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知ってて当然!? 最近の片頭痛事情

先日仕事がひと段落して医局に戻ってくると、テレビで「27年間悩まされた片頭痛が手術で治った!」なんて番組がやっていました(『世界仰天ニュース』)。正直、「おいおい、そんなフレッシュな特集、今の段階でされても困るよぉ」ってのが、管理人の本音です。だって、片頭痛と心臓との関係なんて、総合診療の世界で言われだしたのも、せいぜい7~8年前ですからね。その時はいつも通り(?)、研修医の先生方に“したり顔”で話していたものですが、まさかこんなに直ぐに『一般の方も知る当たり前の治療』になってしまうとは・・・いやぁ、医学の世界の流れって速いですね(^^;) もしかしたら「私の片頭痛もスグに手術で治して下さい!」なんて受診も増えるんじゃ・・・って、ちょっと不謹慎なことも考えてしまいましたm(_ _)m

 

 

さて、いずれにしても『片頭痛』はしっかり押さえておきましょう。患者様の数、苦しみ度合を考えたら、専門医じゃなくても知らないわけには絶対いきませんからね。

 

 

最初に基本的なところをさらっと確認しておきましょう。まずはあの方の登場です!

 

ひぽくらてす

 

たびたび登場していただいている古代ギリシアの医聖Hippocrates・・・相変わらず凄いですね~。2400年前にも関わらず、片頭痛の特徴がほぼ押さえられています。成人の約8%が持っていると言われ、女性の有病率は男性の約4倍で、生理や排卵と関連して現れることが多いです。思春期ごろから多くなり、60歳頃にはほとんど無くなります(最盛期は 30歳代)。なにより『前兆』の存在が特徴的で、33~75%に認めると言われています。

 

前兆

 

発作的に起こることも特徴のひとつで、よく“夕立”に例えられます。1回の発作の持続時間は4~72時間で、「日常生活がとても続けられない程」、「寝込んでしまう程」の激痛です。『生活への支障あり・悪心・光過敏』の3つを満たせば98%、2つを満たせば93%片頭痛といえます『光・音・臭い』は閉じた質問が必要です。光過敏はカーテンの隙間や雲の切れ間から漏れるような光が特に増悪因子になりやすく、音に関しては「時計の秒針の進む音もダメ」なんだそうです。また、日本人の片頭痛では香水などの『臭い過敏』を有することも特徴として挙げられます。医療面接で大切なのは、もちろん“POUND criteria”です。5つの質問のうち4つの質問が当てはまれば、片頭痛の確率が非常に高くなり(尤度比 24)、2つ以下の場合は確率が下がります(尤度比 0.41)。既に片頭痛の診断を受けられている方には、その程度の評価も必要になってきます(Japanese translation of the MSQ)。

 

 

POUND

 

 

さて、ここまではおさらい。一歩差をつけるために、ちょっと突っ込んで話します。「堅苦しい(-“-)」と思われるかもしれませんが、治療を理解する上で重要です。出来るだけ噛み砕いて話しますので暫しお付き合いを(‘◇’)ゞ

 

 

従来は、片頭痛の病態は血管の伸び縮みによる『血管攣縮説』が主流でした。実際、血管攣縮自体は起こっているようですが、今言われている病態のキーワードは『脱分極』『セロトニン』です。以下の図をご覧下さい。

 

片頭痛機序

 

『脱分極説』は、神経活動が脳皮質のどこかで抑制された後に「バーン!!!」と脱分極することにより、脳神経根、特に顔や頭の大部分に感覚情報を運ぶ三叉神経の炎症を引き起こすというものです。特に、後頭葉で起こることが多いため、最初に視覚の障害が起こります。そして、その脱分極が多くは30分以内(平均約18分)に他の部位に広がっていき、頭痛が誘発されます(前兆から片頭痛発作までの時間がコレ)。専門の先生方からはお叱りを受けるかもしれませんが、ザックリ言ってしまえば、『てんかん』みたいなモノです。また、片頭痛のタイプには23種類あるのですが、中には頭痛とともに構音障害や回転性めまい、複視などを来す『脳底型片頭痛』、頭痛に一過性の片側の脱力や行動異常を伴う『片麻痺性片頭痛』、結膜充血、流涙、鼻閉、眼瞼下垂など患側眼窩の症状を伴う『網膜片頭痛』などもあり大混乱ですが、「脱分極を起こす場所によって色々な症状が起こる」と考えれば、理解しやすいと思います。

 

Lauritzen M (February 1994). “Pathophysiology of the migraine aura. The spreading depression theory”. Brain 117 (1): 199–210. doi:10.1093/brain/117.1.199.

