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何となく検査――今回のお題は“β-D-グルカン”

このブログでは、時々「何とな~く測りがちだけど、実際に陽性になったら解釈に困る💦」みたいな検査に触れてきました。今回は、その最たるもの『(1→3)‐β‐D‐グルカン(以下β‐Dグルカン)』についてまとめてみます(以前も取り上げているのですが、新しい検査法が出た直後でしたので、その後の臨床データを踏まえて改めてまとめましたm(_ _)m)。

 

 

真菌感染症の診断に当たり前のように登場するβ-D-グルカンですが、実はこの検査が臨床現場に登場したのは1995年、たかだか20年前のことです。日本で開発された検査なのですが、偽陽性も多く見られ、欧米ではあまり評価されていなかったようです。しかし検査精度の改善から、2004年に米国のFDAがβ-D-グルカン測定キットを承認、2008年に改訂された米国感染症学会のアスペルギルス症治療ガイドラインやEORTC/MSGの診断ガイドラインにもβ-D-グルカン測定が紹介され、徐々に世界的に認知された検査になってきています。この流れを受けて、「熱源が分からなかったら、とりあえずβ-D-グルカン」って思考パターンになってきてしまったんじゃないかと思います。何といっても楽ですからねぇ~。でも、本当にそれでいいのでしょうか?

 

 

そもそも、何故こういった抗原検査が開発されたか?それは、とにかく『真菌感染症の診断は難しいから』です。まず、カンジダを始めとした真菌は皮膚の常在菌に近い存在ですので、血液培養以外から検出された際の病原性のある or なしの判断が難しいことが挙げられます。また、その血液培養に関しても、1960年代の報告にはなりますが、剖検にて最終的に侵襲性カンジダ症と診断されたうちおよそ半数は、死亡2週間以内に行われた血液培養が陰性だった、とのことです。一般的な細菌に比べて培養結果の出るのが遅いのも難点。治療の遅れがそのまま予後の悪化に繋がりますので、真菌血症は「検査結果がどうであれ、疑わしければさっさと治療開始(゚Д゚)ノ!」が大原則になります。それを踏まえてβ-D-グルカンを考える必要があります。

 

 

「何とな~く検査はダメ!」というからには、どういう症例で疑うか、ということ大切になってきますよね。これ、患者様の背景によって変わってきます。2014年に深在性真菌症のガイドライン作成委員会より発刊された『深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014』では、血液疾患、呼吸器疾患、外科系・救急・集中治療、臓器移植等々、アプローチを細かく分類していますが、ここでは以前のblog(血培からカンジダ!・・・で、どうする?)でも記載した、ざっくりしたリスクファクターを挙げておきます。

 

〈深在性真菌症のリスクファクター〉

  • 重症患者(特にICU在室7日以上)
  • APACHE Ⅱ score≧20
  • 好中球減少、血液悪性腫瘍
  • 中心静脈カテーテル留置
  • 広域スペクトラム抗菌薬使用歴
  • ステロイド使用者
  • H2-ブロッカー長期使用
  • 腎不全・血液透析・持続血液濾過透析
  • 急性膵炎
  • 外傷、および広範囲熱傷
  • 消化管穿孔・腹部手術・術後消化管縫合不全
  • 移植レシピエント
  • 過去のカンジダ定着・複数部位からの検出

 

こういった患者様に対して真菌感染症を疑い、β-D-グルカンを提出することは、的外れではない訳です。

 

 

β-D-グルカンは主な真菌に共通する細胞壁構成多糖成分の一つなので、特定の菌種で特異的に上昇することなく、まさに『真菌のスクリーング検査』です。特にカンジダ属やアスペルギルス属の細胞壁に豊富に含まれていますので、これらの真菌による侵襲性の感染症で上昇しやすいことは、臨床的に重要です。逆に考えれば、クリプトコッカス属や接合菌症では全くといっていいほど参考になりません。また、食道カンジダ症や肺アスペルギローマなど非侵襲性病変の場合には一般に上昇がみられません。繰り返しになりますが、『β-D-グルカンの上昇なし』→『真菌感染症なし』は、全くの的外れな考え方なわけです。

 

 

偽陽性についても触れておきます。下に、主な偽陽性の原因をまとめましたが、まだ原因が分からない偽陽性報告も多い様です。

 

〈β-D-グルカン測定における偽陽性の主な原因〉

  • セルロース系透析膜による血液透析
  • レンチナン、シゾフィランなどのβ-D-グルカン含有製剤
  • アルブミン製剤、グロブリン製剤
  • 高ガンマグロブリン検体での非特異的反応
  • 高度溶血
  • Alcaligenes fecalisによる敗血症
  • ガーゼの使用
  • 測定中の振動(ワコー法のみ)
  • 環境中のβ-D-グルカンによる汚染

 

これらを踏まえて感度・特異度。多くのスタディは小規模なメタ解析で、かつ領域ごとに分かれてしまっています。以下の表は日本で行われた領域に拘らないスタディの結果で、一般臨床に当てはめやすいと思います。ファンジデル法は、主に欧米で使用されている検査方法ですので、あくまで比較としてご覧下さい。表のMK法は、現行のMKⅡ法の前のバージョンにはなりますが、原料となる中国産カブトガニの入手困難により他の種類のカブトガニを利用しているだけで、基本的な検査特性は変わらないようです。

 

 

べーた

Yoshida K, Shoji H, Takuma T, Niki Y: Clinical viability of Fungitell, a new (1→3)-β-D glucan measurement kit, for diagnosis of invasive fungal infection, and comparison with other kits available in Japan. J Infect Chemothre 17, 473-477. 2011.

 

 

特異度が高めなので一見すると確定診断に使えそうですが、陽性的中率の心もとなさ・・・。結局、検査前確率に大きく左右される訳です。『検査前確率が低い時に陰性なら、かなり強く侵襲性のカンジダ・アスペルギルスの感染症は否定できる』といった所でしょうか。・・・とすると、『検査前確率の低い時に、無暗にβ-D-グルカンを測るな!』という、根底の理論が崩れていく(T_T) 結局、本邦で使用頻度の高い検査でいえば『わずかな治療の遅れが予後に直結しやすい血液内科領域や臓器移植領域では、比較的感度が優れているMKⅡ法が陽性ならば積極的に治療、その他の比較的免疫状態が保たれている領域(呼吸器系、外科系など)の場合は、β-D-グ ルカン値の解釈はより慎重に』といった当たり障りのない結論になります。

 

 

患者様はもちろん、犠牲になっているカブトガニの為にも(?)「何とな~く」にはご注意をm(_ _)m

 

図1

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