝炎対策であってエイズ対策ではありませんでした。日本ではB型肝炎はワクチンで対応可能と考えられたので、加熱製剤の早期承認は必要ないと判断されていました。この時代は、エイズの病原体も特定されておらず、当然、検査法も確立されていませんでした。また、潜伏期間に関しての情報も不足しており、血液製剤による感染リスクがどの程度あるかについての医学的知見は決め手に欠けていたのです。さらには、当時の日本は世界の血漿総量の約1/3を消費する『血漿製剤大国』でしたので、「何となく危ない」といった不確定な情報だけで使用を中止することは出来ない“空気”があったんじゃないかと想像します(繰り返しますが、全く正当化するつもりはありません)。

 

薬害エイズ事件

 

 

それに対して、今回の事象は同じ隠蔽でも大きく違います。第三者委員会の調査報告や関係者の話によると、化血研では1974年以降、承認書と異なる31の製法工程、具体的には製造効率を高めて利益を上げるため、国の承認を得ていないヘパリンを添付して多くの血液製剤が作っていたようです。さらに、国の査察態勢の厳格化がすすんだ1995年頃からは、虚偽の製造記録を検査で提示する隠蔽工作が始まったとのことです。この虚偽の製造記録の作成過程は、どれだけ個人的な感情抜きに考えようとしても、悪質極まりないとしか言えません。まず、国の監査官が来た時に見せる資料と、本物の資料の2種類を作成し、区別するためにフォントを変えたり、過去の記録を改ざんする時には、その資料と筆跡が似ている職員に文字を書かせたりしていました。さらに、古い書類を改ざんするために新しい紙に書いた後、紫外線や日光に当てて風化させるといった作業も行われていたようです。

 

 

さらに、今回の隠蔽が40年以上に渡って繰り返されていることも大きな問題です。前出の『薬害エイズ事件』が騒がれたのが1989年、当時の厚生大臣である菅直人氏が謝罪して原告団との和解が成立したのが1996年です。この和解の際に、「薬害の再発防止」が誓約されています。それにも関わらず、ほぼ同時進行でこういった隠蔽工作が続けられていたのです。薬害エイズ事件の原告の方々の思いを考えると心が痛みます。

 

 

前出の第三者委員会は、今回の事象に対して「重大な違法行為で、常軌を逸した隠蔽体質」とし、「問題の根幹は『自分たちは専門家だ』とか『製造方法を改善しているのだから当局を少々ごまかしても大きな問題ではない』という、研究者の奢りだ」と厳しく指摘しています。ただ、だからといってこれらの製剤の出荷を今すぐ規制できるかというと、現実的には難しい側面もあります。以下の表を見てください。

 

化血研

 

これだけの製剤が急に出荷停止になってしまったら、現場が大混乱に陥るのは間違いありません。これはあくまで個人的な感想ですが、「これだけ広く使われているんだから、製造停止になる訳がない」といった考えが根底にあったのでは、といった穿った見方もしてしまいます。

 

 

ここで是非知っておいてもらいたいことがあります。以前このブログで『バルサルタン問題』を取り上げた時にも書いたのですが、今回不正があった製品は、いずれも出荷時の国の検定には合格しており、重大な副作用は確認されていないということです。我々がしなければいけないことは、「会社の弾圧」ではなく、「患者様の不安軽減」ですから

 

 

このまま書き続けたら、もっと個人的な感情が出てきそうなので、この辺で止めておきます(^_^;) ただ、我々はこういった事実を「知っている」義務があるのではないかと思います。事実を知った上で、それぞれの意見を持ってもらえれば幸いです。

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