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“MAPSO”の呪文

生涯調整生存率(Disability-Adjusted Life Years(DALYs))を知っていますか?これは、WHO、世界銀行、ハーバード大学の協同研究で、「疾患によって毎日の生活がいかに不自由になるか」を『DALYs=早死による生命損失年数+障害を抱えて生きる年数』で表現したものです。分野別順位は①寄生虫を含む感染症(22.9%)、②予期せぬ外傷(11.0%)、③精神疾患(10.5%)、④循環器疾患(9.7%)、⑤呼吸器疾患(8.5%)、⑥周産期疾患(6.7%)、⑦悪性腫瘍(5.1%)となります。ま、何となく分かる順位ですよね。では、疾患別にみたらどうでしょう。①うつ病(10.4%)、 ②鉄欠乏性貧血 (4.7%)、③転倒による外傷(4.6%)、 ④アルコール性障害 (3.3%)、⑤慢性閉塞性障害 (3.1%)、⑥双極性障害(3.0%)、⑦ 先天性奇形(2.9%)、⑧ 変形性関節症(2.8%) 、⑨統合失調症(2.6%)、 ⑩強迫性障害(2.2%)・・・何と5つが精神科疾患なんです。じゃあ、それらの患者様のうち、何割程度の方が最初に精神科や心療内科(←この二つは違うんですが、それに関してはまた別の機会に)を受診すると思いますか?実は、たったの9.4%しかいないんです。この事実だけでも、プライマリケア医が精神疾患への適切なアプローチを覚えておく必要があることが分かると思います。

以前、心身相関の中で、『心身症を診るコツは、一般診察力を鍛えること』と書きました。「この訴えはやっぱり精神的なものだよなぁ」という気持ちをぐっとこらえ、「きっと何かあるハズ!」と“鑑別アンテネ”の感度をMaxにして臨みましょう(お勧めの検査項目はESR、TSH、ACTH、コルチゾール、フェリチン、ビタミンB12、亜鉛、Na、K、Cl、Ca、Mg、P辺りです(^◇^)b)。そのアンテナに引っかからなかった場合、あるいは引っかかったけれど“+α”がありそうな場合(ほとんどが後者だと思います)は、いよいよ精神的な背景因子の問診です。ここでは、管理人もよく使っている“MAPSOシステム”を紹介します。

 

“MAPSOシステム”は、『一般内科医がどうしたら精神科用語と概念を整理して理解していけばいいのか』、という方法を、米国の内科専門医/精神科専門医であるDr. R.K. Schneiderが考案したもので、日本では神奈川県の信愛クリニック院長の井出広幸先生が翻訳し普及に努められています。実際には、以下の項目に沿って問診を進めていきます。

 

M:mood(気分障害)

①     抑うつ気分「ここ一カ月、一日中気分が落ち込んでいることは?」

②     興味の喪失「ここ一カ月、以前楽しめていたことが楽しめなくなっていませんか?」

ž□ A:anxiety(不安障害)

①     全般性不安障害:「心配性ですか?」「その気持ちを抑えられますか?」

②     パニック発作:「胸がドキドキして死んでしまうかもと思うことは?」

③     強迫性障害:「窓や玄関のカギを何度も確認してしまいませんか?」

④     外傷後ストレス障害:「フラッシュバックするような経験はありますか?」

⑤     社会不安障害:「人前で話すことが怖くなることがありませんか?」

ž□ P:psychosis(精神病群)

 幻覚(幻聴、幻視、幻臭など)、妄想(関係妄想、被害妄想、心気妄想、誇大妄想など)、解体症状(錯乱、思考と行動の乖離など)の確認

ž□ S:substances(物質関連障害)

 薬物・カフェイン・ニコチン・覚醒剤・麻薬などの乱用、依存、離脱

ž□ O:organic/other(器質性/その他)

 

ちなみに不安障害はG: Generalized anxiety disorder(全般性不安障害)、P:Panic disorder(パニック障害)、 O: Obsessive compulsive disorder(強迫性障害)、 P: PTSD, S: Social anxiety disorder(恐怖症:社会不安性障害)の頭文字をとって“G‐POPS”と覚えます(当科の井野教授の考案です)。

 

管理人もこのシステムを数年前から使い始めていますが、“外来力”が格段にアップしたと感じています(自分で言うのも何ですが(^_^;))。それは、単に心身症が少し診られるようになったからだけではなく、「より深く、目の前の患者様のことを知ろう」と意識するようになったからです。そうすると外来が楽しくなります。患者様の深いところに入っていけるので、たくさんのドラマに出会うことができます。「・・・そういえば、娘さんのことで困ってたでしょ?あれ、どうなりました?」「それがねぇ、相変わらずなんですよ。あの子にはいつも困らされて・・・。それ以来夜も眠れなくなっちゃって。」「そんな悩みがあったら眠れなくても仕方ないですよ。上手にお薬使って寝ましょう。ちゃんと寝ないと体調崩しちゃいますしね。」・・・“MAPSOシステム”は『医者と患者』という関係を『人と人』の関係に変える魔法のツールだと思います。『プライマリケア医が行ううつ病治療』に関しては、また別の機会に・・・。

 

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