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妊娠と薬 ―答えのないテーマ―

CMになるのですが、今月号の『週刊医学界新聞』で、初期研修の先生を対象にした記事を書かせていただいています。「初期研修中に身に付けたて、皆に頼られる存在になろう!」みたいなコンセプトで、一年間(もつのか(*_*;!?)連載させていただく予定です。是非ご一読をm(_ _)m(PDFはこちら

 

 

そのためという訳ではないのですが、blogの更新が滞ってしまいました💦 今回は『妊婦さんへの薬の投与』についてです。一般外来ではもちろん、救急外来でも「妊娠中なんですが、薬飲んでもいいですか?」なんて質問、よく受けると思います。で、薬の添付文書を読んでみると、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」という文章にぶつかり、毎回悩む・・・“外来あるある”ですね(^^;) なぜこのような表現がされているかというと、一般的な医薬品の臨床試験では、倫理的な側面から妊婦を除外しているため大規模臨床試験が組めず、疫学調査や症例報告など限られた情報をもとに判断されているからです。要するに、医師の『裁量』に任されている訳です。

 

 

『裁量』という意味、「自分の考えで問題を判断し処理すること」ですので、我々一人ひとりも、「自分の考え」を持っている必要があります。『UCSFに学ぶできる内科医への近道改訂3版』の、『妊娠と薬剤』のコラムの冒頭に、妊娠可能年齢の女性患者さんに対する心構えが載っていますので、以下に抜粋して記載しておきます。

 

 

 薬剤の使用責任は100%処方医にある。妊娠の可能性については常に心しておく必要がある。以下の点に注意を払い妊娠の有無について確認を行う。

●年齢にとらわれず、妊娠可能年齢の女性を診たら妊娠を疑う(12歳未満や45歳以上の妊娠もある)

●母親同伴の娘の言葉は信用してはならない(1人だけにして問診を行う)

●性体験(性交)の有無を必ず聞く(問診票には記載しないこともある)⇒診療録に記載する

妊娠の可能性を否定されても素直に信じてはいけない(妊娠反応は我々の免罪符)

 

 

最初の一文なんて、結構重いですよね。問診のテクニックで、服薬することに対して無理やり「患者さんとの同意のもと」みたいに持って行っちゃっている気が・・・(-_-;)

 

 

実際の薬剤の影響云々の話の前に、一般的な知識は押さえておきましょう。出生時の先天異常の自然発生率は 2~3%自然流産の頻度は約 15%といわれています。そして、現在一般的に処方されている催奇形性作用のある薬の多くは奇形の発生率を1~3%上昇させる程度。つまり、異常があったからといってすぐに薬の影響と判断することはできないんです。ただ、仮に奇形を持った赤ちゃんが生まれてきた場合、「確率的には薬のせいではない」なんて呑気な考えになんて、なれる訳ありませんよね。

 

 

では、実際の妊娠中の薬の影響について。薬剤の影響に関しては、①All or noneの時期、②催奇形性が問題となる時期、③胎児毒性が問題となる時期の3つに分けて考えるのだそうです。

 

表1

妊娠の経過と薬剤の影響(実践『妊婦と薬』第2版. 2010より)

 

 

① All or noneの時期(妊娠前から妊娠3週6日頃まで)

女性のみでなく、男性も関係してくる時期です。薬剤の影響を受けた精子や卵子が受精能力を失ったり、受精したとしても着床しなかったりして、流産に至る時期です。どのような薬剤が影響を与えやすいかはあまり分かっていません。

 

② 催奇形性が問題となる時期((妊娠4週から15週末まで)

 

最も問題となるのがこの時期。特に4週から7週末までの時期は胎児の中枢神経系、心臓、眼、耳、唇、消化器、四肢などの重要臓器が発生・分化する時期で、薬剤に限らず種々の催奇形因子に対して感受性の高い時期です。妊娠8週から15 週末までは、重要な器官形成は終わっていますが、歯・口蓋、外陰部などの形成は続いていますので、この時期も催奇形性が高い時期と位置付けておく必要があります。催奇形性の高い薬剤として確立しており、かつ処方頻度の比較的高いクスリは以下の通りです。

表2

 

ちなみに、ビタミンAは25,000IU/日以上での催奇形性の報告がありますが、健康な妊婦の1日必要量として推奨されている8,000IU/日では全く安全である。逆に摂取不足は新生児異常や奇形を招きますので、むしろ積極的に摂取してもらいましょう。

 

③ 胎児毒性が問題となる時期((妊娠16週から分娩まで)

 

 

胎児毒性とは、摂取した薬が胎盤を通って胎児に移行し、胎児の体内で作用することによって生じる有害作用です。胎児の機能的発育過程における発育抑制、機能障害、子宮内胎児死亡などを引き起こす可能性があります。

表3

 

我々の投与する薬とは離れますが、この時期のアルコール摂取による知能障害(胎児性アルコール症候群)や、喫煙による子宮内胎児発育不全も知識として重要です。また、脂溶性ビタミン、ステロイドホルモン、バルビツレート、ジアゼパム、ペニシリン、セフェム、ワルファリン、インドメタシン、SSRI、サルファ剤などは、催奇形性の報告は高くないものの、胎盤移行性が高いことが証明されていることも覚えておきましょう。

 

 

最後に代替薬についても触れておきます。ただ、「使用頻度が高く、大丈夫だったよという経験値が高いクスリ」というだけで、結局のところ「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」というところに行きついてしまいます(汗)特に、催奇形因子に対する感受性の高い妊娠4週から7週末は投薬を極力控える方が無難です

 

  • 抗菌薬:ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系
  • 抗ウイルス薬:ゾビラックス、バルトレックス、タミフル、リレンザ(アマンタジンは禁忌)
  • 解熱鎮痛剤:アセトアミノフェン、アスピリン(NSAIDSは血管への感受性が低い初期のみ/作用機序の違うソランタールのみ有益性投与)
  • 片頭痛治療薬:トリプタン系(エルゴタミン系は×)
  • 鎮咳薬・去痰薬:アスべリン、ムコダイン
  • 気管支拡張薬:テオドール、シングレア(可能な限り外用で)
  • 消化器疾患治療薬:PPI、H2ブロッカー、胃粘膜保護剤、プリンペラン(ナウゼリンは×)、ブスコパン、重質酸化マグネシウム(大腸刺激性薬剤は×)
  • 副腎皮質ステロイド:プレドニン(胎盤通過性が比較的低い)
  • 抗甲状腺薬:チウラジール(適切な甲状腺機能維持が優先される報告あり)

 

 

なお、抗てんかん薬に関しては、残念ながら代替薬はありません。てんかん発作による胎児の低酸素や流産や早産のリスクを高めるとも言われており、妊娠中でも服用せざるを得ません。服用による胎児奇形の確率は2~3倍と言われており、「催奇形性の可能性が10%程度であることを伝えた上での投与」という、苦しい選択を迫られてしまいます。

 

 

このテーマ、知識だけでも倫理観だけでもダメな、非常に難しい問題です。恐らく正解はないと思います。だからこそ、正確な知識を持っておくことが我々医療従事者にとって大切な使命だと思います。

 

Yellow and red pills spilling from bottles and blisters in front of pregnant woman, shallow DOF

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