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意外に未開の地『憩室』

憩室の扱いって結構厄介ですよね。見つかったからって何かしなきゃいけないかと言えばそうでもないですし、かと言って「気にしなくていいですよ」とも言い切れず・・・実際、エビデンスの少ない病態なんです。昨年、アメリカの消化器学会が久しぶりに憩室炎のガイドラインを改定しましたので、その周辺の知識をまとめてみます。

 

 

まずは一般的な知識から。憩室の原因は大腸内圧の上昇です。よくいう食生活の欧米化・・・この言葉って、さすがに使い古された感じしますね(^^;) まあ、肉食が増加して食物繊維が減少したことにより便秘や攣縮が起こり腸管内圧上昇、加齢、人種、遺伝、体質などにより脆弱になった大腸壁の一部から粘膜が飛び出し憩室ができるわけです。以前NEJMに載っていた憩室のレビューでは、40歳以下での有病率は10%ですが、80歳以上になると50~70%まで増加、男女差なしと報告していました。また憩室炎を発症するのは80%以上が50歳以上とのことです(NEJM 2007;357:2057-66.)。欧米でのスタディなのでこの数字をこのまま受け取ることはできませんが、現在の日本ではこの半分程度の頻度ではないかと推定されています。1970年頃の本邦の報告では、都市部(東京都)は地方(弘前市)に比べて約8倍の有病率だったとのことですが、恐らくこの差も随分なくなっているのではと推測します。

 

 

欧米では95%が左側大腸に発生しますが、本邦では右側大腸が優位で、全体の73%を占めます(両側型13%、左側型14%)。40代までは大部分が右側型で、それ以降では左側憩室の発生が増加し、70才以上では右側型45%、両側型30%、左側型35%と、発生場所の頻度はあまり変わらなくなっていきます。また、本邦の憩室は欧米に比べて個数が少ないものが多く、全体では単発32%、2-9個47%、10個以上21%で、左側では加齢による憩室個数の増加傾向がみられましたが、右側ではこの傾向はなかったそうです(日本大腸校門病学会誌 Vol.44 No.5 P579, 1991.)。

 

 

きりがないので疫学はこのへんで。

 

 

今年の1月にAnnals of Internal Medicineでは、憩室を持っている患者の4~13%に憩室炎を発症すると報告しています。憩室の保有率の高さを考えると、かなりのcommon diseaseです。それにも拘らず、憩室炎に対するエビデンスレベルの高い報告はあまりないようです。それを踏まえてあーだこーだ考えてみます(^^;)

 

 

最も問題になるのは「外来治療か入院治療か」ではないでしょうか。結論から言うと、最近の世界のトレンドは『単純型の憩室炎は、外来治療のほうが入院治療に比べて安全かつ安価である』ということです(Ann Surg 2013;00:1-7.)。単純型の定義は、前出のガイドラインで「CTで膿瘍や穿孔がないもの、重症感染や敗血症合併がないもの、免疫抑制剤使用がないもの」と定義しています。また、自力で水分摂取ができる、内服指示が順守できる、症状が安定しているといったポイントも大切です。

 

 

治療に関しては2014年のJAMAから(JAMA 2014; 311: 287-97.)。単純性(Hinchey分類Stage1:微小穿孔+膿瘍が傍結腸・腸間膜に限局)の治療は絶食+抗菌薬7~10日、抗菌薬は内服でも静注でも治療効果は変わらないとのことです。ただし、抗菌薬なしでも合併症の発症率に差がないという報告があったり(Br J Surg. 2012 Apr; 99(4): 532-9.)、いつまで絶食すればいいのかに関してのコンセンサスはなかったりと、なかなかアバウトな感じです(-_-;) 何より、「絶食だけど外来で」というのが日本で通用するのかちょっと微妙・・・。複雑性の場合は、Hinchey分類Stage2(微小穿孔+膿瘍増大)では抗菌薬の静注で、Hinchey分類Stage3以上(腹膜炎あり)の場合は手術を推奨しています。ただ、こちらも「敗血症がなければ必ずしも手術しなくてよい」といった但し書きがあったりしてやっぱり微妙。その他、潰瘍性大腸炎などに使う抗炎症薬のメサラジン(ペンタサなど)、整腸剤、アスピリン・NSAIDsなどもエビデンスはほとんどなく、ほぼ経験的な治療になっています。

 

 

最後に抗菌薬の選択。原因菌は好気性菌のE.coli、Streptococcus spp.に加え、Bacteroides spp.、Peptostreptococcus、Clostridium、Fusobacterium spp.などの嫌気性菌です。日本ではABPC/SBT(ユナシンS)やCLDM(ダラシンS)などがよく使われますが、IDSAの腹腔内感染症ガイドラインでは前者はE.coliへの、後者はBacteroides spp.への耐性化の懸念から、あまり使用を推奨されていません。同ガイドラインでは以下のような抗菌薬を推奨しています。

 

  <内服の場合>

・メトロニダゾール(+シプロキサン、もしくはバクタ)

・オーグメンチン

(ただし、初回投与は静注が望ましい)

 

<静注の場合>

・メトロニダゾール(+シプロキサン、もしくは第三世代セフェム)

・ゾシン、もしくはメロペン(重症、初期治療に反応なし、易感染状態)

☆投与期間はいずれも7~10日間

 

 

簡単に言えば、「大腸菌に代表される腸内細菌と嫌気性菌(Bacteroises)を念頭に置き、重症度に応じて選択する」といったところです。ただ、メトロニダゾールの静注のない日本では、結局ABPC/SBTやCMZ(ゾシン)になっちゃうんですよね。

 

 

ちなみに、憩室炎は全体の13.3%が再発し、特に手術せずに様子をみた場合の再発率が高いようです。・・・結局opeかな(*_*)

 

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