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“make a successful landing”

最近、病棟にも救急外来にもご高齢の患者様が溢れています。例年のことではありますが、今年は特に多いような気がします。実際に当院に救急搬送されてくる患者様の数は例年の2割増で、その6〜7割は65歳以上の高齢者です。全国的にも、ここ10年で65歳以上の救急搬送者数は2倍以上に膨れ上がっていると言われています。好む好まざるに関わらず、高齢者医療は臨床に携わる医師にとって避けては通れない道なのです。しかし、臨床の場にいると時々、「お年寄りは苦手だからちょっと・・・」といった発言を耳にします。確かにその気持ちは分からなくもないです。高齢者は単に「成人の延長」ではなく、診療を行うにあたってはその特有の身体的特徴や独特の症状・徴候を十分に理解しておく必要があります。しかし、そういった“尤もらしい”理由以外に、「歳だからしょうがない」「どうせ治してもまた繰り返す」「原疾患が治った後も入院が長引きそう」といった労力の割に報われないという“成人にはない煩わしさ”も大きな理由だと思います。

 

以前新興出版社から出版されているModern Physicianという雑誌で高齢者の救急医療についての特集を編集させていただきました。そこで書かせていただいた文章を引用します。

 

 

『今回副題として付けさせていただいた“make a successful landing”とは、読んで字の如く「無事に着陸させる」という意味です。医療における「無事な着陸」とは、当然「患者の治癒」です。表現としては語弊があるかもしれませんが、そのような観点からすると、高齢者の疾病は「非常に不安定な状況を強いられた飛行」と言えるでしょう。当然、その飛行機の操縦には高い技術と豊富な経験が必要となってきます。操縦方法が書いてあるマニュアル本を読み込んだところで、不測の事態を乗り越えることは出来ません。高齢者医療も同様、教科書に載っている“通り一辺倒の知識”だけで乗り越えられるものではありません。重篤な状態でも教科書通りの所見が出るとは限りませんし、教科書に載っている治療を行っても期待される効果が得られないかもしれません。そして、高齢者人口の急激な増加により、そういった「不安定な飛行」を強いられる機会は益々増えているのは周知の事実です。しかし、実際の医療現場では、多くの研修医・若手医師が、マニュアル本を片手に「不安定な飛行」に挑まざるを得ない現実があります。

 

また、高齢者医療にはもうひとつの着陸があります。それは『臨終』という着陸です。もともと医療は『臨終』と背中合わせの状態で成り立っており、高齢者医療の現場ではそれが顕著です。特に、人間関係が構築されにくい初対面の患者が搬送されてくる救急の現場では、『臨終』が日々当たり前のように繰り返され、蘇生の処置から死亡宣告までが半ばルーチンに行われています。しかし、その患者、およびその家族にとって『臨終』は人生におけるもっとも大きなイベントの一つです。特に、現代よりも遥かに苦難の時代を生き、現在の平和の礎を築いてこられた高齢者は、最大限の敬意が払われて然るべきです。また、その後に遺される家族が『臨終』を受け入れるだけの心遣いも必要です。もちろん、高齢者特有の『症候』や『疾患』へのアプローチは非常に重要ですが、それと同程度、あるいはそれ以上に『臨終』に真剣に向き合う必要があるでしょう。誤解を恐れずに敢えて言えば「いかに美しく死なすか(make a successful landing)」という、本来医療が持っているアートの部分を強調すべき時代にきているのではないでしょうか。』

 

EBMが一般化したことは素晴らしいと思いますが、その反面「これがこの症例における正しい対応」といった狭い了見で医療が語られることが増えてきました。個人的に、医療には『正解』なんてないと思いますし、我々が目指す場所は『医療的な正解』ではなく『患者様や家族にとっての最適』なんだと思います

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