 

 

セロトニンと片頭痛の関係は、1960年代頃より注目されていました。セロトニンはもちろん、神経細胞間でメッセージを伝達する物質で、ドパミンやノルアドレナリンと拮抗する役割がありますが、もともと血管平滑筋を収縮させるホルモンとして発見されました。片頭痛の誘因としてストレスは確立していますが、それは『ストレスが加わりドパミンやノルアドレナリンが増加』→『それに負けじとセロトニンが大量放出!』→『一時的に血管が収縮』→『セロトニンは脳内に少量しか産生されないため、セロトニンが枯渇😢💦』→『血管収縮作用が一気に開放され血管が拡張』→『血管周囲の神経が刺激され、片頭痛を発症!』という経過をとるからだと推測されています。ちなみに、トリプタン製剤は、セロトニン1B受容体に作用し、拡張した血管を収縮させます。さらにセロトニン1D受容体に作用して、血管拡張性の神経ペプチドの放出を抑制することにより片頭痛の症状を消失させます。

 

Alexander Mauskop; Fox, Barry (2001). What Your Doctor May Not Tell You About(TM): Migraines : The Breakthrough Program That Can Help End Your Pain. New York: Warner Books. ISBN 0-446-67826-0.

 

 

以前は「家族内発生は多いけど、遺伝性はない」なんて言われていましたが、これも変わってきました。2004年にBoehnke氏らの臨床研究によって行われた重度片頭痛患者への高用量リボフラビン(ビタミンB2)の有効性報告されました。じゃあ何故リボフラビンが効いたかというと、ポイントは次のキーワードである『ミトコンドリア』です。ミトコンドリアの機能障害がATPの産生低下とエネルギー代謝の低下を引き起こすのですが、リボフラミンはこのミトコンドリア内の電子伝達に重要な役割を果たしているんです。また、健康なミトコンドリアは、正常細胞内のカルシウムイオンの恒常性を保つのに役立ちますが、このカルシウムイオンのバランスが崩れると血管が収縮して片頭痛を引き起こします(このブログらしからぬアカデミックさ(^^;))。つまり、リボフラビンは片頭痛患者におけるミトコンドリアのエネルギー貯蔵を満たし、ミトコンドリア機能と効率の双方を強化できると考えられているんです。 このミトコンドリアの機能に関しては、遺伝性があると報告されています

 

Boehnke C. Reuter U et al., Vitamin Supplementation as Possible Prophylactic Treatment against Migraine with Aura and Menstrual Migraine、European Journal of Neurology, 2004, 11(7):475–477.

 

 

さてさて、やっとたどり着けました。最後のキーワードは『卵円孔』。「卵円孔をカテーテルで閉鎖したら片頭痛が治った」という論文は以前から散見されていました。海外では結構ありきたりだったりするみたいですが、日本では平成27年5月に岡山大学病院でやっと施行されるようになりました(保険適応外なので、費用は約130万円です)。卵円孔開存症は片頭痛のない人でも約25%にみられますが、片頭痛の方では40~70%に合併していて、特に「前兆のある片頭痛」で多いと言われています。いわゆる『右‐左シャント』の存在で、微細な血栓が脳表面の血管を詰まらせるために起こる・・・これも、専門家の先生に怒られる表現かもしれませんが、ザックリ言えば『TIA発作』なんだろうなって、素人的(?)には思います。

 

 

・・・ってことを踏まえて考えると、「卵円孔からパラパラと血栓が飛ぶ」→「主に後頭葉の脳表面でTIA」→「てんかんもどきの脱分極が発生し前兆出現」→「セロトニンが減ったり、ミトコンドリアの働きが悪かったりして血管が拡張」→「片頭痛発作!」・・・シンプルすぎますかね(-_-;)?

