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『高血圧性脳症』・・・って何?

「血圧が高くなって頭が痛いんです・・・」なんて訴え、救急外来でよく耳にするんじゃないでしょうか?この病態に『高血圧性脳症』という病名がついていたのですが、少し違和感を感じたので調べてみました。

脳の血管には血管抵抗を増大・減少させることにより脳血流を一定に保とうとする働き(自動調節能)がありますが、この調節の範囲外の血圧上昇により脳血流が増加し、脳の毛細血管から血管外に血漿成分が染み出ることにより頭蓋内圧が亢進します。この状態を『高血圧性脳症』と言い、頭痛、視力障害、痙攣、意識障害などを起こします。理屈としてはもっともな感じもしますが、『高血圧治療ガイドライン』にも『症例数が少なく、多数例におけるRCTは行われていない』と記載されています。その割には救急外来で繁用されている印象が・・・。

これは画像診断が発達していなかった過去の概念を引きずっているからだと思います。微細な脳血管障害やCTではとらえにくい代謝性脳症、脳炎初期、海綿状脈洞血栓症など、MRIを利用しないとなかなか診断できないものが、以前の報告に多数含まれていたようです。実際、米国のアイオワ州で1979年から1994年に行われた外来患者に対する大規模試験で、15年間のうち高血圧性脳症の患者はわずか12例だったと報告されています(Dinsdale HB & Mohr HP. Hypertensive encephalopathy. In:Barnett HMJ, Mohr JP, Stein BM, Yatsu FM,eds. Stroke. Pathophysiology, Diagnosis and Management.3rd ed. New York: Churchill Livingstone, 1998:869-874. )。もちろん時代的にすべての症例にMRIが施行されていたとは考えられませんので、実際にはもっと少ないと思います。そう考えると、少なくともMRIがすぐに施行できないプライマリ・ケアの現場で『高血圧性脳症』を考えるのは、“発熱を診たら全例SLEを考える”くらい的外れなことなのかもしれません。むしろ大切なのは、『除外すべき重篤な多数の疾患の否定』であることは明らかでしょう。

さて、だからといって血圧が高くて意識が悪い患者様の降圧をしなくていいかと言うと話が違います。前述の通り大規模なRCTは存在しませんが、『高血圧治療ガイドライン』ではCa拮抗薬(ニカルジピン)による速やかな降圧が推奨されています(グレードC1)。どの程度の血圧をどの程度下げるかについてもやはり明確なデータはなく、高血圧緊急症に用いられる収縮期血圧180mmHg以上、拡張期血圧110mmHg以上という定義が最も一般的だと思います(Chobanian AV, Bakris GL, Black HR, Cushman WC, Green LA, Izzo JL Jr, et al. The Seventh Report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure:the JNC 7 report. JAMA 2003;289:2560-2572)。ただ、「じゃあ、『高血圧性脳症』と『高血圧性緊急症』を分ける意味ないじゃん!」ってなりますよね。――その通りです。実際は分ける意味ありません。結論からすれば「180/110mmHg以上の血圧上昇があり、意識障害、網膜出血、心不全兆候、タンパク尿などの臓器障害があればCa拮抗薬を使ってさっさと降圧」ということです。ただ、繰り返しになりますが、最も大切なのは『除外すべき重篤な多数の疾患の否定』ですからね。あと、「血圧が高いだけで特に臓器障害のない『高血圧“非”緊急症』は頼むから降圧しないでね」って、天下のHarrisonに書いてありますので、そちらも要注意です。

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