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レナードの朝?

当科に入院されている80代の患者様。頭部外傷後の意識障害の遷延で、発語もなく、時々開眼される程度で2カ月程度臥床されていたのですが、ある日突然「ここは何処ですか?!」と大きな声で質問されたんです。スタッフ一同、目が点(゜o゜)。その日以来、その方のADLはどんどんアップしており、今では介助付きで歩行のリハビリをされています。いやいや、『レナードの朝』を観ている心境でした。

 

『レナードの朝』は、英国の医師オリヴァー・サックス著の医療ノンフィクションで、1990年に映画化されました。舞台は1969年ブロンクス。慢性神経病患者専門のベインブリッジ病院に赴任してきたマルコム・セイヤー(ロビン・ウイリアムス)が、嗜眠性脳炎(1920年代にウィーンを中心に流行した、痙攣が徐々に進行し、最終的に脳の機能が停止する奇病)患者のレナード・ロウ(ロバート・デ・ニーロ)に、当時パーキンソン病の革新的な薬として使われ始めていたL-DOPAを投与したところ、ベッドに寝ているはずのレナードが、食堂のテーブルでクレヨンを持ち、自分の名前を書いていて・・・生きていることの意味や、医療に携わる人の姿勢など、感じるところの多い名作です。一度観てみてください。

 

 

ま、本題は映画紹介ではなくパーキンソン病についてです。プライマリ・ケアを志す人には必須の知識ですので、是非押さえておきましょう。日本での有病率は100~150人/10万程度と言われていますが、正確な人数の把握が難しい疾患なので、実際にはこの倍以上の有病率であると言われています。中脳黒質のドーパミン神経細胞減少により、これが投射する線条体(被殻と尾状核)においてドーパミン不足と相対的なアセチルコリンの増加がおこり、機能がアンバランスとなることが原因と考えられていますが、その原因に関してはまだ不明です(最近、いくつかの病因遺伝子が報告されています)。代表的な症状は①安静時振戦(resting tremor)、②筋強剛(筋固縮) (rigidity)、③無動、寡動(akinesia,bradykinesia)、④姿勢保持反射障害(postural instability)で、①による書字困難やpill rolling sign、②による一定の抵抗が持続する鉛管様固縮(lead pipe rigidity)や抵抗が断続する歯車様固縮(cogwheel rigidity)、③による仮面様顔貌、すくみ足、小刻み歩行、前傾姿勢、小字症、小声症などが挙げられます。また、非運動性の症状として自律神経障害の便秘、垂涎、起立性低血、発汗過多、あぶら顔、排尿障害、勃起不全や、精神症状の不安、抑うつ、幻覚なども認めます。プライマリ・ケアの現場で気付くためのポイントは・・・

 

  • 薬を丸めるような動作(pill rolling sign)が早期からみられる
  • 歯車様固縮(cogwheel rigidity)は手首の関節にみられやすい
  • 純粋なパーキンソン病では麻痺やバビンスキー反射は認めない(錐体路障害はない)
  • 目印になる線があれば、普通に歩ける
  • 普段小刻みでも、目標物をまたぐような動作は可能
  • 病初期は、左右非対称に症状が出現することが多い
  • Myerson徴候は比較的特異度の高い所見だが、神経質な人でもみられる
  • CTやMRIなどの画像に異常を認めない
  • L-DOPA投与で症状が劇的に改善する

 

また、認知症との関係についても、プライマリ・ケア医はアンテナを張っておく必要があります。1998年に行われた27の研究のメタ分析1)によると、パーキンソン病の約40%に認知症が合併していたと報告しており、パーキンソン病患者の認知症発症リスクは健常人の5〜6倍になると言われています。よって、プライマリ・ケアの現場でのでパーキンソン病に気付くためのポイントに『一見認知症が進んだようにみえるが、運動障害や自律神経障害も認める』というものも挙げられると思います。

 

