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脳からの警報!『慢性疲労症候群』

以前に“難病”“奇病”と言われていたものが、現在では当たり前になっていることがあります。例えば、以前このブログでも取り上げた『睡眠時無呼吸症候群』。今でこそ一般の方でも知っている病気ですが、病名が付いたのはちょうど40年前、日本で知れ渡ったのはせいぜい25年程前で、当時症状のある方は、「単なる寝不足」程度に扱われていたようです。そういった意味では、『線維筋痛症』や『髄液漏出症候群』なんかも急上昇(?)な疾患です。

 

 

さて、こんな『未知の病気だったランキング』の中で、着々と地位を築いているのが『慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome; CFS)』です。この病名って、結構弊害ありそうな気がしませんか?「私、慢性疲労症候群なんです」→「俺だって慢性的に疲労してるよ!」って突っ込みが入りそうな・・・。とりあえず、医療者である我々は誤解のないようにしましょう。今回は、ちょっとアカデミックに攻めてみます(-ω-)/(笑)

 

 

まず『疲労』について。疲労とは、簡単に言ってしまえば『脳からのアラーム』です。三大生体アラームとして『痛み』『発熱』『疲労』があり、『痛み』の原因物質/伝達物質としてブラジキニン、プロスタグランジン、ノシセプチン、ニューロキニンが知られており、そのリセット因子としてセロトニンやノシスタチンがあります。『発熱』も同様に原因物質/伝達物質が細菌内毒素、インターロイキン、プロスタグランジン、リセット因子がα-MSHなど。では『疲労』はというと、リセット因子として抗酸化物質は知られていますし、原因物質/伝達物質としても酸素ラジカル(抗酸化力)がほぼ確定しています(その他、サイトカインやアミノ酸低下などです)。で、慢性の疲労とは『酸化ストレスと抗酸化力のバランスの破綻』が原因なわけです。

 

                 急性期     亜急性期    慢性期

酸化ストレス vs 抗酸化力     ↑↓         ↑→                ↑↓

 

これが、CFSの病態の一つです。

 

 

では、CFSの診断基準をみてみましょう。一般的なのは以下のものです。

 

厚生省CFS診断基準試案(平成73月、一部改変)

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なんとな~く感染症っぽいなって思いませんか?実はこれ、1984年に米国CDCが行った研究が元になっているからなんです。1980年代前半の米国はHIVで大騒ぎしていた時代。CFSに関しては同時期に行われたEBV関連の研究により出てきた概念なんです(結局、EBVとの関連はないと判断されています)。ちなみに、上記の診断基準を満たさない場合も『特発性慢性疲労』の病名がつくことがあり、しっかり保険適応病名です。

 

 

感染症じゃないとすると、どうして熱が出るのか?これも、最近は少しずつ分かってきています。CFSの患者さんに特殊なPETを撮影すると、帯状回、偏桃体、海馬、橋、中脳、視床など様々な部位で、健常者に比べて神経炎症が増加しているようです。特に、視床の髄板内核という、覚醒と関連する部位の炎症が目立つと、大阪市立大学疲労クリニカルセンターからの報告があります。この部位は全身の免疫系や内分泌代謝系にも影響を与える場所なので、様々な症状を呈してしまう・・・ざっくり言えば、パーキンソン病や多発性硬化症と似たような病態なんです。これが二つ目の病態。何か「ガッテン!」ってなりませんか(*^^*)!?実際、ヨーロッパではこの炎症の側面を強調した『筋痛性脳脊髄炎(ME; Myalgic Encephalomyelitis)』と呼ばれています。

 

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このように病態が明らかになっていくことを受けて、2015年2月10日に米国医学研究所から新たな病名として『全身性労作不耐症:SEID(Systemic Exertion Intolerance disease)』が提案されました。これは、病名の中に「労作不耐」という中核症状を明確に入れ、かつ「症候群」ではなく、「病気」であるということを明示するために“disease”をつけるといった意味合いです。診断基準は以下の通り。

 

米国医学研究所(IOM)SEID診断基準(仮)

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この診断基準のより発展的なところは、併存疾患の存在もOKとしているところです。確かに、こんな疾患との鑑別も悩みどころですからね。

 

併存疾患

線維筋痛症/筋筋膜痛症候群/顎関節症/過敏性腸症候群/間質性膀胱炎/過活動膀胱/レイノー現象/僧帽弁逸脱症/うつ病/偏頭痛/アレルギー/化学物質過敏症/乾燥症候群/無呼吸症候群/反応性抑うつ、不安

 

 

診断には前述のPETが使えればいいんですが、まだ研究段階。酸化ストレスのチェック、疲労時計(自律神経機能検査)、腕時計型睡眠活動度計などを利用して、相対的に診断します。治療は、早期なら抗うつ薬が効くこともありますが、その他(睡眠療法、漢方薬、抗酸化作用のあるサプリメント、段階的運動療法、認知行動療法など)の治療法も含めてまだほとんどエビデンスはありません。Lamotrigine(ラミクタールR)の効果があるといった報告もありますが、こちらもまだまだ一般的ではありません。神経細胞の炎症なら、免疫グロブリンが効くんじゃって個人的には思いますが・・・どうなんでしょう?

 

 

とにかく、今回は「慢性疲労症候群は立派な病気だ」ってことだけでも覚えてもらえれば十分です。我々が知らないことで、病気で苦しんでいる人をさらに苦しめないために。

 

 

よく考えたら、どんな病気も最初は名前がなかったんですよね。ってことは、今病名が付かずに「メンタルですね」なんて言っている方に、数年後病名が付いて「あの時はヤブ医者に見落とされちゃってさぁ~」なんて言われているかも・・・怖いですね(*_*; 日々知識のアップデートです。

 

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