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自律神経失調症?〜その3〜

『自律神経失調症』の“定義”“医療面接”の話の次は、“除外診断”について書こうと思います。ER外来で求められるのは『Criticalな疾患を見落とさない』という姿勢であることに異論はないと思います。また、プライマリ・ケアの現場であればCommonな疾患やCurableな疾患を見つけることも重要です。『いわゆる自律神経失調症』に対して、管理人は以下のようなアプローチの仕方をお勧めします。

1)器質的疾患の除外

患者様からの多彩な訴えを漠然と聞いていても、訴える症状が増えれば増えるほど、貴方の頭の中には「?」が増えていくことでしょう(もしかしたら途中から聞き流しているかも・・・)。こういう時、管理人は患者様に「症状を困っている順に書いて下さい」とお願いするようにしています。そして、書いていただいた症状の上位5つ(ER外来なら3つ)のうち、以下に示す症状(およびそれに近い訴え)についての除外診断を進めていきます。

①心血管系

動悸の訴えは当然ですが、発汗過多・紅潮などもこの分類に含みます。緊張後にみられるであろう手の振るえやしびれ、あるいは迷走神経反射(突然の血圧低下・循環虚脱によるめまい・ふらつき・激しい倦怠感)なども『心血管系』に含みます。

☆除外疾患
不整脈、前失神、心不全、貧血、虚血性心疾患、肝機能異常、腎機能異常、甲状腺機能異常、薬剤(ネオフィリンなど)、頭部外傷、小脳梗塞、椎骨脳底動脈血流不全、Wallenberg症候群など。

②消化器系

ご存知の通り、消化管の運動や消化酵素の分泌調整は、主に自律神経によって行なわれています。したがって、慢性的な下痢や便秘、胃部不快・嘔気などの症状があげられます。

☆除外診断
急性胃腸炎、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、胃癌、大腸癌、心筋梗塞、糖尿病、妊娠など。

③呼吸器系

息苦しさや過呼吸、乾性咳嗽など。嚥下困難感も注意すべき症状です。

☆除外診断
心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎(SLE肺)、咳喘息、慢性肺塞栓症、逆流性食道炎、結核、食道がんなど。

④性器・泌尿生殖器系

月経困難や勃起不全、尿意頻回や排尿困難などがこれにあたります。

☆除外診断
子宮内膜症、子宮筋腫、子宮がん、卵巣癌、妊娠、尿路感染症(含むSTD)、前立腺肥大、前立腺癌など。

⑤その他の器官系

唾液腺からの分泌低下(口渇)が多くみられます。漠然とした倦怠感や、四肢のしびれを訴えることもあります。

☆除外診断
シェーグレン症候群、関節リウマチ、末梢神経炎(糖尿病、アルコール)、頚椎症、手根管症候群、肝機能異常、腎機能異常、糖尿病、膵炎、悪性腫瘍、薬剤、結核など。

鑑別疾患を挙げだしたらきりがありませんが、この時点で鑑別に挙がってない疾患は、今後の経過観察期間で再び疑うことは、極めて難しいと思います。また、これらの疾患の多くは、一般的に行われるルーチン検査(末梢血、生化学、尿検査、尿沈渣、心電図、胸部レントゲン写真)でスクリーニングできます。訴えによっては妊娠反応検査や頭部CT検査を追加するのもいいでしょう。以上の検査を行ったにも関わらず説明できない症状が2つ以上残った場合、初めて『自律神経失調症疑い』として経過観察を開始します。その際、説明のつかなかった症状を忘れずカルテに記載しておく必要があります

2)うつ病、心気症、慢性疲労症候群の除外

自律神経失調症の発症が多かれ少なかれストレスの影響下にあるため、これらの疾患の除外は、器質的疾患以上に難しいと思われます。うつ病の診断には米国精神医学会の診断基準であるDSM-Ⅳの大うつ病エピソードに含まれる9項目の基準がgold standardですが、この基準を利用することはERや一般外来では現実的ではないと思います。「体の調子が悪くて受診したのに、あの先生は私を精神病と決め付けている!」なんて反感を買うかもしれません。近年繁用されている『二項目質問法』は大うつ病に対して感度97%、特異度67%であり、ERを含む一般外来における除外診断の手段としては、極めて有用な手段と言えるでしょう(Arroll B, et al. BMJ 2003 Nov 15; 327: 1144-1146.)。

<大うつ病患者に対する二項目質問法>

①ここ1ヵ月、気分が落ち込んだり、憂鬱な気分、絶望的な気分になりましたか?

②ここ1ヵ月、何をしても楽しくないと感じますか?

心気症は、重い病気に罹っているのではないかという考え(固着観念)にとらわれて、他者にそれを訴え続ける状態です。心気症の固着観念は『妄想的確信』にまでは至らず、患者さんは半信半疑であることが、心気妄想との違いです。他者への訴えの内容が、もっぱら問題の病気に固執しているので、多彩な症状の訴えが際立っている『身体化障害』とは異なります。

また、慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CSF)も倦怠感、微熱、咽頭痛、頭痛、不眠など一元的に説明することが難しい訴えで受診することが多い病態ですが、NK細胞活性低下や自己抗体陽性率が高いことから、免疫機能との関連が指摘されていますので、ぜひ除外したい疾患群です(米国CDCやわが国の厚生労働省で診断基準が提案されているので、参照してください)。

3)「器質的疾患のサイン」という認識

M.Balintは、「多くの疾患が社会心理的ストレスによって引き起こされるが、その過程の中で器質的疾患の形成以前に機能的障害が生じる時期があり、これが自律神経失調状態である」という考え方を提唱しています。つまり、「自律神経失調症状は器質的疾患のサイン」ということです。除外診断という項目からは外れるかもしれませんが、常に「何か新しい身体的イベントが起こる可能性が高い」と認識しておく必要があると思います。

実に多種多様な疾患が鑑別対象に挙がるのが『自律神経失調症』なんです。忙しい外来現場でこれら全てを除外することは難しいと思いますし、煩わしく思う気持ちも十分に理解出来ます。でも、これを『自分の実力をアップするためのチャンス!』って思えれば・・・そんなに上手くはいかないか(^^ゞ 次回はいよいよ“治療”です。

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