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自律神経失調症?~その1~

今日も大勢の患者さんが訪れている救急外来。38歳女性が3週間前からの動悸と心窩部不快感を主訴に受診した。発作は1日に数回だが、多いときは10回以上。1回の発作時間は長くても30秒ぐらいだという。脈拍92回/分、血圧110/62mmHg。身体所見上、特記すべき所見はない。「どうも最近疲れやすいんですよ。頭痛はあるし、肩凝りも酷いし、夜もあんまり寝られないし。生理も最近何だか不規則なんです。まさかこの歳で更年期障害ってことはないですよねぇ?」その後も取り留めのない訴えが続いた。待合室にはまだまだ大勢の患者さんが・・・。

 

このような患者様に『自律神経失調症』という病名をつけてご帰宅いただくことは、日常の外来で結構多いんじゃないでしょうか。そもそも『自律神経失調症』という病名は、正式な名称ではありません。無敵のup to dateで『autonomic dystonia』や『autonomic imbalance』の名称で検索をかけても引っかかってくれません。それなのに誰もがなんとなく知っていて、その診断名が告げられれば「はぁ、やっぱりねぇ~」・・・不思議な病気です。この不思議な病気について、何回かに分けて考えてみましょう。今回は『自律神経失調症?』の定義付けから――。

 

 

1909年、Eppinger、Hessは薬理試験によりVagotonieおよびSympathikotonieの概念を提唱しました。これに対し1928年、Ber gmannは自律神経不安定症の概念を提唱し、これは交感・副交感神経が共に緊張しやすいもの、あるいは不安定なものが存在し、各臓器の緊張状態もそれぞれ異なっていることを指摘しています。日本では『脚気様症候群』、『自律神経症候群』という呼称を経て1965年、阿部らにより『不定愁訴症候群』という概念が提唱されています。しかし、具体的に『自律神経失調症』という病気があるかというと今なお多くの議論があり、医学雑誌の特集などでも『いわゆる自律神経失調症』などという表現でお茶を濁しているケースがほとんどです。

 

日常診療における『いわゆる自律神経失調症』は、「自律神経の明確な病理組織学的障害が区別され、心理的・社会的要因により様々な症状を呈した自律神経の機能異常の総称」といった意味合いで使われることが多いように思います。各種神経症、うつ病、心身症などに伴う自律神経失調症状を包括する概念と考えれば非常に便利な病名ではあります。しかし、正式な病名ではないので、当然カルテの病名欄に記載することは出来ません。国際疾病分類(ICD-10)の分類の中から探すと、身体表現性障害の下位項目にあたる『身体表現性自律神経機能不全』が最も近い概念と言えるでしょう(☆1)。また、精神疾患としてはDSMⅣ-TR分類に示されている『身体表現性障害』の中の『身体化障害(somatization disorder)』として扱われることが多いです(☆2)。Harrison’s Principles Medicineによると『身体表現性障害』は内科領域に5%以上存在すること、診断基準としてDSM-Ⅳを用いること、そして、4つの疼痛症状(pain)、痛みを除く2つの胃腸症状(gastrointestinal)、1つの性的または生殖器症状(sexualまたはreproductive)、1つのヒステリーのような偽神経学的症状(pseudo-neurologic)の8つの症状を満たさないと診断できないことなどが書いてあります(尚、今後このブログ上では、便宜上『自律神経失調症』という表現を使わせていただきます)。

 

☆1 身体表現性自律神経機能不全(somatoform autonomic dysfunction)の定義(ICD-10,F45.3 抜粋)

A. 次の系統または器官のうち1つまたはそれ以上に、患者が身体疾患とみなす自律神経性の刺激により症状があること。
① 臓循環器系、②上部消化管(食道・胃)、③下部消化管、④呼吸器系、⑤泌尿生殖器系
B. .次の自律神経症状のうち、2項目以上があること。
① 動悸、②発汗、③口渇、④紅潮、⑤心窩部の不快感・胃部のドキドキする感じ、胃をかきまわされる感じ
C. 次の症状のうち、1項目以上あること。
① 胸痛、前胸部および周囲の不快感、②呼吸困難、過呼吸、③軽度労作時の過度の疲労、④空気嚥下症、しゃっくり、胸部・心窩部の灼熱感、⑤腸蠕動亢進の自覚、⑥頻尿、排尿困難、⑦むくんでいる、膨らんでいる、重苦しい感じ
D. 対象者がこだわっている系統や器官の構造や機能に障害があるという証拠を欠くこと。
E. 主要な除外基準:恐怖症性障害、またはパニック障害の存在下においてだけにおいてみられるものではないこと。

 

☆2 身体表現性障害(somatoform disorders)の定義(DSM-Ⅳ,300 抜粋)

1. 身体化障害(somatization disorder)
30歳以前に始まる多彩な身体愁訴(4つの疼痛症状、2つの胃腸症状、1つの性的症状、1との偽神経学的症状の各々を経過中に満たす)。それぞれの症状は既知の身体疾患によって完全には説明できず、また身体疾患がある場合でも、予想されるよりはるかに障害が強い。
2. 転換性障害(conversion disorder)
随意運動機能や感覚機能を損なう症状が多い。身体化障害と比べ、症状は1つの神経症状(麻痺など)に集中していることが多い。症状の始まりや悪化・持続に心理的要因(葛藤、ストレス)が関連している。
3. 疼痛性障害(pain disorder)
身体所見に比べて過度な痛みの訴えがあり、その痛みのため社会的・職業的に機能障害をきたしている。疼痛の原因は器質的であっても心因性であってもよい。症状の始まりや悪化・持続に心理的要因(葛藤、ストレス)が関連している。
4. 心気症(hypochondriasis)
身体症状に対する誤った解釈に基づき、自分が重篤な病気にかかる、かかっているという観念にとらわれている。そのとらわれは強く、適切な医学的評価や保証にも関わらず持続している。

 

・・・書けば書くほど訳がわからなくなりますよね(^^ゞ 結局、そういうことなんです。偉い先生方が一生懸命定義付けしたものと、我々が救急外来で“とりあえず”付けさせていただく病名と、あまり大差がないんです。じゃあ、適当に告げていいかというと「ちょっと待った!」です。次回は「自律神経失調症?」と思った時の医療面接について解説します。

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