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言われなき偏見〜癲癇のアセスメント〜

先日京都市東山区の祇園で暴走者にはねられて18人の死傷者を出すという、痛ましい事故がありました。犠牲にあわれた方と遺族の方々には謹んでお悔み申し上げます。今回の事故で、癲癇患者様の運転についての是非が大きく取り上げられています。言われなき偏見が広まらなければいいのですが・・・。

 

確かに、癲癇患者様のアセスメントをする時、『自動車の運転をどうするか』ということは、常に問題になります。それ以外にも、『どこまで検査をするか』、『どういった薬を使うか』、『どういったタイミングで薬を止めるか』など、よく分からない点が多いですよね。今回は、色々なメーリングリストで回っている2008年のNEJMの総説を中心に、研修医の先生方に知っておいて欲しい知識を織り交ぜて解説したいと思います(そのままの文章が多い?!・・・まぁ、オマージュだと思って下さい(;´∀`))。

 

<一般事項>
 まずは単語を使い分けよう。Epilepsyは『癲癇』という病名、Seizureは一回ごとの『痙攣』、Convulsionは『痙攣』という症候名
 癲癇の有病率は1000人あたり6人から8人で、幼児と60歳以上に多い。原因としては、脳卒中(9.0%)、頭部外傷(9.0%)、アルコール(6.0%)、神経変性疾患(4.0%)、static encephalopathy(3.5%)、脳腫瘍(3.0%)、感染(2.0%)の順に多いが、62%は原因不明

 

<病歴・身体所見>
 癲癇の診断は一過性の意識変化、異常行動、不随運動などから示唆されるが、発作が医師により目撃されることはまずないから現病歴と限られたテストから判断するしかない。“本当に癲癇があったかどうか”が大切
 痙攣と失神の鑑別について、最も重要な症状は発作直後の見当識。発作直後の失見当識の持続は、5倍痙攣の可能性を高め、発作前の悪心、あるいは発汗は痙攣の否定に有用とされている。尿失禁や外傷の有無は、膀胱が充満している、周りの状況などによることが多く、鑑別に役立たない。
 痙攣の診断を強く示唆するとされるtongue biting(舌の噛み傷)については全身性強直性間代性痙攣の診断に対して感度24%、特異度99%。特に舌の側面のtongue bitingは100%大発作に特異的。
 鑑別対象はたくさんあるが、特に分かりにくいのは過呼吸発作(口周囲のcyanosis、手の痺れ、手足の痙直、環境の引き金)、片頭痛(特にbasilar migraine)、パニック発作(ピークまで5分、空気がない感覚)、Psychogenic seizure(当初患者は眼を閉じ無動、眼をしばたかギュと眼を閉じている)、失神TGA(transient global amnesia)、TIAなど。
 説明のつかない全身痙攣では物質乱用(substance abuse)の可能性も考える。癲癇患者では死につながりかねないドライブ、重機運転、高所作業、単独水泳を禁止する。
 コントロールできない癲癇患者の55%に抑うつ状態がある。コントロール可能な癲癇患者でもうつ状態は多い。自殺率は3倍にもなり特に診断後6ヶ月以内が多い。癲癇患者ではうつ病の有無に充分注意を払い医療面接を行う

 

<検査>
 癲癇患者の神経所見はたいてい正常。画像検査は役に立たないことも多いが、初めての痙攣発作では、脳波、CTあるいはMRIと血液検査を行うべき
 脳波が正常だからと言って癲癇を否定できない。発作間の異常脳波だからと言って癲癇と診断もできない。最初の痙攣発作で脳波異常を示すのは50%に過ぎず、これらの内、癲癇のspikeやsharp waveが確認できるのは半数1)。脳波検査を繰り返すことは意味があるが、何回繰り返せば除外できるかという明確なエビデンスなし。睡眠時の脳波は診断的価値が高い2)。
 血液検査が役に立つことはまずないが血算、肝機能、電解質は、肝機能障害や腎機能障害がある場合の抗てんかん薬の調節に重要。タンパクと結合しやすいvalproate(デパケン)やphenytoin(アレビアチン、ヒダントール)の使用にはアルブミンを測定しておく(低アルブミン血症ではunbound (active) drugが増加する)。

