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“しゃっくり”だって立派な主訴です

先日管理人の外来をしゃっくりが止まらないと言って70代の患者様が受診されました。何でも2週間以上続いているとのこと。「お気の毒だなぁ~」と思いつつ、「あれ、どうアプローチするんだっけ?!」・・・これではマズイので調べてみました。まずは総論的な内容から。

 

・ しゃっくりの正式名称は『吃逆(きつぎゃく)』で、英語ではhiccup(ヒカップ)と表記します

・ かのヒポクラテスは吃逆を『病気の徴候である場合もある』と2400年も前に報告しています(さすが!)。また、古代ローマのケルススは『繰り返し長く持続する吃逆は肝炎の特徴。くしゃみをすれば止まる吃逆は生理的なもの』と、『医学論』の中で紹介。

・ しゃっくりの世界最長記録保持者はアメリカ人のチャールズ・オズボーン (1894–1991) 。彼のしゃっくりは 1922年に始まり、以後68年間、毎分40回(その後、毎分20回に低下)のペースで続き、彼が亡くなる1年前、1990年まで続きました(逆に何で止まったんだ(*_*;?)。この状態にもかかわらず、彼は通常の社会生活を営み、2度の結婚で8人の子供に恵まれ、しかも・・・有名人に!

・日本でのしゃっくりの止め方は『いきなりびっくりさせる』『息を止める』『鼻をつまんで水やご飯を丸のみ』『箸を頭上に逆さに立てる』『水を満たした茶碗に橋を十文字に渡し、各区画から順に水を飲む』など。前半は横隔膜への刺激と思われますが・・・後半に至っては意味不明(~_~;

 

では、もうちょっと医学的に突っ込んでみましょう。

 

・『横隔膜の不随意な攣縮の後、声帯が閉じることにより空気の流入が阻止され独特の音を発する現象』ですが、なぜ起こるかは分かっていません。(一説には、胎児期に呼吸中枢と横隔膜の調整をするための反射と言われています)。

・中枢(延髄、脳幹)から横隔膜に至までの神経経路(求心路:横隔神経・迷走神経・交感神経幹(T6-12)/遠心路:横隔神経・舌咽神経)を刺激する病態があれば発生するといわれていますが、いまだに詳細は不明です。

・持続時間により①吃逆発作;48時間以内、②持続性吃逆;48時間以上持続する、③難治性吃逆;1ヶ月以上持続する、に分類されます。Up to Dateでは、『難治性、もしくは吃逆により睡眠障害がある場合には器質的疾患を疑う』としています1)

 

原因は大きく分けて①横隔神経、舌因神経の物理的な障害、②中枢の制御機構の障害、③代謝性・薬剤の3つに分類されます。

①  横隔神経、舌因神経の障害

胃炎、胃膨満(呑気症、腸閉塞など)、GERD、横隔膜下病変、肝疾患、胸水、側壁心筋梗塞、縦隔疾患、胸部大動脈瘤、外耳道病変など

②  中枢の抑制機構の障害

脳幹病変(梗塞・出血・腫瘍)、脳動静脈奇形、髄膜炎・脳炎、神経梅毒、側頭動脈炎、多発性硬化症、水頭症、サルコイドーシスなど

③  代謝性・薬剤

低ナトリウム血症、低カルシウム血症、低炭酸ガス血症、アルコール、タバコ、尿毒症、アジソン病、コルチコステロン、ミタゾラム(ドルミカム)など

 

また、文献2にはそれ以外にこんなのも載っていました。

・中毒/代謝系:糖尿病、過換気、低カリウム血症、痛風、発熱

・薬剤:ベンゾジアゼピン、αメチルドパ、バルビツール

・胸部・横隔膜:肺炎、肺癌、喘息、胸膜炎、心膜炎、食道閉塞、横隔膜ヘルニア

・腹部疾患:胃潰瘍、胃癌、肝胆管系疾患、膵疾患、炎症性腸疾患、腹腔内・横隔膜下膿瘍、前立腺炎、前立腺癌

・耳鼻科疾患:咽頭炎、喉頭炎、腫瘍

・精神障害

・特発性

もはや病態生理では説明不可能なレベルですが(^^ゞ

 

診察に関しては薬剤歴などの問診、頭頸部・甲状腺・胸腹部・神経学的所見などの確認を行った上で、『難治性、もしくは吃逆により睡眠障害がある場合』は胸部X線、電解質を中心としたスクリーニング採血を行い、結果に応じて腹部エコー、頭部・胸部CT、上部消化管内視鏡などを追加していくのが現実的だと思います。

 

最後に治療です。民間療法の中で病態生理的に意味がありそうなのは『冷たい水をいっきに飲む』『いきなりびっくりさせる』『息止めをする』といったところでしょうか(少なくとも『おでこにつばをつける』のは意味がなさそうです(笑))。外来では『舌をひっぱる』『舌圧枝で舌を圧迫する』『綿棒で硬口蓋と軟口蓋の境界をマッサージする』『胃管で中咽頭を刺激する』『ペーパーバックを行う』なんかは、試してみる価値があるでしょう。薬物療法である程度エビデンスがあるのは以下の薬です(基本的には“self-limiting”なので、大規模な報告はありません)。

メトクロプラミド(プリンペランR):比較的報告が多く、副作用もほとんどなし

・ハロペリドール(セレネースR):3-5mgを分1で経口または皮下注.難治性吃逆には有効だけど外来では・・・入院症例には有効かも

クロルプロマジン(ウインタミンR):25mgを1日3回経口で.FDAで唯一許可され保険適応もあるが効果はイマイチ.眠気も多い

・バクロフェン(リオレサールR):いくつかの小規模RCTあり

・ガバペンチン(ガバペンR):中枢性の吃逆に有効との報告あり

・ニフェジピン(アダラートR):症例報告レベル

・漢方薬:熱証なら甘草瀉心湯、寒証なら呉茱萸湯など.薬局には柿のへたも売っているらしい・・・

『たかがしゃっくり、されどしゃっくり』ですね。「睡眠を妨げるしゃっくりなんて、何かの病気のサインかも?!」と思えるようになれば、貴方も立派なプライマリケア医です(^_^)b

 

1) Hiccups. Dynamed. Update 2008 May 12 03:00 PM

2) Fred F et al. Ferri’s Differential Diagnosis. Philadelphia, Mosby, 2006.

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