あと、簡便な病期診断としてHoehn-Yahr分類があります。

  • ステージ0:症状なし
  • ステージ1:一側性の障害。機能障害は軽いか無し
  • ステージ1.5:一側性の障害に体幹障害が加わる
  • ステージ2:両側の障害。バランス障害無し
  • ステージ3:姿勢反射障害がみられる。起立時や歩行の向きを変える際にバランスを崩しやすい
  • ステージ4:機能障害は高度。かろうじて介助なしで起立歩行はできるが、日常生活は大きく障害される
  • ステージ5:介助がないと、寝たきりか車いす生活

 

治療に関しては1978年に特定疾患に指定され、Hoehn-Yahr分類ステージ3以上が公費受給が可能となっています。遺伝子解析が進み色々な治療法が研究されていますが、現時点では以下の治療法が一般的です。

 

・L-dopa

ドーパミンが血液脳関門を通過しないためドーパミン脱炭酸酵素阻害薬であるカルビドパ(メネシット、ネオドバストン)あるいはベンセラジド(マドパー、ネオドパゾール)との合剤を用いる。振戦の改善は比較的マイルドだが、筋強剛や無動、寡動への反応はバツグン。長きに渡り治療の第一選択でしたが、on-off現象やwearinng-off現象、ジスキネジアなどを比較的高率に認めるため、現在はドーパミンアゴニストから投与されるようになっている。なお、薬剤性パーキンソニズムの危険があるため、悪心が出てきたときはメトクロプラミド(プリンペラン)ではなくドンペリドン(ナウゼリン)を。

 

・ドーパミンアゴニスト

麦角系のカベルゴリン(カサバール)、ベルゴリド(ベルマック)、ブロモクリプチン(バーロデル)、非麦角系のブラミベキソール(ビ・シフロール)、ロビニロール(レキップ)、タリベキソール(ドミン)がある。L-dopaに比べてon-off現象やwearinng-off現象、ジスキネジアは少なく、認知症を伴わない70歳未満の患者様には第一選択。ただし、幻視などが出やすく、認知症の患者様には投与を避ける必要あり。また、麦角系のドーパミンアゴニストは心臓弁膜症や間質性肺炎などの報告があり、慣れていない場合は非麦角系を選びましょう。

 

・MAO-B阻害薬

ドーパミンの代謝経路として働くモノアミン酸化酵素を阻害することにより、ドーパミン濃度を高める。市販されているのはセレギニン(エフピー)のみ。高用量になるとMAO-BだけでなくMAO-Aも阻害してしまうため要注意。また、ジスキネジアを発症することがあり、出現した際には投与の中止を(日本ではL-dopaとの併用のみ承認されている)。

 

・COMT阻害薬

ドーパミン代謝経路の酵素であるカテコール‐O‐メチル基転移酵素(COMT)を阻害することにより、末梢でのL-dopa分解を抑制して、中枢への移行を高める薬剤(もちろん適応はL-dopaとの併用のみ)。エンタカボン(コムタン)が承認されている。

 

・その他

インフルエンザ治療薬で、ドーパミン放出薬であるアマンタジン(シンメトレル)、抗コリン薬のトリヘキシフェジン(アーテン)、ビペリジン(アキネトン)、ノルアドレナリン作動薬であるドロキシドパ(ドブス)などがあるが、いずれも現在では補助的な薬と位置づけられています。また、最近では外科的治療も行われています。

 

・・・中途半端に手を出すと、確実に火傷しますね(~o~)でも、「だったら知らなくていいや!」じゃないですよ!初期から治療介入することで、患者様のQOLが大きく変わる疾患です。ちょっとした症状からパーキンソン病を疑い、専門医に紹介する必要があります。また、治療内容から「この薬が投与されてるってことは、この患者様の病勢はこんな感じなんだな」と分かると、貴方の診療レベルもワンランクアップすること間違いナシです(-^〇^-)

 

 

1) Cummings, JL: “Intellectual impairment in Parkinson’s disease: clinical, pathologic, and biochemical correlates”, J Geriatr Psychiatry Neurol 1: 24-36, PMID 2908099.

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