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オリンピック -もう1つの楽しみ方-

中日新聞のコラムで、イスラム教の『ラマダン』について書かれていました。イスラム社会で使われるヒジュラ暦の第9月の日の出から日没までの間、イスラム教徒の義務の一つである『断食(飲食ともに)』を行うもので、今年は7月下旬から8月下旬に当たるそうです。暑いさなか大丈夫かいな、と心配になってしまいますが、今年はさらに一大事!何と、ロンドンオリンピックの期間がまるまる『ラマダン』に当たるのだそうです。今回のオリンピックに参加するイスラム教徒の方はおよそ3000人と言われていますが・・・大丈夫でしょうか(・_・;)

 

さて、今回は『脱水』について書きます。まずは有名な1999年のJAMAの論文『Is This Patient Hypovolemic?』は押さえておきたいところです。失血や脱水に対しての身体所見の診断特性がまとめられています。ここでは脱水に関してのみ記載しておきますね(数値は左から順番に感度・特異度/陽性尤度比/陰性尤度比です)。

 

起立に伴う脈拍の上昇>30/分   43・75/1.7(0.7~4.0)/0.8(0.5~1.3)

起立性低血圧            29・81/1.5(0.5~4.6)/0.9(0.6~1.3)

腋窩の乾燥                                      50・82/2.8(1.4~5.4)/0.6(0.4~1.0)

口腔鼻腔粘膜の乾燥                        85・58/2.0(1.0~4.0/0.3(0.1~0.6)

舌の乾燥                                            59・73/2.1(0.8~5.8)/0.6(0.3~1.0)

溝舌                                                    85・58/2.0(1.0~4.0)/0.3(0.1~0.6)

眼窩の陥凹                                       62・82/3.4(1.0~12.2)/0.5(0.3~0.7)

混迷                                                   57・73/2.1(0.8~5.7)/0.6(0.4~1.0)

四肢の脱力                                     43・82/2.3(0.6~8.6)/0.7(0.5~1.0)

不明瞭な発語                                 56・82/2.3(0.6~8.6)/0.7(0.5~1.0)

毛細血管再充満時間の遷延       34・95/6.9(3.2~14.9)/0.7(0.5~0.9)

 

・・・あれ、確か『腋窩の乾燥』はすごく使えると思い込んでいたんですが、陽性尤度比はたったの2.8なんですね。これは結構微妙かも(*_*; 『溝舌の欠如』『粘膜の湿潤』『眼窩の陥凹の欠如』は、陰性所見としてはそれなりに使えそうですが、診断特性としてはやっぱり大したことなさそうです。しかもこの論文、脱水の定義を『BUN/Cre比が10以上、または血漿浸透圧が295mmol/kgH2O』としているじゃないですか?!BUN/Cr比なんて出血でも上がりますし、栄養状態が悪くても上がってしまいます。血漿浸透圧にしたって、血糖値や脱水以外によるナトリウム濃度の変化によりいくらでも変化してしまいます。しかも、厳密に定義するならば、脱水(dehydration)とは「細胞内からの水分喪失」で、いわゆる『高張性脱水』のことです。一方、『等張性脱水』は「細胞外液(血管内液・間質液)からのナトリウム喪失」を意味し、英語では“volume depletion”と表現されます。現実的には多くのケースでdehydrationとvolume depletionは併存していますので、両者をまとめてhypovolemiaと呼びます。もしかしたらこの論文、“volume depletion”の代表でもある消化管出血なんかも含まれているかも・・・。

 

あと、小児の脱水に対して13のスタディをまとめた『Is this child dehydrated?』では、『毛細血管再充満時間の遷延』は感度65%・特異度85%・尤度比4.1、『皮膚ツルゴールの異常』は感度58%・特異度76%・尤度比2.5、『呼吸の異常』は感度43%・特異度79%・尤度比2.0であり、この3つが脱水の診断に有用である、と報告しています(『口腔内乾燥』『眼窩陥凹』『反応の悪さ』などは使えないんだそうです)。ただ、これらのスタディは脱水の定義付けがバラバラですので、質としてはイマイチな気がします。

 

今回は、「脱水の診察は大切なんだ!」と強調するつもりで書きだしたのですが・・・全然説得力がなくなってしまいました(^_^;) 実際は、脱水に限らず色々な身体所見を組み合わせることにより、想起している疾患の検査前確率を上げていくことが、臨床の現場では大切なんです。是非やってみて下さい。あと、今回のオリンピックは「この国の出身ってことはもしかしたらイスラム教徒かも。ってことは今日水飲んでない?!」なんて楽しみ方(?)も、合わせてお勧めします(^◇^)

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