 

<治療>
ファーストタッチは絶対暗記!①酸素投与(痙攣が止まらない場合に低酸素脳症の恐れ)、②低血糖あればもちろん治療、③ホリゾン(diazepam)(10mg/2ml/1A)をまず筋注、ルートがあれば1/2A(5mg)静注、④止まらなければ3~5分ごとに最大20mgまで、⑤予防にアレビアチン(250mg)2A+生食100mlをゆっくり点滴
 初回発作の患者に薬物療法を行うか否かの明確な基準はない。脳波でてんかん様の波や最近の頭部外傷がなければ、2年以内に再発作を起すのは25%に過ぎないから。リスク因子があっても癲癇発作を2年以内に起すのは40%を超えない。ただし、ランダム試験では薬物療法により癲癇再発は30から60%減らせる。
抗癲癇薬には、抗菌薬と同じくbroad-spectrumとnarrow-spectrumがある。Broad-spectrumには、valproate(デパケン、バレリン)、lamotrigine, topiramate, levetiracetamがある。これは癲癇のタイプを問わず使用することができるため、ほとんどの癲癇のファーストチョイスになる。Narrow-spectrumには,carbamazepine(テグレトール)、phenytoin(アレビアチン、ヒダントール)、gabapentin(ガバペン)、tiagabine、oxcarbazepine、pregabalinなど。これらは焦点発作(focal epilepsy)に伴う部分発作か、続発性全身発作での使用に限るべきで、テグレトールやガバペンはむしろ全身発作を悪化させることすらある。(本来ならば救急外来でアレビアチンは使いたくないが、他の静注薬がないので仕方なく選択)。
 癲癇と新たに診断された患者に抗てんかん剤を使用すると半分は発作が起こらなくなる。最初の抗てんかん薬が効かない場合、第2、第3の薬も効かなくなる可能性が高いが3分の2で発作がなくなる。
抗癲癇薬は基本的に副作用だらけ。眠気、めまい、複視、小脳失調、体重増加、吐気、白血球減少、無顆粒球症、Stevens-Johnson症候群、電解質異常、肝機能異常、不整脈、催奇形性などなど。骨密度低下や確実なフォローアップが必要。
 抗癲癇薬のフォロー中の定期検査は、安定した患者では最初の6ヶ月から12ヶ月では頻回に行うが、以後は年1回で充分。脳波の定期検査は必ずしも必要がないが、薬をやめる場合には、異常脳波があると発作を起す可能性が高いので取るべきである1)。ただし、どのくらいの割合で脳波検査を繰り返すかの明確なエビデンスはない。
 抗てんかん薬をいつ中止するかはまだよくわかっていない。2年間発作がなく薬を中止した場合、再発する可能性は12から66%である。再発のリスク因子には思春期初発、部分発作、異常脳波、specific epilepsy syndromeなどがある。

 

現在、癲癇患者様に対しての運転免許は2002年6月の道路交通法改正によって、発作が起きても意識障害を伴わない又は、発作が就寝中に限る場合などで、公安委員会の検査や、医師の診断書を提出するなどの条件付で取得に道が開かれています(大型自動車免許や第二種運転免許の取得はできない)。また、2年以内に発作を起こしていない場合も、医師の裁量により自動車の運転が認められます。しかし、今回の事件をきっかけに、また多くの議論がされることになると思います。繰り返しになりますが、患者様が言われなき偏見にさらされないよう祈るばかりです

 

1) Krumholz A, Wiebe S, Gronseth G, et al. Practice Parameter: evaluating an apparent unprovoked first seizure in adults.: report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology and the American Epilepsy Society. Neurology. 2007; 69(21): 1996-2007.
2) National Collaborating Centre for Primary Care. The diagnosis and management of the epilepsies in adults and children in primary and secondary care. London: Royal Collage of General Practitioners; 2004. P1-397.

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