 

 

ボリュームオーバーぎみですが、せっかくなので治療も少し。フリーアクセスできる『慢性頭痛の診療ガイドライン』では、「軽度~中等度の頭痛にはアセトアミノフェン、ナプロキセンなどのNSAIDSを使用する。次に中等度~重度の頭痛、または軽度~中等度の頭痛でも過去にNSAIDSの効果がなかった場合には、トリプタンを推奨する。」とあります。もちろんその通りなのですが、実際に皆さんの前に来られる患者様は「NSAIDSが効かないから何とかして欲しい!」って方が多いと思います。やはり、治療の柱はトリプタン製剤です。トリプタン製剤の薬理作用は前述のとおり、セロトニン1B受容体に作用し、拡張した血管を収縮させることと、セロトニン1D受容体に作用して、血管拡張性の神経ペプチドの放出を抑制することです。重篤な副作用報告はほとんどなく、安全性の高い薬ですが、内服後30分程度で咽頭・頸部・肩・胸部などの締め付け感や圧迫感、呼吸困難感といった、いわゆる『トリプタン感覚』が出現することがあります。自然に軽快しますし、筋骨格系の問題ですので、出現しても問題ありません。また、軽度の倦怠感や眠気の副作用もあります。ちなみに、色々な薬が出ていますが、正直、合う、合わないは使ってみないと分りません。トリプタン自体への感受性が低い方は比較的少ないようですので、効かないときは他の薬剤への変更も必要です。

 

 

これでもコントロール出来ない時に登場するのが、今までツラツラと書いてきた病態生理です(長い前振りにお付き合いいただき有難うございますm(_ _)m笑)。予防的な意味合いですが、『脱分極説』に対しては抗てんかん薬(バルプロ酸)、『セロトニン説』には抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSA)、『ミトコンドリア』に対してはビタミンB2製剤はもちろん、レバー、牛乳、海藻などを多く摂取することを勧めます。それでもダメなら卵円孔開存の確認・・・って、ここまでいくとハードル高すぎですね(汗)。いずれにしても「トリプタン出してダメならお手上げ!」なんてことは避けたいところです。

 

 

最後に、管理人流の『プライマリ・ケアの現場での片頭痛アセスメント』をまとめておきます。

 

 

  1. その頭痛が片頭痛かどうかの確認→POUND criteria など
  2. 片頭痛発作の程度の確認→MSQ など
  3. 誘因となる物質(ストレス、喫煙、不規則な生活、月経、経口避妊薬、赤ワイン、チーズ、チョコレート、漬物、発酵食品、うま味調味料、ナッツ類、アボガド、コーヒー、栄養ドリンクなど)の確認
  4. うつ病の合併を確認→MAPSOスコア など
  5. 誘因となる物質を避けるように指導
  6. 今まで治療経験がなければアセトアミノフェン(+制吐剤)処方
  7. 日常生活に支障がある、または今までの治療が無効な場合はトリプタンの禁忌事項(ACSの既往、脳梗塞、ASO、難治性高血圧、肝機能障害、MAO阻害薬使用)確認の上で、トリプタン製剤(+制吐剤)を開始(『トリプタン感覚』や、軽度の倦怠感、眠気などの副作用を説明)
  8. 最初のトリプタン製剤が効かなければ、他のトリプタン製剤に変更(3剤程度までトライ)
  9. 治療効果が乏しければ、状態に応じてSSRIやバルプロ酸を少量追加投与(必ずどちらか1剤から).場合によって発作時にベンゾジアゼピン系抗不安薬を追加投与
  10. 抑うつ傾向が強く少量SSRIでコントロール不良の場合は精神科介入を検討
  11. それでもダメなら心エコーで卵円孔開存を確認???

 

 

頭痛診療で最も大切なことは、もちろん『見逃せない“5 headache”』の否定です。その知識を踏まえた上で、患者様の数も多く、苦しみも強い片頭痛を押さえておけば、今よりも自信を持って頭痛診療に当たれますよ(^-^)

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