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湖上の煙〜PEに消えた巨匠〜

最近このブログで趣味に走りかけていて自重しようと思っていたんですが・・・今回は許して下さい(/ω\) 本日、キース・エマーソン(Emerson, Lake & Palmer)、リック・ウェイクマン(Yes)と並ぶ3大キーボディストであるDeep Purpleのジョン・ロードが亡くなりました。すい臓癌で闘病生活を送っていたのは知っていましたが・・・死因は『肺塞栓』なんだそうです。アグレッシブなプレイの中に常に気品を感じた彼のプレイがもう聴けないなんて残念でなりません。追悼の意味を込めて、今回は『肺塞栓』を扱います。

 

 

『肺塞栓症(pulmonary embolism;PE)』の米国での頻度は年間50万件におよび、治療が行われた場合の死亡率は5~8%,行われなかった場合は25~30%とされる致死率の高い疾患です。血栓は体内のどこからでも発生し得ますが、95%以上は膝下静脈より近位の静脈です。主に静脈血栓は静脈弁のポケットと呼ばれる場所の血流うっ滞する場所で発生し、大静脈→右心房→右心室→肺動脈という血液の流れに添って、肺動脈で目詰まりを起こす訳です。 患者様の中には『肺塞栓症=肺梗塞』と思われている方もいらっしゃいますが、肺は肺動脈と気管支動脈の二重支配を受けているので肺塞栓の90%は梗塞には至りません。

 

何より大切なのは“リスクファクター”です。以下のように分類すると分かりやすいと思います。『長期臥床』+『IVH』なんて病棟では日常茶飯事ですよね(^_^;) つまり、入院患者様はすべて肺塞栓のリスクがあると考えるべきです

 

  1. 血流の停滞長期臥床、長時間座位、手術、同一肢位、下肢深部静脈炎
  2. 血液の過凝固経口避妊薬、妊娠・分娩、悪性疾患、先天性異常(AT-Ⅲ欠損、プロテインC欠損、抗カルジオリピン抗体など)
  3. 血管内皮細胞の障害:外傷(下肢の骨折)、手術、IVH

 

身体所見の特徴も上げておきましょう。とにかく『どんな症状もPEを疑え!』です。

 

  • 4~12%は胸骨裏の胸痛を訴えますが、『典型的な胸痛』を呈するのはわずか15%
  • 『呼吸苦』は70~92%に認めるが、若年者や末梢での塞栓では認めにくい
  • 『喀血』は有名だが7~28%しか認めない
  • 94%は『胸痛』、『呼吸苦』、『喀血』のいずれかを呈する
  • 8~35%が『失神』を呈するため、『胸痛』などを自覚しないこともある
  • 診断的意義は低いが、頻呼吸は70~80%、頻脈は41~58%に認める(脈拍>90の陰性尤度比は0.03→否定には使えます)。
  • 発熱を15~50%に認めるため肺炎と誤診されやすい
  • 明らかな下肢の腫脹を認めるのは17~35%しかない
  • その他、ⅡP音亢進(特異度84%)、Ⅳ音ギャロップ、頸静脈怒張、胸膜摩擦音などいずれも診断に結びつくものはない

 

ちなみに、NEJMでは積極的にWells ScoreやGeneva Scoreを使うことを推奨しています(NEJM, Dec.25,2008, Clinical Practice)。

 

PEの検査所見の典型的な検査所見は覚えておく必要があるますが、これらが揃ったPEなんて、正直出会ったことがありません(~_~;)

 

  • 動脈血ガス分析:PaO2低下、PaCO2低下
  • 血液検査:WBC上昇、D-dimer上昇
  • 心電図: S1Q3T3パターン、V1-3の陰性T波
  • 心エコー:右房・右室の拡大、左室の狭小化、心室中隔の扁平化(D-shape)
  • 胸部XP:肺門部肺動脈の拡大、Westermarkサイン(末梢肺野の透過性亢進)、Hampton’s hump(胸膜を底辺とした楔形の陰影)
  • 胸部CT・MRI:肺動脈内血栓の描出
  • 肺血流シンチ:血流欠損
  • 肺動脈造影、深部静脈造影:造影欠損像

 

Wells ScoreとD-dimerで0.05をカットオフ値とした場合、『Wells Scoreで低リスク+D-dimer正常』ならそれ以上の精査は必要ないと言われます(Stein PD et al. D-dimer for the exclusion of acute venous thrombosis and pulmonary embolism: a systematic review. Ann Intern Med. 2004 Apr 20; 140(8): 589-602. )。ちなみに、心電図とWells Scoreを組み合わせても、診断の感度・特異度は変わりありません(Appropriateness of Diagnostic Management and Outcomes of Suspected Pulmonary Embolis, Ann Int Med. 7 February 2006 Volume 144 Issue 3 Pages 157-164. )

 

最後に治療です。少なくとも2番までは覚えておいて下さいね。

 

  1. 初期治療:必要に応じ酸素や鎮痛剤投与.カテコラミンの持続静注など
  2. ヘパリンの投与:新たな血栓の予防のため5~10日間の投与.80U/kg静注18U/kg/時を持続静注
  3. ワーファリンの内服:効果発現に数日要するためヘパリンと4~5日重複させるように開始.PT-INRを2.0~3.0に調整
  4. 血栓溶解療法:血行動態が不安定、50%以上の肺動脈閉塞で考慮
  5. 抗凝固療法が禁忌の場合:一時的または永久的下大静脈フィルターを考慮
  6. 内科的治療に反応しない重症例:血栓除去術も検討(ただし周術死は非常に高い)

 

今回のジョンも悪性疾患の既往、長期臥床などリスクの高い状態だったと推察します。救急外来ではもちろん、病棟の患者様を担当する医師は、必ず押さえておいて欲しい疾患です。

 

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